試験結果
澄香→細川澄香
「石川―」
試験返却が始まってクラスメイト達が友達同士で集まったりしてざわざわとしている中名前が呼ばれ、帰ってきた有輝とすれ違うようにして担任の先生のもとに向かう。
すれ違う時に何か伝えようとしていたみたいだけど……あれは、それなりによかったって感じでいいのかな。あー……今更何もできないけれど、やっぱり結果が渡されるときは緊張するな……。
「石川は……お!おー……よく頑張ったな」
「あ、はい。ありがとうございます」
渡された答案用紙の束とその上の小さな紙に目をやる。各教科の平均点と自分の点、自分の学年での順位が表の形で書かれていて、その一番下には総合点と総合順位が書かれていた。各教科の順位を見ると……すべての教科が1~3位の中に入っていて、総合順位は1位だった。
それなりに嬉しいけど……まあ、高校生になってからは暇なときはずっと勉強していたからな。そのおかげだろう。
順位の確認だけして、渡された答案を折りたたんで自分の席に戻ると、興味津々と言った感じで有輝がこちらを見ていた。
「どうだった?」
「まあ、良かったかな」
「ほー。……まあそうだよなあ。俺も悪くはなかったわ」
自分の席について、順位や平均点などが書かれた紙だけをクリアファイルの中にしまい、答案用紙だけを机の上において、何を間違えたのかの確認をする。
とは言っても、間違えてる個所はあまりなかったのでそれもすぐに終わって、クラスメイト全員の結果が配られ終わるよりも先に答案用紙もバッグの中にしまった。
答案を返却されたクラスメイトを見ると、「よし!」と言ってガッツポーズを決めている人や渋い顔をしてとぼとぼと自分の席に帰っていく人と、色々いる。そんな様子をなんとなく眺めていると、後ろから有輝が肩を軽く叩いてくる。
「うん?なに?」
「……今日小畑も例の喫茶店行くって言ってたよな」
「ああ、そう言ってたね……。試験の見直しするとか。図書室でやればいいのに」
「え、あそこ勉強とかしちゃだめだったりすんの?」
「いや、別にそんなことはないよ。あんまり長時間いられても困ると思うけど。ただ働いてるところをあんまり見られたくないだけ」
「あー……でも宮本はよく行ってるんだろ?」
「まあそれはそうだけどね……」
宮本さんが来るのはもう慣れたしむしろ楽しかったりするんだけど、小畑さんは球技大会の時に来て以来だからなあ。なんとなく恥ずかしい気がしてくる。
「んで、俺も行こうかなって。」
「あ、そうなの?有輝も見直し?」
「それもある。けど、それより小畑が『美月と石川は無理でも阿部には勝ちたい!』って試験前に言ってたからどうだったか見てやろうと思って」
「そんなこと言ってたんだ……」
なんかこの二人敵対的じゃない?ちょくちょく何かを競ってたりするのを見る気がする。……ちょっと羨ましいな。……あー、となるとまた働いているところを見られるのか……。まあ、もう1回来たこともあるし前回も特に何かあったというわけでもないからいいか。
「「「おおー!!」」」
そんな会話をしていると教室内で大きな声が上がる。続けてその声量は変わらずに称賛の声が広がっていた。これだけ注目されているとなると、人気者の結果が良かったってことかな。
反射的に声のする方に視線を向けた後に、それらの声は普段は絶対に見ない方向からだったことに気付いた。視線の先では、クラスメイト達に「まだまだ頑張らないと」と笑って言っている澄香がいた。
……ああ、澄香の笑顔って、あんなだったな。
なんてことをふと思った。周りの人の声から、澄香は合計点の順位が5位だったらしい。プライバシーもあったもんじゃないな……。まあ、真面目な奴だし、順位がいいのは頷ける。
少しの間そちらを見ていたら、澄香がこちらを見てきた。そして、一瞬冷たい目に変わり、すぐに目をそらされる。……ちょっと目が合っただけでそんな目で見られてもな。
胸に痛みを感じながらそんなことを思い、俺も視線を外す。すると、「なあ」と有輝の声がして、声がしたほうを向くと有輝が真剣な表情を浮かべていた。
「……細川にちゃんと本当のこと言ったほうがいいんじゃないのか?」
「……」
……どうなんだろう。……いや、そりゃあ、普通に考えたら本当のことをちゃんと言ったほうがいいんだろうな……。でも最近は……球技大会の後からは、何かあったわけじゃない。話しかけられることもないし、眼があったときに少しにらまれる程度だ。……今更弁明をして、もし澄香が俺の言い分を信じてくれたとしてもメリットはあるのだろうか。もし俺のイメージが改善されたら多分有輝たちにとっていいことなんじゃないかとは思う。でも、もう周りの俺に対するイメージは変わらないだろう。……だったら特にアクションを起こす必要はない気がする。
……なんて考えるのは、逃げているのかな。多分実際はちゃんと弁明して、それでも信じてくれないというのが怖いのだと思う。また中学の時の、あの場面をやり直すようで……それが怖い。また、あの軽蔑しきったような、失望したような目を向けられるのが怖いんだ。
「……ま、翔太がいいってんなら俺はこれ以上は言わないけどさ」
「……」
「ほらー、静かにしろー」という担任の先生の声が響いて、少しずつ教室内の声が少なくなる。……どうしたもんかなあ。
ホームルームが終わって、教室内では順位表を見せ合っている人達がワイワイと盛り上がっている。その盛り上がっているグループ以外の人たちは帰る準備をしていて、俺と有輝もそのうちの一人だ。
「じゃあ、行くか。いつも宮本とはどこで待ち合わせしてんの?」
「正面玄関のところ。あ、でもその前に図書室寄っていい?」
「いいけど、本借りんの?」
「うん」
タダだしいろんな本があって暇つぶしにちょうどいいので、最近はよく図書室の本を読んでいる。今までは暇になったら勉強をするか筋トレをするかの二択だったのだけど、そんなことをしていたらもう高1の教科書と問題集の問題を全部解いてしまったので、他に何か暇をつぶせる何かが必要になったのだ。
「なら、俺も行くかなあ」
「じゃ、ちょっと急ごう」
「翔太」
早足で図書室へと向かおうとしたところで、出鼻をくじかれた。球技大会の時は声をかけられただけで体が拒否反応を示していたのだけど、もう同じクラスになって2か月と少し経つからか、流石に声をかけられただけで体がおかしくなることはなかった。
「……何?」
「試験、何位だった?」
顔を見て話す勇気はなかったので視線を下の方に落としながら答えると、そんなことを聞かれた。……なんでそんなことを聞いてくる?俺の順位を知ってどうするつもりなんだ?
「……」
「ねえ!聞いてる?」
「あー、細川?」
「何?阿部君」
「翔太と細川ってそんなこと聞くような仲じゃないだろ?俺たち友達待たせてんだよ。そういうのは自分の友達とやってくれないか?……行こうぜ、翔太」
「あ、うん」
「じゃあな、細川」
昔、中学のクラスメイトにカンニング疑惑をかけられたりしたこともあって、なんて答えようか迷っていたら、有輝が澄香にそう言って俺の背中をグイッと押してくれた。ちらっと後ろを見ると、澄香は言葉が見つからなかったらしく、そのまま立ち去っていた。
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図書室で借りてた本を返して適当な本を3冊借りて、待ち合わせ場所の正面玄関に来た。
「よっす」
「お待たせ」
いつもは宮本さんしかいないのだけど、今日は小畑さんも一緒にいた。一昨日くらいから『水曜は部活が休みになったから美月と一緒に石川のバイト先の喫茶店でテストの見直しがしたい』と言っていたので、何も驚くことはないけど。
「ううん。そんなに待ってないよ」
「5,6分だね」
「あ、そうなんだ」
いつもそのくらいなのかな?図書室によるといつも待たせてしまっているので、毎回急いでいるんだけど、澄香とのやり取りの時間がなかったとしてもあと3,4分か……。ちょっと厳しいな……。廊下を走って来れば先に来れるかもしれないけど、流石になあ……。
「……じゃ、行こう?」
なんとなく元気がないような声で宮本さんがそう言って、下駄箱に向かって行った。
……。
「……宮本さんなんか……機嫌悪い?」
「多分思ったより試験の結果が良くなかったんだと思う。ホームルームの時からあんな感じだから」
「え、あ……そうなんだ……」
小畑さんに聞いてみたらそう言う事らしい。……あー……。
靴を履き替えたところで、小さくため息をしている宮本さんに話しかける。普段は人が集まる場所で話しかけると、周りの視線が更に痛くなるのでこういうところからはさっさと離れてから話すのだけど、今日は元気がない感じだったのでいつも通りにする気にはならなかった。
「普段は宮本さんと二人だからなんか新鮮だね」
「あっ、うん。確かにそうだね」
「なにそれー、もしかしてお邪魔だった?」
後ろの方から小畑さんが言ってくる。……お邪魔?全然そんなことはないけどな。むしろ4人のほうがワイワイとしていて楽しいくらいだ。
「いや全然そんなことはないけど」
「あ、そう?」
「うん」
ちょっとつまらなそうに小畑さんが言うと、「お待たせ」と言って有輝がやってきた。集まったので自然とみんなの足が動き始める。
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4人で話しながらゆっくり歩いていると、いつもよりも短い時間でバイト先に着いた気がする。この間の会話の内容は、宮本さんの試験結果が良くなかったんじゃないかということを小畑さんが言ったせいか、試験内容の話ばかりで順位の話にはならなかった。
店に着くと、有輝が店の全体を見てうーんと唸るような声をあげる。
「この前も思ったけど、やっぱり一人だと入りづらいよなあ」
「あー、そうだね。どうしたらもっと気軽に来てもらえるかみたいなことを店長が話してたよ」
有輝が言うことはその通りだと思う。落ち着いた雰囲気でちょっと渋い感じがするもんなあ……この店。一回入れば常連になる人も多いと思うんだけどなあ。宮本さんだってそんな感じだし。
「じゃ、入ろうか」と言って店のドアを開ける。そして、カウンターのところにいる誠さんに向かって挨拶をした。
「こんにちは」
「ああこんにちは、翔太君と美月ちゃん……とお友達かな?いらっしゃい」
カウンターを拭いていた誠さんが俺と宮本さんの後ろを覗くように見て、そう言う。それに対して、みんなも挨拶を返す。そして、その挨拶に続いて宮本さんが口を開く。
「あの、誠さん。今日もちょっとだけ勉強してもいいですか?」
「うん。いいよ」
宮本さんと誠さんがそんな会話をした後、みんなは誠さんに誘導されて、奥の方の席に歩きだす。
……じゃあ、俺は更衣室で着替えるかな。
「あれ、翔太君はいいのかい?」
「?いい、というのは?」
「せっかくだし、お友達と一緒にコーヒーの一杯でも飲んでからでもいいんだよ?」
「あー、いや、大丈夫です」
「そうかい?」
そんな会話をしてから、更衣室に足を向けた。
店の服に着替えて出てくると、丁度みんなが注文を決めたようで有輝が俺に手招きをしていた。……いや、これ多分俺を待ってたな。はあ……、行くしかないか。
「注文は決まった?」
「うん。えっと……私はアイスカフェオレ」
「私はホットのブレンドコーヒーでお願いします」
「俺は紅茶」
「じゃあ、ブレンドコーヒー1つ、アイスカフェオレ1つ、紅茶1つでいい?」
「はーい」
「じゃあ、少々お待ちください」
注文を誠さんに伝えてから少しして、飲み物が入ったようなので持っていく。
「お待たせしました」
「お!ありがとう」
みんな試験の結果を机の上に出していたので、それを避けてそれぞれの前に飲み物を置く。順位表も一緒に出していたようで、飲み物を置くときにちらりと目に入ってしまった。
……ああ……、やっぱり宮本さんが2位かあ……。
「ね、石川は総合順位何位だった?」
「あー……」
「何かあったら声をかけて」と言おうとしたところで小畑さんがそう聞いてくる。あー……
「石川君が1位なの⁉」
「え、ええ……」
なんて答えようかと思ったところで、すごい勢いで宮本さんが身を乗り出して聞いてきたので、びっくりして後ずさりしてしまう。
「ね、石川君が1位なの⁉」
「……うん。1位だった」
「えー!ほんとに⁉……やばあ……。ここ今回のテストのトップツーがいるんだけど……」
「ほえー……まじか。すげえな」
答えると、小畑さんと有輝はそんなことをつぶやいていて、宮本さんは身を乗り出した形のまま固まってしまっていた。
次回で1章おしまい、というか、ひと段落という形で作品内の時間が少し飛ぶかなあ……と思います。その前に今までは書いてなかった各登場人物の視点の話を入れようか迷ってます。迷ってます。




