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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
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Chapter 2

*** Chapter 2 ***


「団長は?」


 朝の食堂で団長を捕まえるつもりで、俺はアンドレアス兄上に聞いた。


「陛下の部屋だと思うよ。陛下と朝食を取りながら今後の相談らしい」


 俺は兄上の隣に座って、食事を始めた。パンとスープと肉、フルーツ。足りないがしょうがない。これから寒くなるから食料を備蓄しないといけないし、公にはされていなかったが、断絶しているとはいえ、人道支援ということでこっちから色無しの国に食料提供をしている。理由は色無しの国では作物が年々取れなくなってるらしい。騎士団の仕事ではないから、これ以上は知らされていないが、それもあって俺たちの食事も量が少ない。


「マクシミリアンは任務に一生懸命だからな」

「俺は好んで入団したからな。兄上こそ、いつ辞めるんだよ?」

「さあ、父上次第かな。エルザ姫と団長が婚約した時が、言うタイミングかもしれないな」

「そうだな」

「訓練してる時間があったら、勉強したいね。劇の脚本を書きたいけど、父上が許すわけないけどね」


 団長は兄上のやる気のなさをよくわかってるから、訓練には参加させるが、任務には入れていない。親に無理やり入団させられた貴族の息子は、兄上だけじゃないからな。



 食後、俺は陛下の部屋のドアの前にいた。警備に陛下に話があることを伝えた。


「しばらくお待ちください」


 すぐに警備が戻ってくると思ったが……。意外に待たされた。


「どうぞ」


 陛下の謁見室に入ると、団長も一緒だった。


「申し訳ございません。どうしても報告したいことがあって……」

「どうした?」

「実は……」


 昨晩湖で見たことを話した。陛下の顔色が変わった。


「陛下……。お加減が悪そうですが……」

「2人とも私についてこい」


 陛下は謁見室の奥へと入って行った。ここから先には行ったことがなかった。


「隠し扉ですか?」

「そう、ここからわが王族のみが入れる図書館がある」

「よろしいのでしょうか?」俺はこわごわ尋ねた。

「マクシミリアンにはみてもらいたいものがある」


 本棚を隠し扉にしていた細い通路は、ひんやりとしていてカビ臭かった。長いこと誰も通ってなかったようだった。天井も低いし、身体の大きな陛下には通りづらそうでもあった。


 その図書館のドアは木製だった。何か文字らしきものも彫ってあったが、かなり色あせていて、古さが感じられた。陛下がドアを開けた。


 中は真っ暗だったが、ろうそくを灯すとぼんやりと見えてきた。すごい数の本……! おそらくこの国ができてからの歴史が、ここにすべてあるように見えた。


 図書館も天井が低いが、天井には天宮図が描かれていた。ここはいつ建てられたんだろう? 1つ1つの部屋は小さいが、本で埋め尽くされていた。陛下についていくと、少し広い部屋に出た。テーブルと椅子もあった。


「かけたまえ」


 団長と俺は言われたとおり、椅子に座った。陛下が1冊の本を持ってきた。


「これは我が王族に代々伝わる本なんだが、ドルミダも同じ本を持っている、いや、正確に言うと同じ本ではない、対になっているものだ」


 そう言いながら、陛下が本をめくりはじめた。


「2人に見て欲しいのは、ここだ」


 見開きで描かれた挿絵だった。


「これ……。あと2人いたら、俺が昨日見たものにそっくりです」


 湖に満月が映り、2つ満月があるように見える。そこに7人の影がシルエットのようになっていた。


「これが『虹色女神』を召喚するために必要なエネルギーを供給する7人だ」

「『虹色女神』?」


「虹色の目のことは知ってるだろう。これを持つものが世界を支配するという……。それは1人の目が7色ではなく、7人の目で虹を織りなすということだ」


 俺は昨日の会話を思い出していた。


「確かに昨日『あと2つあれば』って言ってました」

「そう、ドルミダはもう5つ持ってる。あと2つ集めたら、色無しが世界を支配する」

「我々はあと1つですね」

「え? じゃあ団長もご存じだったんですか?」

「すまない、お前に黙っていて。仲間内でも秘密にして進めていた」


 陛下が静かに説明し始めた。


「そなたも知ってる通り、ヴァルムートには目に色がある。でも両目同じ目の人は少ない。虹色女神は両目が同じ色で、7色揃わないといけないのだ」

「そうなんですね」

「以前に色だけかと思って、4人で虹色をそろえて試したが、何も起きなかったのだ」

「何を試したのでしょうか?」俺は思わず尋ねてしまった。

「……生贄だ」

「生贄?」

「そう、『世界の狭間』を知ってるだろう?」


 色無しの国ドルミダと我が国ヴァルムートの間の谷があって、『世界の狭間』と呼ばれている。霧がかかってるから、谷がどうなってるのかは全くわからない。その昔は霧がもっと低かったから、谷の向こうにある色無しの国が見えたそうだが、今では全く見えない。一説ではユニコーンはそこから来てるという輩もいるが、俺は信じていなかった。


「私が君臨してから一度、4人で7色そろえて、その谷に降ろしたことがある。突き落としたわけではない。ゴンドラを作って4人をゆっくりと降ろして行ったが、4人は突然消えた」

「え?」

「谷には、何かとてつもないエネルギーがあると言われている。そのエネルギーを具現化させるためには、虹色女神が必要なのだ」

「じゃあ、そのエネルギーを手にしたものが世界を征服する、ということなんですね」

「そうだ。でも、その4人が消えても何も起こらなかった。つまり間違っていたわけだ。それ以降、両目が同じ色で生まれたら、登録するようにして7色そろえようとしているが、まだ1色足りない」

「赤、ですね」


 団長が静かに言った。


「赤は難しい、色無しには簡単だが。国交が復活すれば、こっちには有利だが……」

「色無しは黄とオレンジを探してるんですね?」

「両国が協力すれば7色揃う。でも問題はその後、どちらが支配するか、ということだ」

「色無しの王族と話し合うことはできないんですか?」


 俺が聞いたが、当然団長も同じことを考えていたはず。


「何度か文書は送っているが、返事はまだない。届いてないのかもしれないが、ここ数年はドルミダの王都の壁も見えないから、うかつにそばにも寄れない状態だ」

「そうですね、あれだけドルミダ周辺が霧に覆われていたら、こちらが向かうのは危険でしょう」


 警護のことを考えたら、文書を送るだけでもリスクは高い。団長はよくご存じだ。


「今、考えているのは、あちらを夜会なりに招待するつもりだ。その方が警備もやりやすいからな」

「来るでしょうか?」


 俺は思わず聞いてしまった。


「さあな。向こうからは表立っては何もない以上、こちらからできるだけ平和的にアプローチをするしかないと思っているんだが」


 陛下は本を閉じた。


「マクシミリアン、お前には今まででのユニコーンの被害者の目の色を確認してもらいたい、特に昨日のだ。もし5人の目に黄とオレンジが入ってるなら、ユニコーンはドルミダからで、ユニコーンが食べたように見せかけて、実際は誘拐だろう」

「わ、わかりました」


 陛下を先頭に俺たちも秘密の図書館を出て、謁見室に戻った。


「では、頼んだぞ」

「はい」


 団長と部屋を出ようとしたら、ソフィア姫がいきなり入ってきた。


「お父様、この後、マクシミリアンを私のお茶会に招待してるから、連れて行くわ。良いわよね? ルーファス」

「姫! 俺は、この後は調査をしないと……」

「しょうがないな、マクシミリアン、ソフィアを頼んだぞ」

「陛下!?」

「さあ、行きましょう」

「団長! 何とかしてください!」

「陛下直々だ。行ってこい」


 姫に連れられて、庭園隣のサンルームへ連れて行かれてしまった!


*****


 俺は、マクシミリアンが姫に連れて行かれる後ろ姿を見ていた。今日の陛下の話は、俺にとっては2回目だが、陛下は1回目より多く語られた、特に『生贄』の箇所だ。国民思いの陛下は、両目とも紫の瞳のエルザ姫を、迷うことなく生贄として捧げるだろう。陛下は俺がエルザ姫に恋焦がれていることをご存じだ。だから今まで話されなかったのだ。エルザ姫も第1王女として、自分を犠牲にしてまでもこれを担う必要があることはわかっておられるだろう。実らない恋とはわかっているが、これなら別の男と婚姻される方がまだましだ。生贄を逃れる方法はないものか……。俺は任務の傍ら方法を探し求めてるが、今のところ収穫なしだ。マクシミリアンが知った以上、相談してみる手もあるのかもしれないが……


***** 


「姫、何度も申し上げたとおり、今日は予定が……」

「予定って私のお茶会でしょ?」

「いえ、調査も訓練もありますし……」

「記念すべき私の最初のお茶会なのよ!」


 最初のゲストに呼ばれたのは名誉なことなんだろうけど……


「騎士としてトップクラスだって聞いてるわよ。1日くらい大丈夫よ。それに顔の傷もまだ生々しいわ」


 はぁ、いくら陛下が許可したとはいえ、村人5人のことも調べないといけないのに……。1杯いただいたら、もう行こう。


「姫、もう行かないと……」

「そんなことおっしゃらずに。もう1杯どうぞ。このケーキもぜひ召し上がって」

「あ、ありがとうございます」


 これ、パワハラだと思うんだが……。


「そうそう、聞きたいことがあるの」

「何でしょうか?」

「ある騎士とある姫が中庭で2人っきりだったの。やっぱり愛し合ってたら、キスするものよね?」


 なんだこの質問は?


「申し訳ございませんが、誰の話をされているのでしょうか?」

「だ、誰って、その昨日読んだ本で、そういうシーンがあったのですが、キスしなかったので……」

「それは読者をじらしてるだけでしょう。最後のハッピーエンドでキスすると思いますよ」

「そんな、読者目線じゃなくて、現実的にどうなのかな、と思って……」

「そんな本を読むひまがあったら、この国の歴史など勉強する方が良いと思いますが」

「お父様みたいなことを言わないで!」

「姫はまだ男女間のこととか、知らなくて良いと思います」

「子供扱いしないでよ」

「12歳はまだ子供です!」


 全く、ませてるな……!


「私が知りたいのは……その、殿方は……好きな女性と2人だけになったら、やっぱりキスとかされるものなのかしら?」

「ですから、そういう話は大人になられてからにしましょう」


 明らかに納得していない顔をしてるが、この話はこれで終わりたい。


「では、マクシミリアンにお願いがあるの」


 姫からのお願い……。昔はままごとだったが、今はお茶会という名のままごと。今度は何だろう?


「お父様にはこれからお願いするけれど、マクシミリアンの肖像画が欲しいの」


 肖像画!? 


「は? どういう意味でしょうか?」

「私とマクシミリアンの肖像画は結婚後として、先にマクシミリアンだけのが欲しいの」

「……何のためでしょうか?」

「もちろん部屋に飾るために決まってるじゃない! 毎日マクシミリアンの顔が見れるなんて幸せだもの」

「そ、それは陛下がお許しにならないと思いますよ」

「どうして? 未来の夫なのに?」


 俺の肖像画を姫の部屋に飾られたくない。


「後4年で結婚できる年齢になるのよ。その時にはマクシミリアンと婚姻関係をと思ってるの」


 出た! もう何度も言われてるが、俺はごまかしていた。


「そ、それはあまりにも怖れ多くて、俺には……」


 父上は大喜びだろうけど、俺は……


「ドルミダと断絶前から、第2王女は近衛団から夫を選んでるのよ?」

「存じ上げていますが、俺ははしくれ貴族出身ですので……」

「まあ、何を言ってるの? アンデミーラ侯爵家は名門でしょ?」


 自由恋愛なら、間違ってもソフィア姫は選ばない。でも陛下が許可したら結婚しないといけない……


「ソフィア、マクシミリアンが困ってるし、そろそろ解放してあげなさい」

「お姉さま!」


 エルザ姫だ。美しい。俺より1つ上だが、金髪に紫の瞳。両方紫だ。え? ということは最悪、エルザ姫が生贄になるってことか? そんな……! 俺は思わず、エルザ姫を見つめてしまった。


「マクシミリアン、どうしたの?」


 ソフィア姫が不機嫌そうに言った。


「あ、いえ、なんでもありません」

「しょうがないわね。婚約のこと、考えておいてね!」

「は、かしこまりました」


 やっと解放された。ユニコーンの被害者の調査に行かなくては。


 急いで、近衛団本部へ行った。


「調査はもうディータに始めてもらってるから、行かなくていいぞ」

「そんな、団長!」


 ああ、ディータにまた手柄を取られそうだ。俺より後から入団したくせに、俺にライバル意識を燃やしてるもんな。


「姫のお相手も、俺たちの任務のうちだからな」

「ほんとにそうなんですか? 納得いきません!」


 ああ、面白くない! 訓練では大暴れしてしまった。八つ当たりされた新人たちにちょっと気の毒なことをしたな。


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