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強い人 細川澄香視点

キーーーーーン………






 「じゃあな、細川」と言われ何も言えず、その場を立ち去るしかなかった。「そんなこと聞くような仲じゃないだろ?」というのは、その通りだ。でも、翔太の順位は知りたかった。真面目に試験を受けていたのかも気になるし、今の翔太には負けたくない。翔太が本気で試験を受けていれば10位以内くらいには入っているはず。自分は5位という順位だったから負けているかもしれない。


 ……食い下がってでも順位を聞き出せばよかった。


「澄香ちゃん、部活行こう!」


「あ、うん。ちょっと待ってて」


 別のクラスの同じ部活の友達が声をかけてくる。まだ私は鞄を持っていなかったのでそう言って教室の中に戻る。


「あ、澄香。今日は部活?」


「うん」


「あー、そっか。残念」


 教室の中では友達が今日のこれからの予定について話していて、どこかに遊びに行こうとしていたらしい。残念だけど、今日は部活なので行くことはできない。


「また今度誘って」


「うん。部活頑張ってね」


「じゃあね」



~~~



 部活の後の電車と徒歩で疲れて足が重くなっていく中、ようやく家について玄関のドアを開ける。


「ただいま」


「おかえり。ご飯できてるよ」


 お母さんが、多分キッチンからそう言ってくる。


「うん。すぐ食べる」


「はーい」


 手を洗ってから自分の部屋に行って鞄を置いてから服を着替える。そして、試験結果の紙もってリビングに向かった。


「ご飯はどれくらい食べる?……あ、それ、試験の?」


「うん。ご飯はいつもと同じでお願い。……これ結果」


 お母さんはお茶碗にご飯を入れてくれているので、取り敢えず結果を机の上に置く。


 そしてお母さんはご飯を私の席のところに置くと、結果を手に取り見始めた。


「どれどれ?……5位!凄い!頑張ったね」


「……うん。ありがとう」


「……どうしたの?納得いかないところでもあった?」


「いや、1位じゃなかったから、次も頑張らないとと思って」


「そうなの?……でも5位でもすごいよ」


「ありがとう。……いただきます」



~~~



 ご飯を食べて、自分の部屋に戻る。ベッドの上に寝転んで、今日もらった試験の結果を眺める。


 全体で5位。1位の教科はなかった。


 ……結構頑張ったのにな。


 総合得点の1位は……新入生代表をしていた宮本美月さんだろうか。……それとも……。


 ……なぜ、彼女は翔太と一緒にいることが多いんだろう。


 宮本美月さんという名前が浮かぶと、どうしても翔太のことが頭によぎる。



 ……私は、今の翔太が嫌いだ。



 昔の翔太は、私の憧れだった。


 翔太は、とても強くて、何にでも全力で、なんでもできる……そんな翔太に憧れていた。



 昔のことで特に記憶に残っているのは、私が小学4年生だった時の事。私が所属するクラスでいじめがあった。それは、その子は何も悪いことをしていないのに本人に聞こえるように嫌味を言ったりという感じのものだった。


 ……その時、私は傍観することしかできなかった。そのいじめを止めたのが翔太だった。私が当時違うクラスだった翔太に、いじめのことを相談したら、2日後にはいじめっ子がいじめられていた子に謝っていた。



 そして、それは中学生になっていじめの矛先が翔太に向いたときも同じだった。いじめが問題になるくらい大きくなる前に、私が知るよりも前に翔太がいじめを止めていた。



 そんな翔太が変わり始めたのは中2の時。突然私に対する態度がよそよそしくなり、亮介君とばかり一緒にいるようになった。急なことだったので、結構不満を持っていたし、不信感を持っていた。そして、その不信感は正しかった。中3の夏、あの事件が起きた。亮介君曰く、翔太が亮介君を騙して、亮介君が好きだった子を口説いて奪った、ということだった。


 私と距離を取っていたのはそんなことをしていたからかと思った。同時に、翔太がまさかそんなこと、とも思った。


 でも、その後にクラス内で起きたいじめを翔太が止めることはなかった。まるで罰を受けているかのように、陰口や嫌がらせを受けていた。そして、だんだんといじめはエスカレートしていき、翔太が怪我をするようになり、やりすぎだと思い先生と翔太の親にいじめを報告した。


 翔太が悪くないのだとしたら、あいつは自分でいじめを止めるはずだ。あいつは、とても強いから。


 ……それから、翔太は何をするにも本気を出さなくなり、体育の授業や行事でも手を抜くようになった。……それは私が一番嫌いなことだった。出来るのに手を抜いて、頑張らない人が私は嫌いだ。



 そして高校生になって、少し緊張しながらクラスに行くと翔太がいた。中学3年生の最後の方と変わらず前髪で目元が隠れていて、更には眼鏡までかけるようになっていたようだけど、声で私が知っている翔太であることはすぐに分かった。中学2年生くらいから話すことはあまりなく、中学3年生の夏からは全く話すこともなかったので、同じ高校だったとは知らなかった。



 高校生活が始まって2週間ほどしたとき、新入生代表をしていた宮本美月さんがクラスにやってきた。宮本美月さんはとても可愛らしい人だったのでみんなが知っていたし、私も名前と顔を一致させることができた。そんな彼女が翔太に会いに来たということを聞いてクラス中が驚いていた。


 ……それだけなら何というわけでもないのだけど、あの宮本さんと仲いいなんてどんな人なのかな、といった風に友達が翔太に興味を持ってしまった。昔の翔太だったら何も言わないのだけど、今の翔太と話してみたいというのは……止めるしかなかった。


 その時に中学での出来事を話して友達に忠告したことで、翔太の悪いうわさが学年中に流れることになった。……でも、嘘は言っていないし、仕方がないことだったと思う。



 そして、球技大会。やはりというか……翔太は全く本気を出していなかった。翔太の……友達であろう人が翔太のせいで負けたと言いたいのかということを言っていたけれど、翔太が本気でやっていたら勝てていたかもしれないのだからそう思うだろう。少なくとも、中学生の時はもっと上手かったし、その時のようにやっていれば勝てていたかもしれないんだ。


 ……そう、彼女は翔太の友達なんだろう。あと宮本美月さんと、同じクラスの阿部有輝君との4人でいるところを見かけることがある。


 ……友達、か……。一度友達を裏切ったのに、何故そのことを有耶無耶にしてまた新しい友達を作ることができるのだろう。ちゃんと亮介君の件にけじめをつけてからであるべきだ。



 ベッドから起き上がって、なんとなく翔太の家の方を見る。今はあそこには翔太はいないらしい。お母さんが一人暮らしをしているということをおばさんから聞いたと言っていた。


 ……なんで一人暮らし?と聞いたときに思った。一人暮らしをするにもお金がかかるだろう。ここからでも、毎日登校できない距離ではない。実際私は毎日1時間半くらいかけて登校している。



 今の翔太は昔の翔太からは考えられないくらい、正しくないことをする。


 今の翔太は嫌いだ。でも、昔の翔太は私の憧れだった。……私は翔太に、昔の翔太に戻ってほしい。





次回から2章

今話更新すんのめっちゃ緊張した。優しくしてください……。

……この子大丈夫かな……。

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