朝の覚悟
カチャカチャ……コトン……
「翔太君、少し元気がないようだけど何かあったのかい?」
バイト中、お客さんが少なくなってきたタイミングで誠さんがそんなことを言ってきた。
「えっ、すみません」
「ああ、大丈夫だよ。少し心配なだけだから」
不安なことと言えば実家に帰ることだけど……バイト中だし表には出さないようにしていたつもりだったのに、出てしまっていたらしい。どうしようもないんだし、切り替えないとな……。
「すみません。ちょっと悩み事というか……そんな、大したことではないので」
カウンターの掃除をしながら答えると、誠さんは少し困ったような目をした。そして静かに息を吐いてから優しく笑って言ってくる。
「何か相談とかがあったら聞くよ。話せば楽になることもあるしね」
「……ありがとうございます」
相談……か。今まで、あまりしたことが無いな……。
誠さんは俺よりも色々なことを経験しているだろうし、相談すれば有意義な意見を聞けるのだろうか。
……。
「……何かあったらお願いします」
「うん。いつでもいいからね」
~~~
実家に帰る日になった。
「ふー……」
家を出る時間になって、何か忘れていないかと部屋を見渡す。
……無いな。元々必要ないものは置いていないし、いつも通りの家事だったし。……何かあってほしかった。
自分の思考をおかしく思いながら、いつものバッグを持って玄関に向かった。
重い足を引きずるように家を出て、鍵を回す。
……次にここに戻ってくるときには、俺はどうなっているだろうか。ちゃんと整理をつけて帰ってきているだろうか。
不安感を感じながら鍵を抜く。そうすると、そこについた2つのキーホルダーが目に入った。その時、なんとなく覚悟が決まった。
……頑張ろうか。昔のことでいつまでも心配をかけていられないからな。
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