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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
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Chapter 8

*** Chapter 8 ***


 すべてのつじつまがこれで合った。急にユニコーンを倒せるようになって、おかしいと思った。色無しの女が裏にいたのか。その女がユニコーンの欠点や、もしかしたらパワーまで与えていたんだろう。その見返りにマクシミリアンは何をしゃべった? それも抱き合ってキスしてただと? その女が妊娠したら、子供は両目が同じ色はほぼ間違いない、それも黄色かオレンジだ。それが目的で近づいてきてるって、マクシミリアンは気が付いてないのか? 


「ディータ!」

「はい、団長」


 俺は武器の手入れをしていたディータに声をかけた。


「今からマリエン湖に行くが、一緒に来い。マクシミリアンが裏切ったかもしれない」

「え? マクシミリアンが?」

「色無しの女とできてる。今から現場を押さえる」

「え?」

「もし、マクシミリアンが素直に女を差し出せば、スパイ活動をしていたということで、お咎めなしだが、もし抵抗したら、俺の後ろから弓で女を殺せ。最悪マクシミリアンに当たってもいいが、殺すなよ。どこまであの女にしゃべったか、聞かせてもらわないといけないからな」

「団長! 俺、信じられません、マクシミリアンが……」

「正確に言うと、『色仕掛けで騙された』だろう。恋愛に強気だが、女に免疫はないだろうからな。とにかく、マクシミリアンが女をかばったら、裏切り行為とみなす」

「でも可能なら捕らえる方が良いのでは?」

「色無しを甘く見るな、捕らえるのは無理だ。とにかく絶対逃がすなよ、マクシミリアンの子供を妊娠してたら、最悪だからな」

「わかりました……」


***** 


 マクシミリアンが、色無しの女と? 信じられない。それにこっちの情報をその女にしゃべってるかもしれないなんて……。確かに奴はライバルだが、信じたい。何もしゃべっていなければ、近衛団は退団しなければならないが、処罰はそれで済むはず。頼む、マクシミリアン、騙されたならともかく、裏切りなんてやめてくれ。


*****


 フーマの体温は、俺より低いようだ。ショールをプレゼントして良かった。でも今度会うときは、毛布を持って来よう。フーマは俺に会うときはいつも、プレゼントした口紅をつけてくれている。この幸せが長く続かないことはわかってる。でもできるだけ、長く……


「……マクシミリアン」


 名前を呼ばれて、俺は振り返った。


「団長……! どうして……」


 俺はとっさにフーマをかばう姿勢になった。


「お前、自分が何をやってるのか、わかってるのか?」


 なんて答えればいいのか、わからなかった。


「お前は色無しのテレパシーで操られてるだけだ。利用されてるんだぞ、その女に!」

「フーマはそんな女じゃありません!」

「その女をよこせ」


 団長が近づいてきた。俺は片膝をついて、フーマをかばいつつ、いつでも臨戦態勢に入れるようにした。剣も右手にある。


「生贄にするんですか?」

「それは陛下がお決めになる。俺は、色無しの国の情報が欲しい」

「嫌だと言ったら?」

「お前は反逆罪に問われる、おそらく死刑だろう」


 死刑……。


「どうする? 女を渡すか、極刑を選ぶか……」


 フーマが俺の肩に手を置いて、何か言った。


 え? 思わずフーマの方を向いてしまったが、視界の端で団長が剣を抜いたのが見えた。俺もとっさに剣を抜いた! 団長の剣とぶつかった! 訓練以外で初めて団長に剣を抜いた。うしろにディータがいた、弓でフーマを狙ってる!


「フーマ、逃げろ!」


 俺はフーマをかばおうとしたが、弓は俺の顔の右側をかすった。まさか……!


 振り向くとフーマは消えていた。よかった、逃げ切ったようだ。


「マクシミリアン!」


 団長に殴られて、胸ぐらをつかまれた。


「目を覚ませ! お前は利用されてるんだぞ!」

「違います! 俺たちは愛し合ってるんです!」

「じゃあ、なぜ女は1人で逃げた?」

「俺が『逃げろ』と言ったからです!」

「逃げる前に、女が何かお前に言ったな? なんて言ったんだ!?」

「……聞こえませんでした」


 団長がまた俺を殴った。


「嘘つけ、お前は聞こえてたはずだ! 何と言ってたんだ!?」

「だから、聞こえませんでした!」

「城で聞く、服を着ろ。ディータ、縄を」


 服を着たあと、ディータが俺に縄をかけた。そのまま俺の馬に乗せられて、城へ向かった。


***** 


 何だよ、やっぱりお前は裏切り者なのか? お前に団長の気持ちがわかるか? 俺の気持ちがわかるか? 頼むから、『騙された』と言ってくれよ。


 マクシミリアンを馬に乗せて、俺が引いて城へ向かった。見た目は犯罪人を連行しているように見える。一緒にユニコーンを倒したのが昨日だったなんて。お願いだから、これは秘密の作戦で、俺と団長もだましてたって言ってくれよ。


***** 


 マクシミリアン、大丈夫かしら? 団長に説得されて、あの女と別れたかしら? 戻ってきたわ! え? マクシミリアンが縛られてる、どうして? 私は思わず下に降りて行ったの。


「姫様、だめです!」

「メリーナ、行かせて! マクシミリアンが……」

「マクシミリアン!」


 マクシミリアンは顔をあげなかったけど、殴られた跡がある! 口からも血が出てるし……。


「姫、下がっててください」

「マクシミリアンをどうするつもり!?」

「地下牢へ送ります」

「ルーファス!」

「彼はヴァルムートを裏切った可能性があります」

「違うわ!」

「メリーナ、姫を奥へ」

「は、はい」

「マクシミリアン!」


 私のせいだわ。裏切り者は死刑だもの。死刑になるくらいだったら、ほっておけば良かった! そのうちあの女に飽きたでしょうに。私は嫉妬心から、いったいなんてことをしてしまったの?


*****


 地下牢には何度も来たことはあるが、入るのは初めてだ。さすがに縄は解いてくれたが、暗い狭い部屋。変な臭いもする。団長が椅子を2つ持ってきた。


「座れ」


 言われたとおりに座った。ディータが団長に何か言われて、牢を出た。


「話を聞かせてもらおうか」

「……何を聞きたいのですか?」


 俺は団長の顔を見ずに答えた。


「あの女に何をしゃべった?」


 何を話しただろう? もう遠い昔のような気がする。一生会うことはないんだろうか? フーマは怪我などせず、無事に戻れたんだろうか? あの洞窟にはフーマの血痕はなかったから、大丈夫なはずだけど……


「虹色女神の話をしました」

「こっちがあと1つだって言ったのか?」

「言いました」

「俺のパワーのことは話したのか」

「……話しました」


 団長が深いため息をついた。


「戦争になったら、奴らは1番に俺を狙うだろうな」


 俺は思わず顔をあげた。


「フーマは敵ではありません!」

「じゃあ、なんだ? 味方か? お前にユニコーンのことを教えたのは、お前からの信頼を得るためだ」

「違います!」

「でもお前はあの女を信頼して、ベラベラしゃべったんだろう?!」


 俺は黙ってうつむいていた。


「他に何を話したんだ?」

「他は……話してません。むしろ俺ばかり質問していました」

「何を聞いた?」

「色無しの国は、このままいけば亡びると……」

「そう言って同情を引こうとしたんじゃないのか?」

「本当だと思います。あのコウモリも元はエルフだったそうです。それに向こうの国に行きましたが、死の世界でした」

「色無しの国に行ったのか!?」

「……だから体調を崩したんです。5分といられませんでした」

「あの倒れてた日か」

「おそらく、フーマがゲート前に俺を連れ帰ったんだと思います」

「他は何を聞いた?」

「……ユニコーンは赤目に食べ飽きたから、こっちに来てると。黄色とオレンジばかり狙ってる理由は知らないようでした」

「じゃあ、ユニコーンは色無しが送ってきてるんじゃないんだな」

「おそらく。ただこっちのエネルギーと相性が良いみたいで、パワーアップしてるそうです。おそらくもっと強くなるでしょう」

「これ以上強くなったら、手の打ちようがない」


 団長は青ざめてきていた。


「こっちがユニコーンを倒す方法は?」

「……ないと思います」

「でもお前は倒せただろう?」

「それは、フーマが俺の剣にエネルギーを入れたからです」

「……それで、あの女とはいつからなんだ?」

「あの5人の色無しを見かけた満月の翌日からです」

「……約2か月か。あの女がお前の子を宿してたら、色無しはあと1つで全部揃う」


 俺は顔をあげた。フーマが俺の子を妊娠してるかもしれない? そしてその子が生贄になる? そんな……!


***** 


 アンドレアスとはほとんど話したことがない。いつも本を読んでいて、鍛錬をする気がないのを全面に出していたからだ。見る限りでは本の好みが近いようだったから、アンドレアスが読んでる本なら俺も好きかもしれないと、何冊か城の図書館で借りて読んだこともあった。機会があれば本の話をしたいと思ってたのに……、マクシミリアンの裏切りことを話さないといけないなんて。


「ディータ? どうした?」

「……マクシミリアンに裏切りの可能性が……」

「何だって?」


 俺は見たままを話した。アンドレアスの顔色がどんどん険しくなっていった。


「一緒に地下牢に来てください。今、マクシミリアンは団長から尋問を受けています」



 俺はアンドレアスと地下牢に行った。団長はまだマクシミリアンと話をしていたが、俺に気が付いた。団長は席を立って、牢の外に出てきた。


「アンドレアス、マクシミリアンは俺に話さなかったこともお前には言うだろうから、できるだけ聞きだせ。なんとかあの女に騙されてたことにしたい。協力するな?」

「……はい、もちろんです」


 アンドレアスが力なく了承した。団長はアンドレアスと牢へ入った。


「アンドレアスと話すと良い。ディータと俺は席を外すから」


***** 


 アンドレアスまで使いたくないが、マクシミリアンを助けるために手段は選ばない。ディータに静かにするように手で合図を送って、聞き耳を立てた。盗み聞きなどしたくないが、1つ裏切りが起こると、次々と疑ってかからないと。アンドレアスとマクシミリアンは仲が良い。だからこそ場合によっては、アンドレアスが聞いたことをすべてを俺に話さない可能性がある。


***** 


 団長が誰かと話してるのは聞こえたが、誰だかわからなかった。1人になれてホッとした。


「マクシミリアン……」


 俺は顔をあげた。


「兄上!」

「お前、いったい何をやったんだ?」

「……何もやってない。恋を……してるだけだ。ただその相手が色無しだっただけだよ」

「……相手が悪かったわけだ」


 アンドレアスが椅子に座った。


「その女性……、お前を利用してるわけじゃないんだろう?」

「フーマはそんな女じゃない」

「フーマと言うんだ」

「でも逆に俺が利用したかもしれない。ユニコーンのことも剣のことも、フーマのおかげなんだ」

「何をフーマに話したんだ?」

「フーマの方がたくさん知ってるよ。俺が言ったことでフーマが知らなかったのは、団長のパワーくらいだよ」

「団長のパワーについて話したのは、まずかっただろう?」

「そうだけど、でも……」


 でもそのおかげでペンダントをもらった。結局俺が使ってるが、今となってはフーマとコンタクトを取るための大事なものだ。


「『でも』?」


 兄上のことは信頼しているが、ペンダントの話をする気はなかった。


「いや、何でもない」


***** 


 『でも』? 『でも』なんだ? 俺のパワーのことで、マクシミリアンは何かあの女から聞いたのか? ディータを見ると俺と同じことが気になっているようだったが、聞こえないようだ。


***** 


「話してくれよ、マクシミリアン。団長のパワーがどうしたんだ?」


 俺は席を立って、壁の方へ歩いた。ここは地下牢とはいえ、半地下だから壁の上部に細い窓がある。人が通れるわけがないのに、鉄格子まである。晴れの日は陽が差すだろうが、雨の日は雨水が入ってくるだろう。


「マクシミリアン? 今、お前は裏切り者として扱われてるだろう? 知ってることをすべて話せば、恩赦があるかもしれないぞ」


***** 


 会話が聞こえづらくなった。そっと牢を覗くと、2人が壁際に移動していた。アンドレアスが、聞いたことをすべて俺に話してもらわないと困るんだが……。


***** 


「そうだけど、両国の仲たがいがなくなれば、すべて解決だ」


 そう言って、俺は兄上の顔を見た。


「でも、どうやって?」

「虹色女神を召喚する。そのためにも俺はフーマに会わないと」

「どうやって会うんだよ?」

「フーマはここには瞬間移動はできない、狭すぎるんだ。だから空間のあるところへ行って、来てもらうように念じる」

「テレパシーってことか?」

「いや、そこまでは無理だ。俺に能力がないからだ。でも俺が念じれば、フーマにはわかる」

「どうしたいんだ?」

「まずは外に出たい、もしくはもう少し広い部屋に移動したい。たぶん地下では広くてもダメだと思う」

「フーマが現れたら、おそらく弓でやられるぞ」

「だから、誰もいないところで……」

「難しいだろう。お前は監視され続けるだろうから……」

「わかってる、でもなんとかしないと……」


***** 


 会話の内容は聞き取りづらいが、マクシミリアンはアンドレアスには、目をみてちゃんと素直に話してる。この調子でアンドレアスに、すべてしゃべってくれると良いんだが。ディータを見ると頷いた。どうやら同じことを思ってるらしい。


***** 


「マクシミリアン、アンデミーラ家のことも考えてもらいたい。お前が裏切り者とみなされたら、おそらくすべて屋敷も財産も没収され、父上も兄上も幽閉されるだろう」


 家のこと……。考えてなかった!


「だから、知ってることをすべて話して欲しいんだ」

「……もうすべて話したよ」

「さっき言いかけたことがあっただろう? 団長のパワーのことで」

「あれは……俺がちょっとフーマのことを思い出しただけだ」

「……信じて良いんだな?」

「もうフーマに一生会えないかもしれないと思うだけで、悲しかっただけだ」


 だからこそ、フーマに会わなければ。そのためにもペンダントのことは絶対言えない。


「もし何か思い出したら、話してくれるよな?」

「……もちろん」


 兄上は俺の肩に手を置いて、元気づけるようにしてから牢を去った。


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