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プレゼント

サ―――――――――・・・・・・・・・・・

「また学校で」


「うん。気を付けてね」


 傘は折り畳みの傘と普通の傘の2本持っているので駅まで送っていこうかと言ったのだけど、宮本さんが流石に悪いと言うので傘を貸すだけということになった。


 宮本さんがドアを開けると携帯の天気予報の通りに先ほどまでより天気が回復していて、普通の雨という感じになっていた。


「じゃあ、お邪魔しました」


「気を付けてね」


 ひらひらと手を振って宮本さんがそう言うので、それに返すように手をあげて見送った。


「……ふう」


 ガチャンとドアが閉まったところで、俺は大きく息を吐いた。


 何と言うか、緊張した……。



 部屋に戻って中を見渡すと、なんとなく少し寂しいような感じがする。


 ……さっきまでここに宮本さんがいたんだよな。


 そう考えると、さっき傘に宮本さんが入ってきた時にふんわりと漂ってきた甘い香りが残っているような気がして、なんとなく恥ずかしくなってくる。



 ……本でも読むか。


 心の乱れを正そうとしているとさっき机の上に出した本が目に留まった。


 おすすめしてもらったものだし、どれほど面白いのか興味がある。見知らぬ人に勧めてくるくらいだ。本当に面白いと思う本なんだろう。


 俺はいつもよりも大きな期待を持って本を開いた。



~~~



 土日が明けて、月曜日。俺はいつも通り朝食を食べて、そのあまりや作り置きのおかずを使って弁当を作っている。


 ……もうそろそろ出る時間だな。


 時計を見ると、もう少ししたら出ないといけないくらいの時間になっている。


 ――ピロンッ


 ……うん?こんな時間にメッセージ?いったい誰だろう。……多分有輝かな?


 勉強机の上に置いていた携帯が通知音を鳴らした。宮本さんと小畑さんはこんな時間にメッセージを送ってきたことはないし、母親は通知を切っているし、父親と妹はメッセージを送ってくるわけがない。有輝もこの時間にメッセージを送ってくるのは珍しいのだけど、まあ、多分有輝だろう。


 弁当を鞄に入れてから、携帯を見ると予想は外れていた。通知の一番最初に「宮本美月」という表示がある。


 ……宮本さん?なんだろう?こんな時間に。


 アプリを起動すると、宮本さんとの会話に『まだ家にいる?』というメッセージが新しく表示されていた。


 あー……。


 それを見てなんとなくわかった。多分、傘を返しに来てくれているんだろう。……ということは……。


 鞄を持って玄関まで行き、ドアを開ける。


 そこには予想通り、宮本さんがいた。宮本さんは携帯の画面の反射で髪を整えていたようで、目が合うとすごい早さで顔を隠される。……ちょっと悪いことをしたかもしれない。返信してから出ればよかった。


「あー、おはよ。宮本さん」


「お、おはよう……」


「えっと、傘だよね?」


「うん。これ、ほんとにありがとう」


 右手に俺の傘を持っていたのでそう言うと、両手で傘を持って渡してくれた。


「あの……」


「うん?」


「その、……これ、お礼です!」


 そう言って、宮本さんが小さな紙の袋を渡してくる。


「え、……それは、ありがとう」


 「受け取ってください!」という声が聞こえてきそうな勢いで差し出されたので、つい受け取ってしまったけど、傘一つでお礼なんて。


「えっと……嬉しいけど、傘一つでそんなお礼なんて良いのに……」


「そ、そんな大したものじゃないから。いや、ちゃんと色々考えはしたんだけど……」


 ちょっとアワアワとしながらつぶやくようにそう言う宮本さんは見ていて少し面白い。小さな袋で中に入っているものは更に小さいので、そんなに値が張るものじゃないという意味での大したものじゃないなんだろう。この大きさでこの感じだと、キーホルダーか何かだろうか?


「えっと……そ、そう!ちょっとしたプレゼントだと思ってくれれば……」


「プレゼント……」


 プレゼント。久しぶりに聞く言葉で、少し驚いた。もらったのは小学生の時以来じゃないだろうか。あげるのも、毎年妹には何かしら渡していたのだけど、去年はそれどころじゃなかったのであげられていない。妹の、遥の誕生日は11月18日。今年は……今年も渡せないだろうな。


「ありがとう」


「ど、どういたしまして……じゃないか。私の方こそありがとう」


 そう言って笑う宮本さんは元々とても可愛らしい容姿をしているけれど、更に可愛らしく見える。


「これ、開けてもいい?」


「うん。気に入ってくれたらいいんだけど……」


 その返答を聞いてから、袋を丁寧に開けて、中の物を取り出す。


 それは、予想通りキーホルダーのようで、可愛らしいキツネが傘をさしているものだった。


「それね、私が好きなキャラクターのキーホルダーなんだけど……」


「メッセージアプリのスタンプも持ってたよね。……ありがとう。キーホルダーだし、これにつけようかな」


 家の鍵を取り出して、それをつける。


 さっきまではどうでもいいただの道具だった鍵が、これだけで使うのが少し楽しくなるような気がしてくるのだから不思議なものだ。


「ありがとう」


「うん!」


 キーホルダーのついた鍵を見せながらお礼を言うと、宮本さんは嬉しそうにそう答えた。


「じゃあ、学校に行くか」


「あ、そうだね。もうこんな時間」


 携帯の時計を見ると思ったよりも時間が過ぎていて、すぐに出発しないと間に合わないくらいの時間になっていた。






「そう言えば、石川君の誕生日っていつ?」


「え?」


「誕生日。ほら、プレゼントとか、誕生日会とかしたいなーって」


 通学路を二人で歩いていると、ふと宮本さんがそんなことを言ってきた。嬉しそうにそんなことを言われると、少し困ってしまう。いや、初めて聞かれたし、自分から言うのもあれなのでどうしようもない……いや、普通誕生日なら誕生日って言うか……?


「ろ、6月4日……」


「ろく、がつ……。」


 6月4日。そして今は7月の中盤に入っている。


「え、今年度の誕生日もう過ぎてる?」


「あー、うん」


 わかりきったことを確認してくる宮本さんは、目だけで「なんで言ってくれなかったの?」と伝えてきているような気がした。




平和が一番。

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