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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
3/19

Chapter 3

*** Chapter 3 *** 


 今日は夕食前にマリエン湖へ向かった。夕焼けもきれいなところだからだ。


 手綱を木に結び付けてから、いつもの場所に向かうため湖岸を歩いていた。


 何か光ってる、なんだ、これは? ペンダント? 赤色というか、赤っぽいゴールドのガラスのような球がついたペンダントだった。


「それ、私のです。返していただけますか?」


 女性の声がして、俺は振り返って驚いた!


「……色無し!」


 初めて間近で見た! ほんとに真っ白だが、確かに目だけ赤い……!


「色無しですって? 初対面の人に対して、なんて失礼なの?!」

「あ、すまない……」

「私だって、あなたみたいな素敵な黒髪が欲しかったわよ!」


 いきなり怒られた……!


「返して、ペンダント!」


 恐る恐る手を伸ばして、返した。


「す、すまなかった。初めてだったから、驚いてしまって……」


 俺が申し訳なさそうにしてるのを見て、怒りが収まったようだった。


「……こちらこそ、いきなり逆上してごめんなさい」

「それでは、これにて」 


 その場を去ろうとしたが


「あなた、お名前は?」

「……マクシミリアン」

「私はフーマ。あなたはヴァラーでしょ?」

「ヴァラー? 色有りってことか?」

「そうね、そんなところかしら」


 フーマは俺に微笑んだ。


「このペンダント、もう出てこないと思ったから……ありがとう、見つけてくれて」

「いえ、たまたまだったから」


 そう答えてる間に、目の前で消えた。すごい能力だな。こんな能力あったら、馬とか要らないもんな。


 帰り道に馬を走らせながら、フーマは昨晩見た5人のうちの1人だと思った。ペンダントを失くしたから探しにきたわけだ。綺麗な人だったな。もっと探りを入れてたら、報告することもあったのに。でもフーマのことを考えるとますます寝れなくなった! 明日、また会えるかも。湖に行ってみるか……。


 

 今日こそ、朝から訓練に集中したい。いつもの訓練用の中庭へ行く途中で、エルザ姫に会った。


「姫」


 俺は軽く会釈をした。


「今日は私のお茶会に来ていただけるかしら? ルーファスも来られるわ」


 基本、姫からの誘いは断れない。でも団長も一緒なら心強い。


「は、身に余る光栄でございます」

「ではもう始めるので、一緒にサンルームに行きましょう」


 今日も朝からお茶会か。そんな結構な身分ではないんだが。


 サンルームに行くと、団長がすでに座っていた。


「お前もか?」

「はい……いけませんでしたか?」

「いや、そんなことないが……」


 でも明らかに嫌そうだった。団長が、エルザ姫のことが好きなのは知っていた。


「マクシミリアンには、昨日のソフィアとのお茶会のことをお聞きしたかったの」

「特にお話しするようなことは、ございませんでしたが……」

「でも初めてのお茶会に家族を呼ばずに、マクシミリアンを招待するなんて、ほんとに好きなのね」


 確かにそうだ。普通は家族を呼ぶはずなのに……


「申し訳ございません」

「良いのよ、ソフィアが決めたんだから」

「そうですが……」

「それでどんな話をされたの? 私がサンルームに着いたときは、婚約の話だったでしょう?」


 姫はお茶を俺と団長に入れてくれた。


「あ、はい、でもその前に変なことを尋ねられました」

「変なこと?」

「はい、『ある騎士とある姫が中庭で2人っきりだったのに、キスをしなかった』みたいで、どうしてしなかったのかが、気になってらしたようでした」


 エルザ姫は戸惑いを見せたが、団長は真っ赤だった。まさか?


「それで何とお答えになったの?」

「小説の話だとおっしゃったので、『作者の意図でしょう』とお答えしました」

「ソフィア姫は早熟ですね」


 団長……、まだ赤いけど?


「それで、マクシミリアンはどうしてだと思われますか?」

「え? どうしてって?」


 エルザ姫からの意外な質問に、俺は少したじろいだ。


「その騎士は、なぜその姫にキスをしなかったんでしょうね?」

「さあ、俺にはわかりません。でももし俺だったら、迷わずキスします」

「「そうですか!?」」


 2人とも驚いている。


「そんなに驚かれることでしょうか? もし愛し合ってるなら、貴重な2人だけのチャンスにキスをしないなんて、もったいないです」


 そう、姫と2人だけになることなんて、婚約するまでないんだから。そのチャンスを逃すなんて大バカだ。


「ルーファスはどう思われますか?」


 一瞬、団長が固まった。


「俺だったら、怖れ多くてしないと思います」

「団長! 敵には強気なのに、どうしたんですか? 片思いならまだしも……」

「敵と姫を一緒にするな」

「そうですけど、狙ったものを獲る点では同じですよ」

「まあ、バトルと恋愛を一緒にしていただきたくありませんね」

「申し訳ございません、でも同じくらい勇気のいることなので、比較してしまいました」


 姫は微笑んだ。さすがお子ちゃまソフィア姫と違う。


「でも姫の気持ちに確信がなければ、しないだろう」

「だからこそ、するんですよ! ほんとに嫌だったら抵抗するでしょ?」

「え? 姫の気持ちを知らなくてもキスするのか?」


 そんなにびっくりしなくても?


「しようとするか、そこで想いを告げて、キスするか、ですね」

「それで振られたらどうする?」

「そんなどう思われてるか、素振りを見たらわかるでしょう! 大体、嫌われてたら2人っきりになんてさせてくれませんよ」


 団長は少し納得したような顔をした。


「それでも自信なかったら?」

「団長はそんなだから、まだ独身なんですよ」


 団長は23歳でまだ独身。この国は男女とも16歳で結婚できるから、20歳前後に結婚するかすでに婚約してる人が大半だ。


「お前、言って良いことと悪いことが……」


 団長はかなり怒っている。


「練習すればどうですか?」

「何の練習だよ?」

「恋愛の練習ですよ」

「「誰と?」」


 姫と団長が同時に言った。


「練習なんだから、誰でも良いでしょう、ほんとにキスするわけでなし。ディータとか線が細い感じだから、良いんじゃないですか?」


 本当は『売春宿でも行けば』と言いたかったが、さすがに姫の手前、言えなかった。


「お前はディータと練習してるのか?」

「俺は練習する必要ありませんので」

「その自信はどこから来るんだ?」

「自信じゃないですよ。俺は、自分の気持ちを伝えないと気が済まないんです」


 団長が黙ってしまった。


「もし姫だったら、いかがですか? キスを期待されますか?」

「マクシミリアン! 聞いて良いことと悪いことがあるだろう!」


 照れながら焦ってる団長、面白い。


「あら、構いませんよ。私だったら期待します」


 エリザ姫は団長をちらりと見て言った。なるほど、2人のことだったわけだ。


「そうですよね、その作者に文句の手紙でも書きましょうか?」


 団長は黙って、お茶を飲んでいた。


***** 


 マクシミリアンめ、調子に乗りやがって! しかし、マクシミリアンだったら、相手が姫でもキスするのか、意外だった。バトルでも強気だが、恋愛もそうだったとは。エルザ姫の手前聞かなかったが、すでに誰かいるのかもしれないな。恋愛の練習も必要かもしれないが、エルザ姫以外は考えられないし、ディータで練習はしたくない。売春宿に行くなんて持ってのほかだ。姫が生贄になるかもしれないのも気になってるし、マクシミリアンはいい気なもんだ、全く。


***** 


 今日はマクシミリアンもお茶会に誘って、大正解だったわ。ルーファスのあの戸惑いよう! 今度2人だけになったら、キスしてくれると良いけど、どうでしょうね? 私からお父様に結婚話を進めたいと言いづらい以上、ルーファスに頑張っていただきたいけれど……


***** 


 エルザ姫のお茶会は楽しかった。団長があんなに恋愛に自信がないとは思わなかった。これを機に次回はキスをしてほしいものだ。


 遅れて訓練に参加したが、ディータに嫌味を言われた。ディータはまだ、姫主催のお茶会に呼ばれたことがないからだ。


「俺も呼ばれたいなあ」

「今度、ソフィア姫のに呼ばれたら、一緒に行こう」

「でも姫に怒られそう」

「大丈夫だよ」


 俺が1人で行きたくない。ソフィア姫が、4年後にエルザ姫のような立派な女性になるとは、思えないしなあ。好かれるのも考えようだ。



 食事が終わって、部屋に戻った。フーマ、また会えるだろうか? バッヘンに文句を言われそうだが、俺は再度、マリエン湖に向かった。


 満月過ぎの下弦の月だったが、まだまだ満月に見える。音をたてないように湖畔を一周するつもりで歩き始めた。目の前に蛍が来た。こんな季節に蛍? でも赤い光だ。フーマが現れた!


「会えるかと思って、来てみたの」


 月明りで白い肌がぼんやりと光ってるように見える。長い白い髪は、銀髪に見えた。


「俺も会えると思った」


 うれしい、また会えて。


「マクシミリアンが触ったこのペンダント、あなたのエネルギーが入ってると思ったけど、やっぱりね」

「俺のエネルギー?」

「そう、だからあなたが私のことを考えると、このペンダントを通じて私が感じることができるの」

「テレパシーってことか?」

「似たようなものかしら。あなたにはその能力はなさそう?」

「さあ、あるかもしれないけど、わからないな。色有りだし」

「ヴァラーでもパワーを持ってる人がいるって聞いたわよ」

「俺の団長もそうだけど、使いこなせてないから……」

「どんなパワーなの?」

「敵を光に包んだ後に消せるけど、異常に体力を消耗もするから、滅多に使えないんだ」

「ペンダントがないから、コントロールできないのよ」

「ペンダント?」

「団長さんが放つ光は何色なの?」

「黄色だけど?」

「今度、その色のペンダントをあげるから、団長さんに渡してみて。少し練習はいるけど、使えるはず」

「ありがとう……」


 突然、フーマは何かが聞こえたような素振りをした。


「ごめんなさい、行かないと。また明日ね」


 そう言ってフーマは消えた。明日、また会える。


***** 


 マクシミリアン……。黒い髪に黄金の瞳、なんて美しいのかしら。こっちの男性とは全然違う。ここは人は白くて、世界はグレー。モノトーンしかない世界にうんざりしている私だけど、お姉さまたちの目を盗んでたまにいくあの湖で、あんな素敵な人に出会うなんて……。許されない恋なのはわかってる。でも……


***** 


 今日もフーマに会える。そう思うと俺は朝からソワソワしていた。


「マクシミリアン、ちょっと」


 団長が、団長室の窓から呼んでいる。団長室へ向かった。


「何でしょうか?」

「ディータの調査報告を見せたくて」


 俺がやるはずだった調査か。面白くなかったが、言われたとおりに資料に目を通した。


「やっぱり、ユニコーンは黄色とオレンジばかり狙ってるんですね」

「ああ、思った通りだ」


 黄色とオレンジは珍しいらしい。俺の両親は緑とオレンジだったが、俺は黄色とオレンジで生まれてきた。家族でも俺だけがそうだ。


「悪いが、お前はユニコーンの任務から外れてもらう」

「どうしてですか!?」

「お前が狙われるからだ。退治どころじゃないからな」

「そんな! 仕留めて見せます! それで食われた村人が救えるかもしれません!」

「今まで近衛団でも騎士団でも、仕留めた騎士はいない、数人でかかってもだめだ。確かに俺のパワーで消滅したときもあるが、それだと村人も一緒に消えてるから、助けることができない。でもお前を失うわけにはいかない」

「それなら俺をおとりにしてください」

「おとり?」

「そうです、それでユニコーンをわざと逃がしてください。そしたら村人がどこに連れて行かれたかわかるでしょう?」

「そんなばくちはできないな。だって食ってるかもしれないんだぞ」

「そうですけど……」

「納得いかないのはわかってるが……」

「ユニコーンの弱点が、わかればいいですよね?」

「どういう意味だ?」


 もしフーマが知ってたら……


「今まで、ユニコーンを倒したことがないから、食われた村人がどうなったかわかっていません。でももし倒せたら、俺のおとり作戦が有効がどうか、わかりますよね?」

「そうだが、どうやって奴の弱点を調べるんだ?」

「聞き込みをします。ですから、次回も連れて行ってください。聞いたことを試させてください!」

「……わかった。もし、有意義な情報をお前がつかんだらな」

「ありがとうございます!」


 フーマが知ってると良いけど、もし知らなかったら、任務から外されるな。ますますディータにチャンスが行ってしまう。副団長の座は誰にも譲りたくなかった。


 部屋へ戻る途中でディータに会った。


「俺の調査報告のこと、聞いたか?」

「聞いたよ、ユニコーンの弱点がわからない限り、俺は任務から外される」

「他の任務があるだろう」

「コウモリ退治とか、姫とお茶会とか小さいのばっかりだよ」

「でもしょうがないだろう……」

「わかってるけど、なんとか弱点を探るよ!」


 俺は部屋へ入った。わかってるけど、なんとかしたいんだよ!


***** 


 俺はマクシミリアンのことは認めてるが、悪いが副団長のポジションは俺のものだ。年も同じだし、たった1年の入団の差なんてしれている。出し抜きたくはないが、もっと手柄を立てて、団長に気に入ってもらう。そして年末の選出時に、推薦してもらう。それが俺の作戦だ。マクシミリアンはソフィア姫に気に入られてるから、最後の陛下のご決断でひっくり返るかもしれないが、色仕掛けでは手に入れたくはない。マクシミリアンみたいに、勝手に好かれる分には問題ないがな。まあソフィア姫はまだ子供だから、色仕掛けもあったもんじゃないか。


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