休みが明けて
ぱらりらぱらりら
やっぱり、中学の時とは違うんだな。
教室に入ったとき、クラスメイトがこそこそと俺の話をしているのを聞いて、そんなことを思った。そんなふうに思えたのは、久しぶりに他人と遊んで、心が軽くなったからなのかもしれない。
俺は感じていた冷ややかな視線が、敵意というより、疑念を含んだものが多いと感じていた。
中学生のときは、人の噂も七十五日なんて嘘っぱちだと思っていたけれど、今はなんとなく信じられるような空気だった。……この言葉を作った人がいたら、あんなのは噂話に収まってないと怒られそうだな。
まあ、ものすごく敵意を感じる人もいるんだけど。……言わずもがな、幼馴染の澄香である。それと、その周りにいる人たちも、俺を悪人を見る目で見てきている。
やはり、グループという括りがあるんだろう。同じグループの人は、澄香から細かな話まで聞いているんだろうなと思う。
親しかった人からの明確な敵意というのは、胸が痛い。刺さるような視線と言ったりするけど、本当に胸を刺されているような気分になるな……。
席に座るまでに、そんなことを考えていると、ふと、有輝の交友関係はどんなのかが気になった。
……教室では俺といることが多い。部活の友達はいるだろうけど、このクラス内で仲の良い人を知らない。……俺のせいで、交友関係が広がってないんじゃないか?
……そんなことを思ったけど、これ以上関係を広げて行くのはやっぱり怖い。俺の今の2人の友達は奇跡だと思う。輪が広がれば広がるほど、どこかが切れて、そのまま全てがダメになってしまうと思ってしまう。
はあ、自己中心的だな……。
〜〜〜
「今日学食なんだけど、翔太も行く?」
「そうなんだ。うん。行こうかな。……あー、宮本さんが来るかも?」
「ああ、そうか」
「来ないかもしれないけどね」
宮本さんも、他に友達がいるだろうし、毎日来ることはないと思う。だけど、せっかく友達になったんだ。すれ違いになるようなことは避けたい。
それに、クラスも違って部活はそもそもやってないので一緒になることはないとなると、宮本さんと友達として接することができる時間は少ない。……宮本さんって部活やってるのかな?
「こんにちは。石川君。阿部君も」
「あ、こんにちは。宮本さん。今日も来たんだね」
「うん!……えっと、それで……今日、友達も一緒にいい?」
「えっ、あーうん。い、良いけど……」
ちょっと嫌だとも言えず、了承する。そして、今日は食堂に行く予定だということを伝えると、「じゃあ、廊下にいるから、行こう」といって、宮本さんは歩き出した。
「大丈夫か?」
「あー、うん。平気」
俺は大丈夫。ちょうど周りともっとかかわりを持ったほうがいいと思っていたところだし。どちらかというと、宮本さんの友達が、俺と関わって何か不利益を被るんじゃないのかというほうが心配だ。
宮本さんについて行くように歩いて、その先にいたのは、ショートカットの少し小柄な女子だった。
「えっと、この子が私の友達の七緒」
「小畑七緒です!よろしくね!えっと……美月、どっちがどっち?」
「あ。俺が阿部有輝、こっちが石川翔太。よろしく。小畑さん」
「よろしく」
「うん。あと、呼び捨てでいいよ。そっちの方が楽だし」
「そう?じゃ、よろしくな、小畑。俺も呼び捨てでいいから」
「オッケー、阿部!」
有輝はそう返した。俺は……すこし抵抗があった。
「俺はちょっと呼び捨ては抵抗があるかなあ……。あ、呼ばれる分には気にしないけど」
「ま、どっちでもいいよ。でも、よろしく。石川」
「うん。小畑さん」
顔合わせ……と言うのだろうか、まあ、顔合わせはそんな感じだった。
そのあと、4人で食堂に行ってご飯を食べた。小畑さんは、元気がある子だという印象だった。フレンドリーで……なんていうか、多くの男子を勘違いさせてそうな感じだ。……あと、何か観察するような視線を送ってくることが多いとも思った。多分観察されていたんだろう。
少し視線が気になったけれど、小畑さんは元気な人だったのもあって、楽しい昼食だった。
のんびりとご飯を食べて、そのまま食堂で話していたので、食堂を出るときにはもう昼休みは残り10分ないというくらいの時間になっていた。
「じゃあね」
「おう」
宮本さんと有輝がそう言って、別れようとした時、小畑さんが俺に話しかけてくる。
「石川、この後ちょっといい?」
「……うん」
そう言うと、小畑さんは宮本さんと行ってしまう。多分、この後戻ってくるのだろう。
そう思ったので、有輝に先に帰ってもらって、小畑さんを待つ。割とすぐに小畑さんは戻ってきた。
「あ、いたいた」
そう言って小畑さんはこちらに来て、「ちょっとあっち行こう」と言って、微妙な笑顔を浮かべてあまり人目につかないところを指さす。……嫌な予感がする。
ついて行って、目的地に着くと、小畑さんは向き直って真剣な顔になる。
「石川」
「……なに?」
「美月を傷つけるような事したら許さないからね」
「……」
ああ、やっぱりか。まあ、あれだけ探るような視線を向けられれば、良くは思われていないことはわかっていたけど。こんなにはっきりと、敵意を向けられるとは思わなかった。
まあ、友達を心配しての行動なんだろうな。
「っ……!あ……いや、その……」
「しないよ。そんなこと。……俺は宮本さんのことは奇跡的にできた、友達だと思ってるから」
「そ、そう……」
「じゃあ、もういいかな?……授業始まるから、小畑さんも早く帰ったほうがいいよ」
「あ……その、」
要件はそれだけだろうと思ったので、俺は教室に帰った。
「あ……その、ごめん」




