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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
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Chapter 4

*** Chapter 4 ***


 今日も夕食前に、湖へ向かった。その方がバッヘンに詮索されなくて済む。


 昨日会ったあたりを何度も歩いても、フーマがいない。俺が念じたら伝わるって言ってたのに……。


 あきらめて帰ろうとしたら、フーマが現れた。


「ごめんなさい、ちょっとこっちで会いましょう」


 湖畔のそばに洞窟がある。入り口の大きさの割に、中は広い。小さいときにアンドレアス兄上と入ったことがあった。


「来ないかと思った」

「ごめんなさい、なかなか出れなくて」


 そう言ってフーマはペンダントをくれた。


「フーマのと色違いに見えるな」

「見た目はね」

「ありがとう」


 でも団長に渡したくないな。渡す理由も見つからないし、フーマからのプレゼントは俺が使いたい。


「もし、俺が使ったらどうなるんだろう?」

「パワーに目覚めるかもね」

「それなら、俺が使う」


 そう言って俺は首からかけた。フーマが意外な顔をした。


「じゃあ、団長さんがピンチになったときに渡してあげて」

「わかった。それで……もし、ユニコーンの弱点を知ってたら教えて欲しいんだけど」

「ユニコーンの弱点?」

「任務から外されそうなんだ」

「ユニコーンの角を狙ったことある?」

「狙わせてくれないから、試みたこともないよ。弱点だとは思ってるけど、剣では切り落とせないらしいし、あれで突かれるとやられるからな。だから全然太刀打ちできないよ」

「剣を見せて」


 俺は剣を抜いて、フーマに渡した。アンデミーラ侯爵家に伝わる剣だが、三男に回ってくるのは物は悪くないが、少なくとも名剣ではなかった。


「これでは勝てないわ」

「やっぱり!」 


 俺の腕のせいではなかったか。フーマが剣についてる碧の石を黄色に変えた。


「どうやったんだよ!?」

「マクシミリアンは目の色と同じものを使うべきよ」

「関係あるのか?」

「もちろんよ。そのペンダントも団長さんより、マクシミリアンの方が使いこなせるかもね。団長さんの目は黄色じゃないんでしょ?」

「……違う、でも光は黄色だけど」

「そこが、ヴァラーに突然変異で出たパワーの欠点よね」


 フーマは俺以上に色々知ってるようだった。


「これで戦ってみて。ユニコーンの角の根本を切り落とせば、倒せるわ」

「ありがとう!」


 フーマがハッとしたような素振りを見せた。


「行かないと!」


 別れの言葉を言う前に、フーマが消えた。


***** 


 見つかったら、罰を受けるだけでは済まないでしょうね。ペンダントと剣にまでエネルギーを入れてしまったもの。でもマクシミリアンを助けてあげれるなら……。もし一緒に虹色女神を見つけることができたら、堂々とマクシミリアンと一緒に入れる未来が来るかもしれない。


***** 


 やった! フーマのおかげでディータに差をつけれるし、ユニコーンさえ倒せば、生贄以外の方法で虹色女神に会える方法も見つかるもしれない。両国が国交を復活すれば、フーマともっと一緒にいれるようになるんだろうか?



 バッヘンにまた『遅い!』と怒られたが、夕食にぎりぎり間に合った。フーマから聞いた情報をどうやって、団長に話そうか? 色無しと会ってることを知られたら、処罰だろうか? 情報収集としてなら、問題ないはず。でもフーマにスパイをさせたくないな。俺がフーマに会いたいのは情報のためじゃない。でも、今日の俺だと、フーマに勘違いされるかもしれない。お礼がしたいし、俺の気持ちも伝えたい。


「何ぼんやりしてるんだよ! 恋煩いか? ソフィア姫、可愛いもんな。しょっちゅうお前のことを見に鍛錬に顔を出すもんな」

「ディータか、びっくりした!」

「お前、ついに姫と恋に落ちたか?」

「まさか! でも『婚姻を考えてもらいたい』って言われたよ」

「そうなんだ!?」

「俺は嫌だけど、4年後なんて誰にもわからないしな」

「まあな、お前、ユニコーンにさらわれてるかもしれないしな」

「絶対ない!」

「ないよな、もう任務から外れたし」

「外れてない!」


 団長を説得しなくては。せっかく弱点も聞いたし、剣も強くしてもらったんだから。



「団長、マクシミリアンです、よろしいでしょうか?」


 俺はノックの後、団長室の前で言った。


「入れ」


 中へ入ると、団長は地図らしきものを見ていた。1人で作戦を考えておられるようだった。


「ユニコーンの弱点がわかりました、あの角です」

「そんなことわかってる。問題は、我々の剣では切り落とせないということだ」

「俺はまだ試していません」

「試す前にやられてるからだろう」


 違う。もう少しと言うところで、団長がパワーを使うせいだ。


「今度は大丈夫です」

「その自信はどこから来てるんだ? ディータに負けたくないからじゃないだろうな?」

「違います」


 真相を言おうとしたがは言えなかった。フーマを捕らえるよう命令されるのがわかってたからだ。フーマを入れればこっちは7色揃う。フーマを生贄には絶対したくなかった。


「……わかった。あと1回だけチャンスをやろう」


「ありがとうございます!」

「ただし、今度だめだったら、ユニコーン任務から外す。お前は貴重な黄色とオレンジなんだから。納得してもらいたい」

「わかりました」


 団長室を後にした。今度こそ、必ず仕留める。


***** 


 マクシミリアンは自信家だが、実際実力も伴ってる。今度のユニコーン征伐に連れて行きたくなかったが、ユニコーンを倒そうが倒すまいが、マクシミリアンなしでこちらの被害をゼロで済ませる自信がなかった。1頭だけだったら、俺がまたパワーを使えば良いが、それでは何もわからない。もしマクシミリアンが倒せれば、ユニコーンのこともわかるだろうし、エルザ姫との婚約が1歩近づくかもしれない。


***** 


 俺は用事があると嘘をついて、市場に出掛けた。フーマにペンダントのお礼として、口紅をあげたいと思ったからだ。月夜明かりでは唇はほんのりピンクに見えたが、やはり基本は色無しだから、白い。俺の髪がうらやましいなら、口紅もきっと喜んでくれるだろう。



 その後の鍛錬は、フーマに渡す瞬間のことを考えると集中できなかった。この間の新人への八つ当たりの仕返しか、今日は新人にかなりやられた。


「マクシミリアン、大丈夫?」


 ソフィア姫だ。また見に来てたのか。


「大丈夫です。危ないから姫は下がっててください」


 そう言って俺は、メリーナに目配せして姫を安全な場所へ連れていってもらった。


「マクシミリアン、どうされたのですか? 調子悪そうですが?」


 新人にまで心配されてた。


「いや、手を抜いてやってるんだよ」

「そうは見えませんが?」

「そうなんだよ!」俺は不意打ちをかけた。

「卑怯です!」

「バトル中に卑怯も何もない!」


 実際そうではないが、そう言っておかないと面目丸つぶれだ。訓練とはいえ、勝った俺を見てソフィア姫が歓声を上げた。


「ユニコーンがまた出たぞ! アンデミーラの方だ!」騎士団長のトラビスだ。緑と茶の目だ。庶民出身だが、貴族の称号に1番近いのは彼だろう。さあ、フーマにエネルギーを入れてもらった剣を試すときが来た!



「行くぞ!」


 団長の掛け声で、ディータ、トラビス他13名でアンデミーラへ向かった。ソフィア姫が何か言いたそうだったが、時間がない。


「お前、外れたんじゃなかったのか?」


 ディータが残念そうに聞いてきた。


「これが最後のチャンスだよ」


 馬を走らせて、目撃された場所へ向かった。丘陵地だったが、そばに森がある。森を超えると俺の一族の領地だ。


「ディータ、奴の気を引いてくれ、俺が一発で角を切り落とす」

「無理だよ! 剣が折れるぞ!」

「試してみないとわからないだろう!」


 俺はディータと離れて、トラビスと彼の数人の部下と一緒に北側へ向かった。ディータのチームがユニコーンの気を引くが、尻尾をトラビスたちにやってもらう。


 まず、ハルンがユニコーンの目を弓で全部つぶす。チームトラビスが半分以上、尻尾を落とした段階で、俺が角を狙う!


 ハルンの最後の弓が、5つ目の目をつぶした! トラビスたちが尻尾を狙ってるが、やはりこちら5人に尻尾8本は、手ごわい。チームディータが応援に来た。トラビスが4本目の尻尾を切った、今だ! ヒーリング能力を使われる前に倒さなくては。


 俺はユニコーンの背中に飛び乗って、首から後頭部へ走った。ユニコーンが俺に気付いて、頭を振り出したが、急いでたてがみにつかまった! 角が俺の方を向いた瞬間に、俺はたてがみから手を離して、一気に剣を振り下ろした! 1回目は真ん中あたりだったが、切り落とせた! 半分切っただけでも、ユニコーンは苦しそうだ。頭を上下に振っている。もらった! 化け物が痛さで下を向いた瞬間に、角に飛び乗って根元から切った。化け物は断末魔の叫びをあげて、地面に倒れた。


「マクシミリアン!」


 全体を見ながら指揮を執っていた団長が、俺のそばに来た。トラビスもディータも驚いているが、一番びっくりしたのは俺だ。ほんとに倒せた。フーマが石の色を変えたからだ。


「やった! 初めて倒したぞ!」


 全員の士気が上がった。やった、ほんとに倒した……


「すごいぞ、マクシミリアン! 陛下に報告しなくては」

「その剣で切り落とせるなんて……」


 ディータは納得がいかないようだった。


「今から、ユニコーンを細かく視察していく。マクシミリアンはもし動き出したら、仕留めろ、わかったな」

「はい!」


 俺は角から目を離さなかった。もし角が復活してきたら、息を吹き返すだろう。


 団長が視察の前に、念のために心臓を一突きしたが、ぴくりとも動かなかった。


 チームトラビスがユニコーンの腹を裂いた。ほんとに村人を食ったのか、それとも腹に隠してるのか。生臭い臭いがあたりに充満した。全員が目を背けた。村人は食われていた。


「被害に遭った村人2人は、やはり黄色とオレンジの持ち主か?」


 近所の聞き込みを終えた騎士に、団長が尋ねた。


「はい、2人ともそうでした……」

「ただでさえ少ないのに、こうやって食われてたらますます減っていく。ということは、色無しの仕業じゃないってことか?」

「色無しが我々の妨害をしているとか?」


 フーマを見てる限り、色無しがユニコーンを送って来てるとは思えなかった。


「でもそれでは、永遠に虹色女神は見つかりません」


 俺は思わず口にしてしまった。ディータが少し話がわからなさそうな顔をした。


「マクシミリアンの言う通りだが、ディータの考え方もあるな。こっちに支配されるくらいなら、両方を滅ぼすつもりかもしれん」

「撤収だ。念のため、その角を持ち帰ろう。マクシミリアン、よくやった」

「は、ありがとうございます!」

「何だよ、また手柄をマクシミリアンに取られたな」

「これで任務から外されないな」

「いや、お前は外す」

「団長!? 話が違います!」

「今のフォーメーションで次回もやるが、今度はディータかトラビスにやらせる」

「そんな!」

「黄色とオレンジが減って来てるんだ、お前も例外じゃない。陛下に、全地域の黄色とオレンジを保護するように進言するつもりだ」


 この国の剣ではユニコーンは倒せないはず。でもそれは言えなかった。


「黄色とオレンジを一か所に集めるのは危険だと思います」

「ああ、そうだ。だから数か所に分ける」

「まさか、俺にもそこへ行けというのではないですよね?」

「お前は城で待機だ。陛下の手伝いをしてもらう」


 ディータがにやりとした。悔しい! 手柄を立てたのに!


 王都へ戻る途中もいらいらしていた。ああ、むしゃくしゃする! 



 フーマにお礼も言いたいし、マリエン湖に行こうとしたら、ソフィア姫にばったり会ってしまった。


「聞きましたわ、今日のご活躍」

「ありがとうございます」

「夕食前の短めのお茶会をしますので、いらしてね」


 あ、フーマに会う時間が減ってしまうが、断れない。


「ディータも連れて行っても良いですか?」

「ディータ? ……良いわよ」


 良かった! ディータには悪いが最悪、先に抜けよう。


「ディータ! ソフィア姫のお茶会に行くぞ!」

「ほんとか!? やっと行ける! お菓子が美味しいって有名だもんな」

「まさか、菓子狙いとか?」

「あと好奇心」

「そんなに面白いもんじゃないよ」


***** 


 マクシミリアンと2人だけが良かったのに、ディータを連れて来るなんて。どうせだったらアンドレアスの方が良かったわ。アンドレアスにマクシミリアンの好みとか、聞きたかったしね。今度はアンドレアスも呼ぶことにして、今日はディータでも良いわ。2人は良きライバルで仲も良いものね。


***** 


「このサンルームも、俺たちは入れないもんな」


 ディータは、姫のお茶会に使われているサンルームに入るのも初めてだった。


「そうだな。庭園もきれいだし、俺もこのサンルームは気に入ってるよ」

「ソフィア姫、今日は俺までお邪魔してしまって、申し訳ございません」

「良いのよ、2人だけだとマクシミリアンも困る時もあるものね」


 わかってるなら、毎回他の人も誘ってくれると助かるんだが。


「今日のお話を聞かせてくれる? マクシミリアンが大活躍だったんでしょ?」

「はい、でも剣のおかげだと思います」


 なにぃ? 負け惜しみか。でも確かに剣のおかげだが。


「大した剣ではないのですが、アンデミーラの剣はユニコーンを倒せるようです」

「やっぱり名門よね。アンデミーラの血を我が王族に入れないとね」


 ディータが俺を見た。失言だった。


「……まだ4年もありますので」

「そうだけど、4年なんてあっという間よ」

「そうでしょうか?」


 虹色女神のこともあるし、確かにあっという間かもしれないが……。


「姫、俺はもう行きませんと」

「どうして? 夕食まで予定はないんでしょう?」

「1つ、済ませないといけない用事がありますので」


 そう言って俺は席を立った。


「ディータがお相手をいたしますので、これにて」

「え? マクシミリアン!」

「マクシミリアン!」


 ディータも困ったようだったが、悪いが振り向きもせず、サンルームを後にした。早くフーマに会いたい。


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