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知ってほしい人たち

これが……難産……








 午前の競技が全部終わり、昼食の時間となった。競技の結果としては、有輝と宮本さんは準決勝進出、小畑さん、俺は敗退となってしまった。3試合目の相手は、中学時代にサッカー部だった人がいて、残念ながら勝つことは出来なかった。


 いま、俺たちは、敷地内の隅の方のベンチに座っている。大人数が周りにいるところでする話でもないと思うから。今日はみんな弁当だったので助かった。


「えっと……、それで、話なんだけど……」



~~~



 弁当を食べながら、中3の時の亮介との間に起きたことを話した。それまでのことは、時間もないし……いや、自分の顔を晒すのが嫌だったので、話すことができなかった。2人を信用していないとかではない。でも、この顔は、関係性を壊す顔だ。今の関係を壊したくないから、見せたくない。


 亮介と後輩のこと、亮介に学校で言われたこと、それが原因でいじめがあったこと、幼馴染に家族に報告されて、その家族も俺のことを悪者扱いしてきたこと、今では一人暮らしをしていること。そんなことを話した。


「そんな感じかな」


「……」


 有輝は、知っている話だからか黙々とを弁当を食べていたけど、2人は箸が止まってしまっていて、話している最中に時折「食べないと、昼休み中に食べきれないよ」と言わないといけないくらいだった。


「まあ、話してどうしてほしいってわけじゃないんだけどね。一応、知っておいてほしくて」


「細川さんは?……なんで、細川さんと話している時、あんなにつらそうにしてたの?」


「……彼女が、今の話に出てきた幼馴染なんだ」


「そうなの!?……そんな人だったんだ」


 そんな人、というのは、確信の無い情報を俺の家族に報告したりするような人、という事だろう。小畑さんに続いて宮本さんが俺に聞いてくる。


「え、じゃあ、今噂が流れてるのって細川さんのせいなの?」


「せいって言うか……、まあ、彼女が噂の出元ではあるね」


「ひどい……」


「いや、そんなに悪い人ではないよ。……多分、噂を流したのもみんなに俺のことを警戒してほしかったからだと思う。それに、今思えばちゃんと否定しなかった俺も悪いしね」


 俺が殴られて教室に帰ってきたとき、澄香は驚いたような顔をしていた。だから、多分いじめてやろうとか言う理由で噂を流したわけじゃない。あいつはこういうことをしたやつだから、みんな気をつけてということを言ったんだと思う。


「それなら、今からでも……」


「……今更だよ。もう、最近は噂も風化してきてるし、このまま消えるのが一番いい」


 ……これも嘘かもしれないな。多分、本当はただ怖いだけだ。今更になって否定して、また信じてもらえないというのが、怖いというか嫌なんだと思う。


「昔の話だし、今はこうやって友達もできたし……俺は大丈夫。もし、この噂の件で……いやそれ以外でもいいけど、困ったことがあったりしたら言って。絶対に何とかするから」


 ――キーンコーンカーンコーン


「あ、チャイムだ」


「うえ⁉やっば、俺急いでいかないと!」


「あ、弁当教室に置いとこうか?」


「頼むわ。ありがと」


 そう言うと有輝は空になった弁当を俺に渡して、体育館の方に走っていった。準決勝が始まるまでにはまだ少し時間があるのだけど、多分、集合は早めにすることになっていたんだろう。


 有輝を見送って、弁当を片手に立ち上がる。すると、宮本さんも同じように立ち上がり、話しかけてくる。


「話してくれてありがとう。石川君」


「聞いてくれてありがとう」


「うん」


 そう言うと「じゃあわたしも行かなきゃいけないから」と言って、小走りで体育館の方に向かっていった。


「石川」


「なに?」


 ゆっくり片付けてから応援に行くかな、なんて考えていると、小畑さんが肩を軽くたたきながら小声で話しかけてきた。


「ごめん」


「何が?」


「初めて会ったとき、酷いこと言って、今まで疑ってて、ほんとにごめん」


「……いいよ。疑って、警戒するのが普通だ。むしろ宮本さんみたいに無警戒な方が心配だよ」


「美月は……。……本当に、ごめんなさい」


 何か言いかけていたけど、それをやめてもう一度謝ってくる。


「いいって。むしろ、俺の話を信じてくれてありがとう」


 そう言うと、小畑さんは少しすっきりしたような表情になる。そして、「ふぅー……」と大きく息を吐き、パンっと頬を両手で挟むように叩く。……え、急にどうしたの。頬が結構赤くなってしまってるけど……。


「よし、じゃあ午後は応援頑張ろ!」


「おー」


 あー、切り替えの儀式みたいな感じか。そういえば、ここまで力強くはなかったけど、今までも同じようなことをしてるのは見たことがある。


 そうして、いつもの元気な雰囲気に戻った小畑さんと俺は、弁当を置くためにそれぞれの教室へと向かった。

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