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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
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Chapter 7

*** Chapter 7 ***


 どうも腑に落ちない。マクシミリアンに手柄を取られて悔しいが、なんで急にあんなに強くなったんだ? 剣だってそうだ。トラビスが怪我したのは、剣のせいだった。でもマクシミリアンの剣だと、角を切り落とせた。おかしい、何か裏があるはずだ……。ダメもとで、俺はマクシミリアンに聞いてみることにした。



「マクシミリアン、俺、ディータだけど、ちょっと良いか?」

「ああ、どうぞ」


 俺はマクシミリアンの部屋に入った。俺の部屋とほとんど同じ。団長、副団長以外は独身だったら、同じ間取りだ。


「なんで、急にユニコーンを倒せるようになったんだよ?」

「なんでって……」


 やっぱり、答えに困ってる。


「どこで聞き込みをして、ユニコーンの秘密がわかったんだよ?」

「俺が聞いた秘密は、団長はもう知ってたよ」

「角が弱点っていう話か?」

「そう」

「それにお前の剣って、別に特別な剣じゃないだろう?」

「普通の剣だと思うよ」


 そう言って、マクシミリアンが剣を俺に見せてくれた。


「そうだな、普通の剣だよな」


 俺は剣を抜いた。マクシミリアンが丁寧に手入れをしてるから、刃こぼれもなく見事な剣だった。


「お前の方が物は良いかもな。三男坊になんて良い剣は回ってこないよ」


 マクシミリアンがそう言ったが、俺はそう思わなかった。俺は剣を鞘に戻して、マクシミリアンに返した。


「それともマクシミリアン、まさか、パワーが開花してきたとか?」

「俺のパワー?」

「団長も入団してから、突然あのパワーが現れたらしいし」

「そうかもしれないけど、わからないな」

「今度、ユニコーンが来たら、俺にその剣を貸してくれよ。お前はどうせ行けないんだから」

「どうして?」

「それで俺が切り落とせたら、剣のおかげ、ダメだったらお前の能力が開花したってわかるだろう」

「騎士が剣を他人に使わせることは、ご法度だろう」

「わかってるよ!」

「なんであれ、剣は貸せない。心配しなくても、どうせ俺は次回は行かせてもらえないから、手柄はディータのものだよ」

「手柄だけの話じゃないけど、まあな。お前は留守番だもんな」

「そうだよ、つまんないな。これでは、何のために入団したかわからないよ」

「でも虹色女神に件が落ち着いたら、お前も前線に出れるだろう」

「そうだけど、いつになるやら、だよな」


 マクシミリアンの剣は特に変わったところがなかった。ということはパワーが開花してきた可能性が高いか……。もしそうなら、俺のが開花しない限り、マクシミリアンを出し抜くことはできなさそうだな。


***** 


 ディータが帰った。怪しまれるのは当たり前だ。剣を見せても、前は石が碧だったことを知らなかったから、バレなかった。フーマがユニコーンのパワーが増大してるって言ってたし、俺なしでは勝てないどころか、被害者ばかり出るだろう。だからといって、虹色女神を召喚するには、こっちは最後の1人、赤目が必要だが色無しの国から誘拐なんてできるわけないし……。エルザ姫と団長の結婚式に色無しの王族が来て、少しでも関係が改善されれば、良いが……。ユニコーンは色無しの意図とは関係なしに、黄色とオレンジを食べてるようだし、その理由もわからないしな。



 朝食を終えて、俺は市場へ向かった。フーマへのプレゼント……。俺としてはショールをあげたいと思っていた。いつも薄い色の服を着てるから、濃い色でなければ持っててもばれないと思ったし、色の無い世界に生きてるからこそ、少しでも色のあるものをあげたかった。俺は、女性が好きそうなものが売ってるエリアへ向かった。


 が、難しい! ショールってこんなに種類があるのか……


「彼女へのプレゼントですか?」


 売り子が話しかけてきた。


「あ、はい、ショールにしたいんですけど、種類が多すぎて……」

「肩からはおる感じのがお好みでしたら、これとか素敵ですよ」


 見せてくれたのは、それこそ色は薄いが虹色のショールで縁はレースになっていた。


「きれいですね」


***** 


 今日は私の大好きな市の立つ日。ボヘミアンたちがブースを出してたら、掘り出し物が見つかるかも! 侍女のメリーナを連れて、市へ向かったの。


「お姉さまの結婚式につけていく、アクセサリーか髪飾りを探してるの」

「姫様の金髪にはなんでもお似合いですよ」

「ふふふ、ありがとう!」


 市の日は、買い食いもできるし、良い気晴らしなのよね。


「あ、マクシミリアン様では?」


 え? マクシミリアンが市に来るなんて、それも女性用の何かを物色してる!


「メリーナ、隠れて! 見つからないようにしましょう!」

「どうしてですか? 仲がよろしいのに」

「私へのプレゼントを探してるかもしれないでしょ?」

「そうですね、気が付きませんでした」


 あんな優しそうな顔、私には見せたことがない。ショール? あの色だと、私よりお姉さまの方が似合いそう。今まで誕生日以外で、何もくださったことはないけれど、私の誕生日も約1年後だし、まさかどなたか想う方がいらっしゃるのかしら? だからお父様が婚約を許してくださらなかったの?


***** 


「これにします」

「プレゼントですよね? ラッピングしましょうか?」

「お願いします」


 良かった。俺もこのショールは素敵だと思ったし、フーマに似合うと思った。早く渡したい。お金を払って、きれいにラッピングされたショールを受け取った。できれば、花束もあげたいと思ったが、さすがにバレるか……。あの城の中庭でさえ、木も枯れていた死の世界だったもんな。だからこそ、花も見せてあげたい。ドライフラワーとか売ってるかな? 色もきれいに残ってるなら、隠せるし良いかと思ったが……


*****


「ショールをお買い上げされましたけど、まだ何か物色されていますね」


 私へのプレゼントじゃないわ、絶対。マクシミリアンに誰かいるなんて、今まで考えたことがなかったわ。誰かしら? 城で私とお姉さま以外の女性と話してるところなんて、見たことないけど。まさか? そうよね、それはないわよね、お姉さまはルーファスと婚約されたんだし。じゃあいったい誰なの……?


***** 


 ドライフラワーは結局やめた。生きてる花を見せたいからな。もう城へ戻って、今日は早めに行こう。洞窟で待たされるかもしれないけど、フーマのことを考えていたら、時間などすぐ経ってしまう。


***** 


「城へ帰られるようね」

「お声をかけなくても、よろしいのですか?」

「良いわよ、後で城でお話しするから」


 強がってみたけれど、本当は今すぐ問いただしたかったの。でも見苦しいところは見せたくないし……。ストーカーかもしれないけど、誰なのかはっきりさせたいわね。


「買い物はもういいわ。城へ戻りましょう」

「良いんですか? ほとんどご覧になっていらっしゃいませんが」

「良いわよ、式まで3か月もあるもの」


 マクシミリアンから目を離さないようにしなくては。


***** 


 今日は市でも買い食いしたから、腹は減ってない。最悪夕食に間に合わなくてもいいから、フーマが大丈夫なら今日は遅くまで一緒にいたい。馬を出して、マリエン湖へ向かった。


***** 


「姫様、馬で外出はいけません!」


 城下町の外の女なの? 早く追わなければ!


「どうして? マクシミリアンを追いたいの! メリーナ、私の気持ちを知ってるんでしょ? あのショールは私にではないみたいだし、はっきりさせたいのよ!」

「そうですが……」

「早くしないと見失ってしまうわ!」

「マクシミリアンでしたら、マリエン湖ですよ」

「バッヘン! 知ってるの?」

「はい、ほとんど毎晩行ってますよ」


 毎晩行ってるって? そんなに夢中なの?


「何しに?」

「気晴らしにって。小さいときに夏に泳いでたのもあって、好きな場所らしいですよ」

「馬を出してくれる?」

「でも姫様、それは陛下の許可が……」

「マリエン湖までって近いじゃない、問題ないから」

「命令よ! 馬を出しなさい!」


 メリーナとバッヘンが顔を見合わせてるわ。


「早く!」

「は、かしこまりました」

「私も行きます!」

「馬に乗れるのね?」

「乗れます!」

「じゃあ、2頭お願い」


 バッヘンがもたもたしてたから、出発が遅くなったけど、マリエン湖ならそんなに大きな湖じゃないからたぶん大丈夫。


「姫様、暗くなる前には戻りませんと……」

「もちろん。夕食前には戻りましょう」


 馬を走らせたいけど、さすがにそれはメリーナが許してくれなかったわ。早く大きくなりたい。12歳って何もさせてもらえないんだもん!


*****


 いつもの場所に馬をつないで、洞窟に入った。ちょっと早かったか。でももう冬が来るから陽が沈むのが早い。


「マクシミリアン」

「フーマ!」


 俺はフーマを抱きしめた。


「今日は早かったんだな」

「ええ、うまく抜け出せたわ」

「これ……この間のお礼」

「え? またプレゼントなんて……」

「でもおかげでユニコーンを2頭倒せたし、ユニコーンの血で治療もできてトラビスが助かった」

「少しテレパシー能力が出てきたのかもね」

「じゃあ、血のことを教えてくれたんだな?」

「ええ、わかってくれてよかったわ」

「開けてみて。これなら持ってても誰にも怪しまれないと思ったんだけど……」


 フーマがラッピングを破った。


「まあ、きれい……! この縁のは……素敵だけど、何?」

「レースだよ。レース職人が編んだものだよ」


 フーマがショールを羽織った。白い髪と肌にぴったりだった。


「ありがとう! 大切にするわ!」


 フーマと結婚できたらと何度思ったことか。でも今の状態では絶対無理だ。だからこそ、この洞窟での密会は俺にとって欠かせないものだった。


***** 


 馬を走らせることはできなかったけど、やっとマリエン湖に着いたわ。


「思ったより大きな湖ね?」

「姫様も小さいときに夏はここで泳がれたことがありますけど、覚えてらっしゃらないですか?」

「覚えてるわよ、1回溺れたもの」

「溺れたのはエルザ姫様でしたが」

「あ、そうだった? でもそれがトラウマで今でも泳ぐのは怖いのよね」


 マクシミリアンの馬がどこかにつながれてるはずなんだけど、それともマリエン湖よりももっと向こうに行ってしまったかしら?


「あ、あれ、馬ではないですか?」

「何か見えた?」

「茶色の何かが動きましたが、馬だと思います」


 やっぱり、マクシミリアンの馬だったわ! 


「私たちの馬もここにつないで、マクシミリアンを探しましょう!」

「姫様、こんなこと、されない方が良いと思いますが……。もしマクシミリアン様に知れたら……」

「わかってるけど、気になるのよ。それが恋なんでしょう?」

「そうですが……」

「しーっ、話し声が聞こえるわ」


 そっと私たちは声の方に向かうと洞窟があったの! ここが密会の場所ね? メリーナに待つように指示をして、私はそっと洞窟を覗いたの。マクシミリアン! 銀髪の女と抱き合って、あんな顔、見たことない! そんなにその女を愛してるの? 悲しい。私が大人だったら……! 涙が出てきたわ。これが失恋? でも4年あるんだから、別れさせて忘れさせれば大丈夫よ!


 今度はキスしてる! 横顔が見えた、え? 色無し? 色無しの女? マクシミリアンは色無しの女と会ってるの?


「メリーナ、戻りましょう」

「マクシミリアン様は中にいらしたんですか?」

「ええ、町娘とだったわ。きっとすぐに飽きるでしょ。若いんだから、結婚まで好きにさせてあげるわ」


 マクシミリアンに見つからないように、メリーナと急ぎ足で城へ戻ったけど、なんてこと。出世を棒に振ってもいいくらい、好きなのかしら? 許せない!



 ルーファスにこの事態をなんとかしてもらわないと。お父様に知れたら、私たちの結婚がなくなってしまう!


「ルーファス、ちょっと良いかしら?」

「ソフィア姫? どうぞお入りください」


 ルーファスの部屋、初めて来たわ。


「メリーナ、大事な話だから、外で待ってて」

「でも……」

「ルーファスはお姉さまのフィアンセよ。すぐお義兄様になるんだから」

「……わかりました」


 私は1人で部屋に入ったの。


「どうかされましたか?」

「お義兄様」

「あ、まだですよ、いつも通り、名前でお呼びください」


 ルーファスが恥ずかしそうに笑ったわ。


「実はお願いがあってきたの。お義兄様にしか相談できないことなの」

「何でしょうか?」

「マクシミリアンのことなんだけど……」

「はい」

「色無しの女と付き合ってるの」

「何ですって?」

「マリエン湖の湖畔の洞窟で毎晩会ってるの。今日もショールのプレゼントをしたのよ」

「そんなこと、あってはいけないことです! 確かなんですか?」

「ええ、今日見たもの。まだ洞窟にいると思うわ。抱き合ってキスしてたのよ」


 ルーファスの驚き方が想像以上だけど、そんなに大変なことなの?


「それでお願いというのは、事を大きくしないでいただきたいの。別れさせればそれでいいでしょう? お父様に知れたら、私との婚姻がだめになってしまうし、マクシミリアンのキャリアにも傷がつくし……」

「マリエン湖の洞窟とおっしゃいましたね?」

「ええ、そうよ」


 ルーファスは出かける身支度を始めたわ!


「え? まさか今から……」

「もちろんです」

「お願い、行かれるなら1人で行って。お父さまにも言わないで、お願い!」

「申し訳ございませんが、姫のお願いは聞けません」

「どうして?!」

「裏切り行為の可能性があります! 処罰は陛下がお決めになります」

「裏切り行為!? 何の話をしているの? ルーファス! 命令よ、やめなさい!」

「申し訳ございません、その命令は聞けません」

「ルーファス!」


 ルーファスが行ってしまった! 私は何をしてしまったの? どうしよう……!


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