2回戦、答え合わせ
パクパクもぐもぐ
「ん!おいしい!」
「それは良かった。今度美智子さんに言っておくよ」
なんとなくのイメージでクリームパスタを薦めてみたら口にあったようで、宮本さんは嬉しそうに食べている。……機嫌がよさそうなのは、さっき答え合わせをした数1が完璧だったからというのもあるのだろう。……俺は、多分だけど一つだけ間違えてしまっていた。……前回も数学は俺が負けていたし、ちょっと悔しいな。
「美智子さん?」
「うん。これ作ってる人。優しい人だよ」
「へー……」
宮本さんはそう答えて、クリームパスタの中に入っていたブロッコリーをじっと見つめてからパクパクと口に運んでいた。
「そっか……なるほど……」
「……」
試験最終日、つまり今日、受けた試験の分の答え合わせが終わった。今日の試験は数1、地理、現代文だったのだけど、数1は宮本さんが完璧に解けていて、地理は漢字等でミスをしていなければ二人とも完璧に解けていたと思う。そして、現代文は、恐らく宮本さんは何点か落としていそうだという感じだった。
今は、丁度現代文の答え合わせが終わったところで、宮本さんがちょっと……いや、結構悔しそうにしているところだ。
「じゃあ、次は……数A!」
少しして、宮本さんはクリアファイルに手を伸ばし、中から出てきた問題用紙の教科を伝えてきた。
あ、そういえば……
「俺今日の教科以外の問題用紙持ってないや」
「あ、そっか……そうだよね」
今日の教科の分は当然持っていたけど、昨日までの分は家に置いてきてしまった。……となると、どうしようもないし……。
「見せてもらってもいい?向きはそのままでいいから」
「え、良いけど……大丈夫なの?」
「うん。平気」
まあ、問題を見るだけだしな。答えが大体どうなったかは問題見れば思い出せるし、問題ないだろう。
「…ねえ、石川君」
「うん?」
数Aの答え合わせを進めて半分くらいしたところで、宮本さんが改まって言ってきた。
「やっぱり、この向きだと見にくいんじゃないかな?」
「……まあ、ちょっと見にくいけど、これくらいは大丈夫だよ」
まあ、多少数式とか問題文の情報が読み取りにくくはあるけど、大した問題じゃない。わざわざ、テーブルの真ん中に横に置いたりというのは、流石に申し訳ない。これは宮本さんの問題用紙なわけだし。
気を使わせないようにと思って宮本さんの問いに答えたのだけど、宮本さんは少し落ち着かない様子で言葉をつづけた。
「いや、そうじゃなくって……と、隣に座れば、見やすいんじゃないかな……って」
……ああ、確かに。普段こういうテーブルに座るときは女子と男子で別れて対面になるように座っているので、そういう発想はなかった。
「……じゃあ、そっち座ろうかな」
「う、うん」
俺は席を立って、宮本さんの横に座った。そうすると、宮本さんは問題用紙が俺との間に置かれるように、問題用紙をこちらにずらしてくれた。
「……いや、でも実際に結果が返されるまではわからないし……」
「……」
全教科の答え合わせが終わった。結果は、何とも微妙な感じだった。絶対とは言えないけど、答え合わせの通りだったら、合計では俺が勝っている。でも、ケアレスミスだったり、思いがけないミスを少しでもしていたら逆転しそうな感じだった。特に俺は3分の2の教科の問題用紙を持っていなかったので、答え合わせからずれることも可能性としては大いにあるだろう。
それでも、俺の隣で宮本さんは悔しそうにして、口をとがらせていた。
「それに……ほら、もうこんな時間だし、天気も不穏な感じがするし、そろそろ帰らないと」
「そうだね……。まだわからないもんね……」
「うん……まあ……」
あれ、時間と天気の話聞いてた?……宮本さんって、なんというか、一つのことに集中すると周りが見えなくなりがちなところあるよなあ……。ここまで話を聞いてないというのは滅多にないけど。
会計を済ませて、外を見ると空が少し薄暗くなっていた。
「じゃあ、失礼します」
「ごちそうさまでした」
長々と居座って答え合わせをしていたので少し申し訳なく思いながら、誠さんに挨拶をして店を出た。ここから駅までは10分しないくらいだけど、歩くことになる。
……その間に雨が降らないといいんだけど。
なんてことを思ったのが良くなかったのか、2,3分ほど歩いたところで、雨粒が降ってくるのを感じた。
「……ちょっと降ってきたね」
「あれ、そう?……あ、ほんとだ」
手のひらを上に向けたら宮本さんも雨に気付いたらしく、そう答える。そして、少しずつ雨は強くなっているようだったので、俺たちはそれぞれ持っている折り畳み傘を取り出した。
宮本さんが鞄の中から薄い緑色の折り畳み傘を取り出す。それを開こうとした時、びゅうっと強い風が吹いた。
「きゃっ!」
「あっ……」
――バサバサッ
宮本さんの悲鳴のような声とともに、宮本さんの傘が裏返って風に吹かれる音が鳴る。
宮本さんの傘は完全に骨組みが折れてしまったようで、不自然な形でプラプラと揺れていた。
「ど、どうしよう……」
「宮本さん、取り敢えず入って」
そのままだと降り始めた雨に濡れてしまうので、幸い壊れなかった俺の傘に入るように言う。そうすると、宮本さんは「え、あ、うん」と言って少し戸惑った様子を見せながら俺の傘に入ってきた。
「あ、ありがとう……」
「いや、どういたしまして……」
……ち、近いな、これ。すっとこちらに来たときに、甘い香りがふわりと漂ってきた。お、落ち着こう。取り敢えずは、この後どうするかだ。
「えっと……あー……良かったら俺の傘貸すよ」
「いや、でもそしたら石川君が……」
その点は問題ない。俺の家は店と駅との中間くらいの位置にあるので、実はもう目と鼻の先だ。
「俺の家もうすぐそこだから、大丈夫。……あ、でもこれじゃ、心もとないか……」
俺は走って帰るからと言おうとしたところで、さっき宮本さんの傘が壊れたようにこの傘も壊れてしまうかもしれないなと思った。これもさっきの宮本さんの傘のように折り畳みの傘なので、そこまで頑丈じゃない。
……じゃあ、そうすると……。
「ちょっと走って傘取ってくるよ。頑丈なやつ」
「え、それなら一緒にこの傘で行けばいいんじゃ……」
「あ、そ、そうか」
折り畳みの傘を渡そうとしたところで宮本さんがそう提案してきた。
全くその通りだ。……思いがけず相合傘の形になってしまったことで、動揺してた。……落ち着け、俺。
「ここが石川君の家……」
「学生用のアパートみたいな感じのところだけどね」
俺の家の前について、宮本さんが小さなアパートを眺めながらそう言ったので、それに返事をする。
まあ、後は頑丈な折り畳み式じゃない普通の傘を渡すだけだ。
「じゃ、ちょっと待ってて」
「うん。……今更だけど、借りて良いの?」
「うん。次学校に持ってきてくれればいいよ。まあ、ここに来てくれてもいいけどね」
そう言って、玄関のカギを開ける。
……持ち帰るのも大変だし、学校に行く前にここに寄ってくれたりするのが一番楽かもしれないな。
そんなことを思いながら玄関に置いてある傘を手に取る。
これなら頑丈だし、ちょっとやそっとの風で折れたりはしないだろう。
「お待たせ」
――ゴロゴロゴロ……ザザザザザ
「え……」
玄関のドアを開けて、傘を渡そうとした時、雷の音が鳴り響いた。そして、その音を合図にするかのように、強い風が吹き始めて、雨も強くなり始めた。雨の音がうるさい中、困った様子の宮本さんと目が合う。
「ど、どうしよう……」
「あー……えっと……、ここに居ても仕方ないし……雨が落ち着くまで、上がる?」
流石に「これくらいなら帰れるよ」なんてことは言えないくらいの天気になってしまった。家で宮本さんと二人きりとか……嫌というわけではないけど、出来るだけ早く天気回復してくれ……。
次回、宮本さん視点かも?(あくまでも可能性)
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いつも読んでいただき、ありがとうございます……。とても嬉しいです……。




