てっぺん
ワイワイザワザワ
午前中に色々なアトラクションをまわって、それから俺たちは遊園地内のレストランに来ていた。
食事中、今まで乗ったアトラクションの話をしていたところで小畑さんがこれからの予定について話してきた。
「じゃあさ、食べ終わったらもう一つのジェットコースターの方に行こうよ!」
「え」
「は?」
「は?」
おおう……。宮本さんの「は?」は初めて聞いた。
まあ、苦手だと言っているのに一番気分が悪くなりやすいタイミングに行こうと言われたらそういう反応になることもあるか。信じられないという顔をしてるし。本当に「何言ってるの?」という感じなんだろう。まあ、言われた小畑さんは頭の上にクエスチョンマークが浮かぶような反応をしているわけだけど。
「いや……食ってすぐとか絶対気持ち悪くなるぞ」
「ああ、確かに……。じゃあ、グッズでも買いに行こう!」
「うん。そうだね。そうしよう」
安心した様子で宮本さんが答える。そして、どこか気合を入ったような表情をしていた。
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「ねえ、こんなのどうかな?」
売店で有輝と並んで商品を眺めていたら宮本さんが声をかけてきた。宮本さんが抱きかかえるようにして持ってきたのは、可愛らしいこの遊園地のマスコットキャラクターのぬいぐるみ。結構大きいサイズで宮本さんの身長の半分くらいの大きさがある。値段もそれなりにするんじゃないだろうか。
それはそれとして……大きいぬいぐるみを抱えていると、いつもよりどこか幼く感じるな……。さっき宮本さんの声に振り返ったときには少し驚いてしまった。
「あの……石川君?」
「あ、うん。かわいいね」
「……、あ、そ、そうだよね。これね」
そう言いながら宮本さんは俺の方にぬいぐるみを差し出すようにしてくる。受け取ると、重量もそこそこあった。
「あ、結構重い。かわいいけど……これ結構高くない?お金あるの?」
「っあー……。うわ、すごい高かった……」
俺が持っているぬいぐるみのタグを宮本さんが確認してつぶやいた。俺も見せてもらうとタグにはそう気軽には買えない値段が表記されていた。
「あはは……これはちょっと無理だね」
「うん……」
宮本さんは少し残念そうにそう答えた。
2人でぬいぐるみのある場所まで戻しに歩く。そこでふと有輝の姿がないことに気付いた。
「あれ、有輝どこ行ったんだろ」
宮本さんが来るまでは一緒に居たのだけど、いつの間にかいなくなっていた。
「さっきまではいたんだけど」
「え、そうなの?」
「うん」
ぬいぐるみを置いて、周りを見てみても有輝の姿はなかった。
……本当にいつの間に居なくなったんだ?
「た、多分その辺にいるんじゃないかな?」
「……うん。まあ、そうだね」
まあ、そうだよな。それにしても一言言ってくれてもいいのに。
そんなことを思っていると、宮本さんがさっきよりも小さいサイズのぬいぐるみを手に持ちながらちょんちょんと腕をつついてきた。
「ねえ、石川君。こんなのどう?」
「いいんじゃない?……宮本さんってぬいぐるみとか好きだったんだね」
意外……ではないか。貰ったキーホルダーも可愛らしかったし。
「うん。部屋にたくさんあるんだよね。……石川君も、こういうのどう?」
宮本さんが持っているぬいぐるみを見る。まあ、かわいいけど、要るかと言われると……要らないかなあ。
「うーん……俺はいいかなあ」
「そっか……」
宮本さんは少し残念そうにそう言って、持っていたぬいぐるみを元の場所に丁寧に戻した。
あれ、宮本さんは要らないのだろうか。
そう思ったところで宮本さんが「じゃあさ」と言いながらパッとこちらを向い来る。
「じゃあさ、普通のクッションとかは?石川君持ってなかったよね?」
一瞬なんで知ってるのと思ったけど、うちに来たことあったんだった。
クッションか……。実家のリビングにはあったと思うけど、別に必要ないかな。
「うん、ないけど……あまり困ってないし、要らないかな」
「ううーん……」
宮本さんは微妙な顔をする。え、要ると言ったほうが良かったのだろうか。いや、クッションが要ると言ったほうがいい状況って何?そんなことあるの?
「あ!いたいた!」
小畑さんの声がしたほうを見ると、有輝と二人でこちらに歩いてきていた。
「七緒。どうしたの?」
「いや、せっかくだからさ、みんなでお揃いの物でも買わない?って話してたんだけど」
「あ、良いね!」
嬉しそうな宮本さんに反して小畑さんは浮かない表情をしていた。その表情は若干怒っているようにも見える。その横で有輝もむすっとしているような気がするし。
なんでだろう?何を買うかで揉めたとか?いや、そんなことでこんな喧嘩みたいな……いや、ありそうだな。
「でさ、これとこれ、どっちがいいと思う⁉」
ほんとにそんなことで喧嘩してた。小畑さんが出したのはキーホルダーで一つはマスコットの可愛らしい全体像が描かれたもの、もう一つは変顔?をしたマスコットの顔面が書かれたものだった。
正直、思い出の品を選ぼうと言って後者を選ぶ人はいないんじゃないだろうか。そう思えるくらい何とも言えない可愛くもない変顔のキーホルダーだった。
「え、……こっちかな?」
「……俺も」
俺と宮本さんが同じ方を選ぶと、有輝が「えー、マジかよ」とつぶやく。一緒にユーフォーキャッチャーで遊んだ時も思ったけど、ちょっとかわいいの基準が人と違う気がするな……。まあ、いいや。
「というか、いつの間に選んでたんだね」
「あ、ごめんごめん。じゃあ、皆で見にいこっか」
「いや別にそう言うわけじゃないんだけど」
「よし、いこいこ」
小畑さんは宮本さんの手を取って歩き始めてしまった。……さっきの奴でもよかったんだけどな。
結局、小畑さんが最初に選んでいたやつを買った。ついでに、お土産ということで喫茶店の誠さんと美智子さんの分と、……実家の家族の分のお菓子も買った。
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少し歩いてから俺たちはもう一つの方のジェットコースターに来ていた。
そして、俺の隣では宮本さんが少し下を向いて暗い顔をしている。
さっきグッとパーをしたところ、宮本さんとペアになったので、こうして順番を待っている。このジェットコースターは2人ペアで乗るタイプなので有輝と小畑さんのペアはもう先に出発してしまっている。
「うぅ……急に怖くなってきた……」
最初に乗ったジェットコースターのほうが怖そうだと思っていたようなのだけど、実際にコマのようにぐるぐると回されながら凄いスピードで走らされている様子を見たら恐怖心が湧いてきてしまったらしい。
「ここまで来たらって感じあるけど……大丈夫?」
「そうだよね……もう覚悟決めるしかないよね」
「あはは……行っちゃえば結構あっさり終わるんじゃないかな」
励ませてるのかなこれ。まあ、本人は頑張るぞとでも言ってそうな感じになってるし、いいか。
そんな話をしていると俺たちが乗るであろうものが空いた。
コマのようにぐるぐると回らせられながら、蛇のようなグネグネした道をそこそこの速さで走らされた。もう見た感じ先はないので終わりだろう。
乱れた前髪を直しながら宮本さんの方の様子を伺うと少し下を向いて固まっていた。
あれ、途中までは結構楽しそうにしてたのに。いや、たのしそう、というか悲鳴を上げてた感じだったけど。
「酔った……かも」
「え、大丈夫?」
「うん……でも、これご飯の後に乗ってたらヤバかったかも……」
「あー……」
ジェットコースターから降りて、少しふらついている宮本さんに手を貸す。
「あ、ありがとう……」
俺の手を取って軽く体重を預けるようにしてくる。それと同時にふわっと甘い香りがする。
……これ、有輝と小畑さんなら問題ないけど、他に知ってる人に見られたら大変なことになるな。まあ、私服だし知ってる人がいたとしてもばれないんじゃないかと思うけど。
宮本さんがまたベンチで休んでいて、その横に小畑さんが座っている。
「色々乗ったねー」
「そうだね」
「あのジェットコースターは見た目のわりに激しかったな。満足だわー」
みんな満足……一人かなり疲れてるけど、まあ、楽しそうだしいいだろう。
俺も、久しぶりに来て、楽しかったかな。
「じゃ、最後はあれだね」
小畑さんが指をさしながら言う。あちらの方向にあるのは……。
「あれ?」
「あれだよ、あれ!」
「ああ、観覧車」
小畑さんが指さしてたのは観覧車。観覧車か……。
時間を見た感じ、もうこのアトラクションが最後だろう。
「おお~すっごー……。めっちゃ景色いい!」
まだ頂上どころかその半分も言っていないくらいで小畑さんがそんなことを言う。
「うわあ……あんなに地面が遠い……」
宮本さんはあまり高いところが苦手なようで、そんなことを言っていた。
「下見ると怖いから、景色見たほうがいいんじゃないかな」
「う、うん……」
「ちょ、揺れるから小畑そんなに動くなよ」
「えー?怖いの?」
「怖くないわ」
小畑さんがあっちの景色こっちの景色と四方八方の写真を撮っていることで少しだけ観覧車が揺れているのを感じながらそんなやり取りを聞いていると、なんとなく懐かしいような感じがした。
小6の時、家族で遊園地に来た時も最後に乗ったのは観覧車だった気がする。あの時は……楽しかったのだろうか。
何となく、携帯のカメラ機能を使って写真を撮った。みんなが外を見ていてあそこがどうだ、あのアトラクションはあそこだと、話している様子が携帯にうつっている。
なぜだか視界が揺れて、涙が頬を伝った。
「……」
涙が流れてることに気付いて、それを雑に拭う。涙が出ているところなんて見られたら心配をかけてしまうから。
そして、ズレた眼鏡を直していると小畑さんがみんなに呼びかけた。
「あ、そうだ!天辺でみんなで写真撮ろうよ」
「お、いいな。そうするか」
しばらくして、頂上に差し掛かったところで、小畑さんの携帯で写真を撮った。
そして、その写真をみんなで確認する。
みんな楽しそうに映っているその写真を見ていると、自然と口から言葉がこぼれた。
「……楽しかったね」
俺の言葉に、皆こちらを向く。そして一瞬時間をおいて、返事が返ってきた。
「そうだな」
「うん。楽しかった」
「また来ようね!」
実家に帰るということは凄く憂鬱だけど、何故だか心の整理がついて気がする。前に進もうと思えている。
よし、頑張ろう。
10万字突破してる~。いつも読んでいただき、ありがとうございます。
次回から実家編
次話は短めになるかも?




