3人目の友達
ガヤガヤガヤ…ザワザワ……………――――
「なん…………と………いの?」
嫌だ。そんな目で、見ないでくれ。なんで、なんで……。……俺が悪いんだろ。じゃあ、どうすればよかった?俺のせいだ。全部、全部俺が悪い。手伝おうとしただけなのに。助けたかっただけなのに。どうしてそんなこと……。
頭が揺さぶられたように吐き気がこみ上げてくる。澄香の顔だけに色が残り、その他の物から色が抜けてモノクロになっている。視界は歪み、瞬きをするたびに正常に戻り、またゆがみ始める。どんどんと身体から現実感がなくなって、何もない空間に放り出されたような感覚に――
「石川!大丈夫!?」
よくとおる声が耳に響いた。その響きは、澄香のように刺さる感じではなく、頭に広がっていくような感覚だった。そして、左肩に温かいものが触れる。
「ねえ!ほんとに大丈夫!?」
視界に入ってくる小畑さんの顔。相変わらず、覗き込むように、様子を伺うように見てきている。
「……大丈夫。ごめん。ありがとう」
「……」
答えても、心配そうな目は変わらない。でも、本当に大丈夫だ。震えも止まったし、身体の感覚も視界も普通に戻っている。
「なんなの?今私が話してるところなんだけど」
「は?何言ってんの?何を見てたの?」
「?」
多分、俺の状態がおかしかったことを言っているんだろう。でも、澄香は訳が分からないといった表情をしていた。俺も無意識のうちに何とか周りには悟られないようにしていたのだけど、小畑さんからすると何も気づかないことのほうが信じられなかったらしい。
「小畑さん、大丈夫だから」
「……」
記憶をさかのぼるようにして、澄香の言葉を思い出す。耳にだけ残っているような感覚だったけど、何を言っていたかは思い出せた。
「……俺は別に手を抜いたりはしてない」
「嘘。あんたがちゃんとやれば負けなかったんじゃないの?」
「なっ、石川のせいで負けたって言いたいわけ!?」
「そ、そうじゃないけど……」
相変わらず、敵意を感じる視線を向けてきているけど、小畑さんのおかげか勢いがないような感じになっていた。
「ならもういいでしょ。ほら、石川、行こ!」
「ああ、うん」
そんな感じで俺は小畑さんに押されるような形で、その場を後にした。少し歩いてから、澄香の様子を伺うと、不満そうに立ち去る姿が確認できた。
澄香は、昔から正義感が強いというか……悪人を許せないタイプの人だった。小学生の時には、クラスの中心人物だった人に突っかかって孤立したこともあった。中学の合唱コンクールの練習の時、男子から煙たがられているというような話も耳にしたこともある。悪いことをした人や、ちゃんとしない人を許せない人だというのが俺の中の澄香という人だ。
今回は、俺のプレーが澄香の「ちゃんとしない人」に該当したのだろう。そして、今の俺は、澄香に「悪いことをした人」に当てはまっているのだ。
「ほんとに、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
二人で歩きながら、会話をする。
「あれって、細川さんだよね。……あんな人だったなんて」
「あー、誰にでもああいう感じなわけではないと思うよ」
「……知り合いってこと?」
「まあ、ね。そんな感じだったでしょ?」
「確かにそうだけど……」
会話の内容を振り返って、納得したらしい。でも、この様子を見ると、澄香への評価が著しく下がってしまったようだ。それは少し可哀想な気がして、もう少しフォローを入れようとすると、小畑さんのほうが先に口を開いた。
「……ねえ」
「うん?なに?」
「石川……、その、なんか……悩んでることとか、あったら言ってね?」
「……どういうこと?」
「いや、その、言いたくないとかならいいんだけど……。いつも辛そうというか、ちょっと悲しそうっていうか……。だから、何か辛いことがあるのかなって……」
よく見てくれているんだな、と思った。小畑さんはいつも様子を伺うような感じで俺を見ていたけど、あれは心配している視線だったのか。
「あの、友達だし、なんでも相談してほしいって言うか……ほら、話すだけでも楽になるってこともあるでしょ?あ、ほんとに言いたくないなら、言わないでいいけど……」
最大限、俺に気を使ってくれている。本気で力になろうとしてくれている。別に言いたくないってわけではない。ただ、言ったところで誰も信じてくれないから言わないだけだ。……でも、宮本さんと小畑さんなら、信じてくれるだろう。
「……小畑さんは、俺の噂のこと知ってるよね」
「うん。……いや、信じてないよ⁉あんな噂でたらめだって、一緒に居ればすぐわかるから……。……やっぱり……」
「まあ、噂のもとになることがね。色々あったんだよ」
「……」
小畑さんは完全に聞く態勢に入っていたけれど、もう体育館前まで来てしまったので話はまた後でだ。それだけじゃなくて、小畑さんに話すなら宮本さんにも聞いてほしいという理由もある。
そう伝えると、「じゃあ、お昼ご飯の時に」と言っていた。体育館に入って戦況を確認すると、有輝は優勢で宮本さんは劣勢だった。
「じゃあ、気合入れて応援しようか!」
「そうだな」




