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ワイワイ、ガヤガヤ……ゴーーーー……

「何から乗ろうか?」


「やっぱり最初は定番のジェットコースターじゃない?」


 小畑さんに委ねといてなんだけど最初から飛ばすなあ……。


 小畑さんのその言葉を聞いて宮本さんが微妙な顔をしている。


「……大丈夫?」


「大丈夫……行くなら最初にきついの行っておきたいから」


 うん、まあ、そう言うことならいいか……。無理そうなら、ジェットコースターには二人で乗ってきてもらおう。


「じゃあ、どっち乗るかだな」


 待ちきれないといった様子で有輝が言う。


 数日前からメッセージアプリでこの遊園地のことを話したりしていたので、この遊園地にジェットコースターが二つあることはみんなわかっている。簡単に分けるなら大きいものと小さいものがある。大きいジェットコースターはよくある普通のもので、小さいジェットコースターは2人乗りで乗っている部分も横回転するものだ。


「俺はどっちでもいいよ」


「俺も。どうせ両方乗るしな」


「美月は?」


「私は……大きいほうかな?」


 大きいほうが怖そうだと思うのだけどそっちから行くのか……。行くなら一番きつそうなの行っちゃえってことなのだろうか。


「おっけー!じゃあ、決まりっ!あっちだったよね?」


 小畑さんが指をさしながら聞いてくる。


 いつもテンション高めの小畑さんだけど、今日はいつにもまして元気だ。有輝も最初は緊張してるとか言っていたけど、集まれば楽しそうにしているし、宮本さんも絶叫系のアトラクションの話をしている時以外はいつもよりもソワソワしている感じがする。


 ……俺も楽しまないとな。


「うん。そっちであってるよ。混みだす前に行こうか」


「じゃあ、レッツゴー!」


 レッツゴーって、やっぱり小畑さん滅茶苦茶テンション高いな……。







 ジェットコースターの乗り場で、順番を待つ。


 ジェットコースターは2列で乗るタイプだったので、俺たちは2組に分かれているのだけど……。


「なんか、この分かれ方は珍しいよね」


「うーん……確かに小畑さんと2人は珍しいかもね」


 グッとパーで分かれたこともあって珍しい組み合わせだ。てっきり男女で分かれることになると思っていたので、小畑さんがグッとパーで決めると言い出した時は驚いた。


 分かれてからそう言葉を交わしてたところですぐに俺たちの順番がきた。今日は空いているみたいでほとんど並ばなかった。


 ジェットコースターに乗るということで、外ではいつもかけている度の入っていない眼鏡を外しているので少し落ち着かない。戻ってきた時にはちょっと気を付けたほうがいいな。


 外した時には有輝以外の2人からは外して平気なのかと聞かれたけど、ほとんど度が入ってないからと言っておいた。


「ま、2人って言っても前にはいるけどね」


 乗り込みながらそう言うと、小畑さんは笑って「まあね」と返してきた。何ならこの会話も聞こえているかもしれないな。聞いているかはわからないけど。



 ベルトを締めて、安全バーが下ろされる。


 そして係員の人が安全確認をして、しばらく待つと合図の声とともにジェットコースターが動き出した。


「石川」


「うん?」


 「結構緊張するね!」とかそういうことを言われるかと思っていたのだけど、そんな雰囲気ではない。先ほどまで跳ねるようだった口調も落ち着いたものになっていた。


 ジェットコースターの一番前が上昇を始めたくらいで小畑さんは次の言葉をつづけた。


「その……最近、大丈夫?」


「え、大丈夫って、何が?」


 反射的にそう返した。


「その……色々。この前も試験結果でなんか言われたりしてたし、ほら、細川さんとか……家族とか」


 安全バーがあるので小畑さんの顔は見えないのだけど、なんとなく表情が想像できた。多分、あの日、球技大会の日のあの時のような顔をしているんだろう。


 なんで今?とも思うけど、2人で話せる機会をうかがっていたのだろう。それに、随分とタイムリーな話だ。


「……大丈夫だよ」


 心配させないように、というのも少しあったけど、ほぼ本心でそう答えた。


「みんなのおかげでちょっと余裕が出てきたと思う」


「そっ……か」


「今度……って、そんなこと言ってる場合じゃないな。せっかくだし景色を楽しまないと」


「いや、気になるんだけど……確かにね」


 ジェットコースターはもうすぐ一番高いところに着こうとしていた。小畑さんは思い出したように「うわー!たっか!めっちゃ遠くまで見えるじゃん!」と弾むような声を上げていた。







 体が前に持っていかれる感覚がして、ジェットコースターが減速する。そして、目の前の乗り場へと入っていく。手を乱れた前髪にやって、眼が隠れるように直す。


 一番高いところから下まで一気に落とされたと思ったら、二連続で落ちて上がってを繰り返されたり、横向きにぐるぐると回転されたりした。


なんか、あっという間に終わってしまった感じがするな。落ちている時も回っている時も結構景色が確認できて、怖くはなかった。昔乗ったときは少し怖くていい感じの緊張感があったのだけど……まあ、前乗ったときは小学生だもんなあ。


 元の位置にジェットコースターが戻ると安全レバーが上がる。ジェットコースターから降りたところで小畑さんが興奮した様子で話しかけてきた。


「いやー!良かったね!めっちゃ景色良かった!」


「めっちゃ高かったな!あと俺、あの横にぐるぐる回るの好きだわ」


「あーあれも良かったね!」


 仕舞っていた持ち物を取り出しながら楽しそうに話している2人に少し遅れる形で宮本さんがつぶやく。


「今も世界が回ってる気がする……」


「あはは、大丈夫?宮本さん」


 ぐったりというわけではないけど、足が落ち着かないのか若干よたよたしている。


「うん。大丈夫……」


 具合が悪くなったというわけではなさそうだけど、これはちょっとベンチで休んだ方がいいかもな。





 有輝と小畑さんがもう一回ジェットコースターに乗りたいとか言っていた所、宮本さんが「少し休みたいから乗ってきていいよ」と言ったので二人はもう一度さっきのジェットコースターの方に行った。


 多分人気のアトラクションだろうし、乗れるときに乗っておこうという感じだろう。


 そういうわけで、ジェットコースターの出てくるところが見えるベンチで宮本さんと二人になっている。


「結構激しかったね。ジェットコースター」


「ねー……。ちょっと酔っちゃったよ」


 「二人は元気だよね」と宮本さんが笑う。こうしているといつも通りという感じがして落ち着く。


 二人はまだ並んでいるだろうし、あと2つか3つあとくらいのものに乗って出てくるかな。




 先程の小畑さんのあれは……ずっと心配してくれていたんだろうな。


 小畑さんは時々大丈夫かと聞いてくる。あと、俺の眼を覗き込んだりもして来たりするな……。最初に会ったとき、球技大会の時、あとは……ノートを貸した時、それ以外にも数回。


 それ以外にも普段から気を使ってくれているんだろうなということも多い。そして、毎回ちょうどいいタイミングだったりする。


 さっきのも言われたときはドキッとしたくらいだ。


 その理由は……お盆の最初に実家に帰る予定だったから。


 ……本当にタイミングがいい。


 小畑さんにも言ったけど、みんなのおかげで最近は精神的に余裕が出てきたと思う。最近は時々中3の時のことを考えたりもしている。



 あの時、あんな風になってしまったのは、俺が逃げたから。一度信じてもらえなかっただけで信じてもらおうとしなかったから。


 もう遅いかもしれないけど、いつまでも逃げてばかりはよくないと思うようになってきた。だから、次に実家に帰る時に一歩進みたい。逃げずに、ちゃんと話をしたい。


 なんて、そんなことを考えていたところだったから、本当にさっきはびっくりしたなあ……。


「石川君?」


 思考に割り込むように宮本さんの声が聞こえてくる。


「あ、ごめん。何?」


「いや、その……ぼーっとしてたみたいだから」


 家族や昔の友達と比べるのは良くないかもしれないけど、この人たちは本当に俺をよく見てくれていると思う。


「あー……ごめん。ちょっと考え事」


「何かあった?」


「いや、そんな大したことじゃないよ」


 心配そうに聞いてくるので、声のトーンを少し上げて答える。


「そう?」


「うん。……みんなで遊ぶの、楽しいと思ってさ」




いつも読んでいただきありがとうございます。



コマみたいに回るタイプのジェットコースター楽しい。


あとコロナの影響で後ろから追いかける様になって、お化け屋敷は怖さ増したと思う。

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