Chapter 6
*** Chapter 6 ***
だいぶ気分が良くなった。マリエン湖へ行けるだろうか。早く、フーマに会いたい。でも気分が悪くなったのは、色無しの国へ行ったせい? 『もうすぐ死ぬ』国にいて、俺が体調を崩したならフーマは大丈夫なんだろうか? 気ばかりはやるが、医者の許可が出ないと何もできない。
「マクシミリアン、もう起き上がって大丈夫なの?」
窓際に立つ俺を見たソフィア姫だった。
「はい、もう大丈夫です」
「そうね、顔色も良くなったものね」
「早く任務に戻らないと」
「でもちゃんと治さないと」
「そうですが……」
「お父様に私たちの婚約の話をしたんだけど……」
え? そんな気の早い……!
「だめだって」
「え? 陛下が許可されなかったのですか?」
「マクシミリアンからも言って! 『私達は愛し合ってるから』って」
「いえ、それはございませんが、どうして却下されたか理由は聞かれましたか?」
近衛団からなら、基本誰でも陛下は許可するはずなのに。俺に何か問題でもあるのか?
「まさか、お父様に何かおっしゃったの?」
「何も申し上げていませんが……」
ソフィア姫と結婚しないで済むのは助かったが、どうしてだろう? 単にソフィア姫が若すぎるからという理由なら良いが……。
「その代わり、お姉さまとルーファスの婚姻が決まったのよ」
「そうですか! それは素晴らしいニュースです!」
「そうよね、ルーファスはお姉さまに恋されていたものね」
それもそうだが、姫が生贄にならないようで良かった。
「次は私達よね。根気よくお父様を説得しなくては」
説得などしなくても良いんだが……。
「姫、家庭教師がまもなく到着されます」
姫が侍女のメリーナに急かされて嫌そうにした。
「また来るわね、マクシミリアン」
「今日はわざわざありがとうございました」
結婚か。俺とフーマとの結婚なんてありえないだろうな。両国のいがみ合いは、いつ終わるんだろう。今すぐフーマに会いたい。俺は医務室へ向かった。外出許可さえ出れば、今晩マリエン湖へ行きたい。
ちょっと強引だったが、医者の許可をもらった。バッヘンの心配をよそに、夕食前にマリエン湖へ向かった。久々に馬を走らせた。風が気持ちいい。
フーマを探して湖畔をもう2周も歩いたが、いない。俺がフーマのことを考えたら、感じられると言ってたのに……。4日も来なかったから、もう会えないと思ったんだろうか?
諦めて帰ろうとしたら、フーマが現れた。
「フーマ、良かった……」
「こっちで話しましょう」
フーマに手を引かれて、あの洞窟に入った。
「大丈夫?」
フーマの両手が俺の頬を触っている。
「もう大丈夫だけど、俺に何が起きたんだ?」
「気がつかなくて、ごめんなさい。私の国にはもう死が訪れているのね」
「でもフーマは大丈夫なのか、そこにいて」
「城内はまだ大丈夫。でも中には連れていけなかったから中庭に降りたけど、だめだったみたいね」
「俺を連れてても、瞬間移動ができるのか?」
「短い距離ならね」
俺はフーマを見つめた。そして頬にキスをした。フーマは嫌がらなかったから、今度は唇にキスをした。俺たちが恋に落ちるのに時間はかからなかった。
俺はフーマを腕枕しながら、フーマの国のことをたくさん質問した。
「じゃあ、中庭にはもう花は咲かないのか?」
「もう何年も咲いたところなんて、見たことがないわ」
「城内は安全って、いつかそこも危険になるってことか?」
「……なるでしょうね」
「どうすればその『死』を止めることができるんだ?」
「虹色女神のエネルギーしかないでしょうね」
「でもそれには生贄が……」
「そう、あと2色」
「オレンジと黄色か」
「もう行かないと」
フーマが身体を起こした。
「明日も会える?」
「もちろんよ」
フーマは俺にキスをして消えた。
こっちに両目とも黄色とオレンジが何人いるんだろう。城に戻ったら確認してみよう。でも陛下が、その2人を色無しに提供するとは思えない。色無しが赤目を1人提供してくれれば、こっちは揃うが……。
*****
帰ったのが遅すぎて、夕食が終わっていた。コック長に頼んで、残り物を厨房で食べていた。
「どこに行ってたんだよ」
ディータが俺の横に座った。
「久々の外出だから、遠出しただけだよ」
「それにお茶会の後のどうしても外せない用事って何だったんだよ?」
「それも遠出しただけだよ。城は時々、窮屈に感じるからな」
「そうか、お前が離席したあと、お茶会はすぐ終わったよ」
「姫と話すこともないだろうから、良かったな」
「まあな。俺はもういいや。1回行って気が済んだ」
「ところで、黄色とオレンジの人数はわかったのか?」
「ああ、両目とも黄色が3人、オレンジが4人、お前みたいな黄色とオレンジ両方を持ってるのが14人で、後はアンドレアスみたいな片方がそうなのはかなりいる、たぶん1000人以上いるかな」
俺の兄上も黄色と緑だもんな。家族で俺だけが黄色とオレンジだ。
「黄色が3人、オレンジが4人……そんなに少ないのか?」
「両目とも同じ色となると、急に数が減るよな」
そう、ここは何色であれ、両目同じ色は珍しい。
「お前の子供が、黄色かオレンジの可能性って高いよな」
「どうだろう? 相手によるだろう」
「でも遺伝子は持ってるんだから、俺よりは高いよな」
「まあな」
「陛下がエルザ姫と団長の結婚式に、色無しの王族を招待したって聞いたか?」
「ほんとか?」
俺は思わず、食べ物を詰まらせそうになった。
「ああ、うまく行けば友好関係の調印も視野に入れてるらしい」
「うまく行くと良いけど……」
フーマと堂々と過ごせる日が来るかもしれない。
「俺は当日、警護に当たるがお前は自室待機だから」
「どうして?」
「貴重な黄色とオレンジだからな」
「団長に確認するから」
「団長が護衛の指揮を執るわけないだろう、花婿なんだから。団長に代わって、俺が指揮を執る」
「どうしてお前なんだよ?」
「お前は任務から外れるからな。俺とトラビスでやるから」
そんな!
「団長に確認するから!」
俺は食べ終わって、即、団長室へ向かった。
「マクシミリアンです」
「入れ」
「団長、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとう」
満面の笑みだ。こんな笑顔、見たことがない。良かった……
「それで、式当日の警護の指揮はディータとトラビスだと聞きましたが」
「そうだ、悪いがお前は自室待機だ」
「どうしてですか?」
「色無しの王族が来る予定だからだ。お前を見せるわけにはいかないからな」
やっぱり……!
「……わかりました。では、せめて結婚式には出席させてください。帽子をかぶるなり眼帯なりしますから」
「帽子は失礼だから、眼帯に眼鏡だな」
「わかりました」
俺は部屋を出た。やっぱり……しょうがないとはいえ、納得が行かなかった。
式は3か月後となった。トラビスとディータは、警護のプランと訓練で張り切っている。どうせ、俺は関係ないし。早めにマリエン湖へ向かった。日差しがまだきついが、洞窟で待ってたらフーマに会えるかもしれない。
でもかなり陽が落ちるまで、フーマは来なかった。
「早くに来てたことは知ってたけど、無理だったわ」
「直接、洞窟に瞬間移動すれば、陽は関係ないかと思ったけど、そうじゃないんだな」
「洞窟から瞬間移動はできても、洞窟にはできないわ」
「どうして?」
「空間の歪みに入るにはさほどエネルギーも空間もいらないけど、歪みから出るときには空間がある程度は必要なの」
「そうなんだ?」
フーマは洞窟を見回して言った。
「ここは狭すぎるから、無理ね」
「色々あるんだな」
「そうね、パワーを持ってるのも良し悪しよね」
「そうだ、ユニコーンの角で武器を作ったら、何か効果があるのか?」
「作ったことないからわからないけど、剣の代わりになることはないわね」
「そうなんだ」
「これからどんどん凶暴になるから、気を付けて」
「どうして?」
「ここの世界の方がエネルギー的に合ってるんでしょうね。パワーが増幅してきてるから、そのうちこの剣でも倒せなくなるかも」
「じゃあどうしたら良い?」
「もっと強い剣を手に入れるか、虹色女神を具現化するか、どちらかでしょうね」
「平和的な解決は、虹色女神か」
「団長さん用にあげたペンダント、まだ持ってる?」
「ああ、あるよ」
首からかけていたペンダントをフーマに渡した。フーマはそれを握って、どうやらエネルギーを入れているようだった。
「かけてみて」
かけてみたが、特に何も感じなかった。
「これだとどう?」
ペンダントが急に熱くなってきた! なんだ?
「感じたみたいね」
「何をやったんだよ?」
「強い念を送ったら反応したわね。じゃあ、私に念を送ってみて」
やったことないけど、フーマのことを考えてみた。
「ちゃんと機能してるわね。もし危険な目に遭ったらやってみて。私の元に念が届くから」
「助けに来てくれるってことか?」
「状況次第だけど、少なくとも剣にパワーを送るとかはできるかもしれない」
「ありがとう……」
俺はフーマを抱きしめて、フーマの髪に顔を埋めた。いい匂いがする。俺の世界にはない香りだった。
「帰らないと! また夕ご飯を食べそこなう」
「そうね」
フーマも俺も服を着た。
「また明日ね」
フーマはそう言って俺にキスをして消えた。フーマに会って、だいぶ落ち込みが直った。
城に戻ると大騒ぎになっていた。
「どうした!?」
「マクシミリアン、どこにいたんですか? ユニコーンがまた出たんですよ!」
チームトラビスの新人だった。
「どこに? またアンデミーラの森か?」
「はい、でも黄色とオレンジがいないせいか、大暴れで手を焼いています。騎士の中でも犠牲者がついにでました。僕もこれから応援に行きます」
「俺も行く!」
「でもマクシミリアンは……」
「行くに決まってるだろう!」
俺と新人を入れて8人で、応援に向かった。命令違反だが、今日フーマにエネルギーも入れてもらったし、大丈夫だ。
「何しに来た、マクシミリアン!」
「団長! もちろん援護です」
「お前はだめだ!」
「できます!」
ユニコーン、いつものより大きい! フーマの言った通りだった。パワーが増してる!
「でかいですね」
「今回は2頭いる」
「え?」
「村は全滅に近い。黄色とオレンジを探しながら、村を破壊している」
「そんな!」
「村人は無事だ。全員避難させたからな。でもトラビスが……」
「まさか……」
「前回倒した時のフォーメーションでお前のパートをやったが、角が切り落とせなかったからやられた、まだ息はあるが……。それに角で作った弓矢は効果なかった」
「その2頭はどこですか?」
「この向こうだ。もし1頭倒せたら、俺がパワーで仕留める」
俺は2頭のユニコーンの元へ馬で向かった。俺の馬ジョスターは優秀だ。奴の足元をちょろちょろして、気を散らしてやる!
「マクシミリアン、来るな!」
ディータだ。すでに頭から血が出てる。
俺はジョスターを走らせながら、ジョスターの背の上でしゃがんだ。フーマ、頼む……! ジョスターが1頭目のユニコーンの下に入ったが、もう1頭が俺を追ってるせいもあって、まだ気が付いていない。俺は飛び上がって、たてがみにつかまった。俺を振り落とそうと首を振っているが、負けるか! 長いたてがみをつたって、頭まで来た。さあ、ここからどうする? もう1頭が俺に角を向けて突進してくる! まずい! 俺はとっさによけたと同時に、突進してきたユニコーンの角を切り落とした! 角を失ったユニコーンがもう1頭に倒れ掛かった。このチャンス、逃すものか! もう1頭の角も切り落とした!
地響きとともに、2頭とも倒れた。やった、2頭とも仕留めた……。
「マクシミリアン、大丈夫か!?」
ディータだ。
「大丈夫だ。お前、血が……」
「大したことないよ、それよりお前……すごいな」
団長もそばに来た。
「マクシミリアン……驚いたな、1人で2頭とも倒すとは」
「弱点が見えてきたからですよ」
とっさにそう答えたが、フーマのおかげだ。
「トラビスは?」
「角で腹をやられた」
「そんな!」
すごい出血量だ。動かさない方がよさそうだが、ここでは治療はできない。
アイデアが入ってきた。まさかフーマとテレパシーでつながってる?
「ユニコーンは角以外は、ヒーリング能力で自分で治癒ができます。ユニコーンの血を塗ってみたらどうでしょう?」
みんなが顔を見合わせた。
「ユニコーンによる傷なら、効果があるかもしれません」
「試す価値はあるだろう、布にユニコーンの血を浸して、それを傷口に当ててみよう」
団長の一言で、トラビスの騎士の2人がやってみた。トラビスの意識が戻りそうだ。
「団長、もう少しやってみますか?」
「ああ、そうだな、やってみよう」
「俺も自分の傷にやってみるよ」
ディータが頭の傷に直接、ユニコーンの血を塗った。
「わ、ちょっと沁みるが……痛みがひいてきたぞ」
俺が傷口を確認すると、治り始めていた!
「トラビスの意識が戻ったぞ!」
良かった……!
「大活躍だったな、マクシミリアン」
「ありがとうございます!」
「でも次回は来るな」
「団長?!」
「明日から、訓練の内容をマクシミリアンに任せよう。ユニコーン対策としてな」
明日から訓練リーダーか。でも、倒せたのはフーマと剣のおかげだからな。でもそれは言えなかった。
トラビスは治療が必要だが、命に別条はないところまではユニコーンの血で回復できた、良かった。フーマにまたお礼がしたい。本当だったら、街を案内してあげたいが、夜は閉まってるし、リスクが高すぎる。そうなるとやっぱり何かプレゼントになるが、何が良いだろう? 明日休みだし、市場に行ってみるか……




