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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
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Chapter 16

*** Chapter 16 ***


 正直言ってマクシミリアンが、ここまでやれるとは思ってなかった。それも次期国王とは。彼がもう私の臣下ではないのは、非常に残念だ。ドルミダの国民は、マクシミリアンについていくだろう。新たな脅威とならねばいいが……。


「1人を生贄として、我が国に提供できるということだが」

「はい。フルマンド王です」

「それは……」


 さすがに私も言葉に詰まった。


「モクサリテ公のアイデアです。せめて最後は国のために尽くすようにと」

「しかし、それだけのパワーを持つお方なら、反抗して逃げ出したりするのではないか?」

「大丈夫です。ペンダントがなければ暴走するかもしれませんが、実際は何もできないと同じです」

「暴走って……」


 つぶやくようにルーファスが言った。ルーファスもペンダントをもらう前は、コントロールはできていなかったが、ユニコーンは倒せていた。


「それにもう暴走する体力もありません。今は地下牢で、魂の抜けたようになっていますから」


 確かにルーファスも毎回、パワーを使った後は異様に体力を消耗していた。これが何度も続けば、確かにいずれは健康か精神を害しただろう。


「では、いつ生贄を世界の狭間へ連れて行く?」

「できるだけ早く。こちらは準備はできています」

「……わかった。急いで6人を選ぶ」

「お願いします」

「もし、それで不十分だったら?」

「……王族の血を引くものを1名以上、出していただくことになると思います」


 1名以上? わが国には3人しかいない。誰が行くのだ? 遠縁ではおそらく不十分だろう。


「ドルミダ側はフーマの異母姉妹がなります」

「もしこちらが1名、そちらが2名出せば、支配するのはドルミダになるということか」

「……そうなると思います。今までもヴァルムート側がご存じなかっただけで、ドルミダはいつも多く出していました。だからパワーも授けられたし、多くを知っているのです」


 ルーファスもエルザも深い面持ちだった。ソフィアは下を向いていて、表情は読めない。


「わかった。まずは虹色女神のエネルギーを具現化しよう。それでまだ不足だったときは、覚悟を決める」

「わかりました」


***** 


 久しぶりの故郷の食事は美味しかった。フーマの口にもあったようで、おなかの子供にもよかったと思う。話が前向きに進んだのもあって、和やかな晩餐会だった。食事も終わり、3日後に世界の狭間で生贄を連れて再度会うこととなった。ソフィア姫に声をかけようかと思ったが、できなかった。たった4か月しか経ってないのに、ずいぶん成長されたように見えた。もうあの幼い姫ではなかった。


 フーマを先に馬車に乗せて、最後に陛下に挨拶をした。


「では、3日後に。平和条約は無事にすべてが終わってからにいたしましょう」


 俺は馬車に乗った。リルマが最後に乗って、出発した。無事に両国に平和が戻ったら、フーマにアンデミーラを見せたい。


***** 


 俺には陛下のお考えが読めなかった。俺とディータに無断でトラビスとハルンに、マクシミリアンの暗殺を企てていたなんて。今日の姿を見た限りでは、マクシミリアンは色無しの国の王として立派にやっていけるだろう。


 陛下は何もおっしゃらずに部屋へ戻られた。俺はエルザを先に行かせて、騎士団本部へディータと共に向かった。


「今日は驚きましたね」

「そうだな、マクシミリアンのこともそうだが、トラビスとハルンがあんな命令を受けていたなんて……」

「おそらく貴族の地位を持ち掛けられたんでしょうね」

「そうだろうが、いったい陛下は何を考えておられるのか……」


 それにもし王族を1人以上出さないといけなくなったら、誰が行くのだ? 最悪、俺とエルザの子か? ドルミダの方はすでに手を打ってあるわけだから、あっちがまた多く生贄を出すだろう。そうなったら、マクシミリアンはどうするだろう? どうこの国を支配するというのだ? 


「団長、申し訳ございませんでした!」


 トラビスとハルンだった。


「わかってる、陛下に強制されたんだろう」

「……はい」

「話し合いは上手く行ったから気にするな。それに陛下からもお咎めはないはずだ」

「……はい」


 2人はかなり落ち込んでいる。罪悪感でいっぱいなんだろう。


「今日はもう休め。3日後に世界の狭間へ行く際にはまた警護してもらう」

「わかりました」


 2人が下がった。俺は陛下の部屋へ行った。



「陛下、ルーファスです」

「入れ」


 もう陛下は寝室へ下がられたと聞いたが、どうしても話したかった。


「来ると思ったよ」

「申し訳ございません、もうお休みになられるのに……」

「構わん。寝れそうもないからな」

「……どうしてマクシミリアンを狙うよう、2人に命令をされたのですか?」

「敵に回したくなかったからだ」


 陛下はそれだけ、マクシミリアンを高く評価してたということか。


「結局は最大の敵になってしまったな」

「色無しとの敵対をやめるための話し合いだったのでは?」

「そうだが、追加の生贄が不要でもドルミダは提供できるから行うだろう。たとえ、マクシミリアンがやりたくなくても周りが許さないだろう……特にモクサリテ公とあの部下、リルマと言ったな。かなりの騎士のようだった」

「それは今後の話し合いで何とかできることだと思いますが、もし追加の生贄が必要だったら、どうされるのですか?」


 陛下は立ち上がって、窓際へ行かれた。陛下はいつも悩むとこうされる。表情を見せたくないからだ。


「私が行こうと思う」

「それはあり得ません! まだエルザには女王は無理です」

「そうだが、1番年を取ってる者が行くべきだろう」

「エルザを説得します! 私達の子供を」

「その子が男の子だったらどうする? 50年ぶりの直系の男児だぞ?」


 陛下は直系の男児だが、末っ子だった。年の離れた姉君が2人おられたが、すでに他界している。


「……たとえ色無しに支配されたとしても、色無しから2人出してもらいましょう! こっちからは誰も行かせることはできません!」

「それで良いなら、そうするしかないだろう……」

「でも、エルザとはその話をするつもりです。もし女児だったら……」

「いや、しなくてよい。おそらく間に合わない」

「そうでしょうか?」

「もし具現化が中途半端になってしまったら、できるだけ早く追加の生贄を出さないと世界が混乱する」

「……どうしてご存じなんですか?」

「記録には残されていないが、王族の子孫へと口述で伝えられていることがあるのだ。エルザにはもう伝えてあるから、いずれルーファスも聞くことになるだろう」

「……わかりました」

「明日、6人を選ぶ。庶民が大半だから生贄の話は寝耳に水のはずだ。了承させるのは難しいだろうから、命令にはなるが、遺族には褒美は取らすことになるだろう」

「わかりました」

***** 


 今日の話し合いは上手く行ったと俺は思っている。だが、モクサリテ公からは世界の狭間には、フルマンド王と共にフーマの異母姉妹の5人も連れていくように言われている。理由はヴァルムートが6人、こちらが1人だと、追加の生贄が不要だった際に、ヴァルムートに支配されることになるからだ。


「もしそれで追加が必要になったら、どうされるのですか?」

「わしが行く」

「モクサリテ公?」

「本当はそなたが無事国王としてやっていけるのを見届けてから、と思ったが……」

「『支配』というのは実際どういうことなんでしょうか? パワーを授かるだけではないのですか?」


 俺は色無しがパワーを持ってるのは、色がない分、世界で生きるのに不利な部分があるから、それを補うために現れたものだと思っていた。


「支配がさほど問題ないなら6対1で良いと思いますが」

「世界の狭間の住民の話を聞いたことがあるか?」

「はい、父上から……全員が黄金の瞳を持つという……」

「そうだ、彼らはあの谷に住むドラゴンに仕えている」


 ドラゴン……グレーのドラゴンがあの時、谷から現れて、子供のユニコーン共々消えたが……


「ドラゴンも本来は黄金のはずだが、谷の住民がいなくなってからパワーを失いつつある」

「1度見ましたが、グレーでした」

「黒になったら、もう打つ手はない。凶暴化してこの国も、ヴァルムートも襲われててそれで終わりだ。でもその前に先にドルミダが死滅するだろう」

「それはどうしてですか?」

「ドルミダも虹色女神のエネルギーの恩恵を受けているからだ。だから生贄はそれなりに行わないといけない」

「でも今回そんなに出してしまったら、王家の血を引くものがどんどん減ってしまいますよ」

「わしの兄弟もまだ2人生きてるし、それぞれが正妻と愛人にも産ませてる。フルマンドの愛人もまた妊娠してるし、わしら兄弟の孫もいる。ただフーマに愛人を持たせるわけにはいかないから、そなたたちの子供で男児にはたくさん子供を作ってもらうことになるだろう」

「……その生贄は実際……ドラゴンに食べられてるということでしょうか?」

「さあな、探ろうとした者は多々いたが、誰も戻ってこなかった。わしが生贄になった時に知ることができるが、そなたに伝える方法が残念ながらない」

「生贄なしでドルミダが生き残る道はないんですか?」

「さあな、少しずつ生贄の数を減らしながら、ヴァルムートと血を交えるしかないと思うぞ」

「一度エネルギーを具現化させれたら、定期的に生贄を捧げる必要があるのでしょうか?」

「5年に1度だ」

「色も7色ですか?」

「それは必要ないが、わしが覚えてる限りではドルミダからは5人ほど毎回出しているが、ヴァルムートはいつも1人だ。でも多い方がパワーを持つと知った以上、もっと出してくるかもしれないがな」


 それでは団長の子供も、いつかは生贄にならないといけないということか。なんてことだ……


「ヴァルムートが生贄を出さなかった時もあったと聞いているが、それでもこちらが出していれば、なんとかドラゴンはおとなしくしていてくれた。ただ、バランスは取れていなかっただろう。例えばヴァルムートでは、女児ばかり生まれるとか、不妊だったりとかな」

「それではまるで罰というか、呪いをかけられてるみたいに聞こえますが……」

「どう解釈しようがそなたの自由だが、ドルミダは王家の使命の一つとしてドラゴンへの生贄を行ってきた。それはおぬしの時代になっても守っていただく」

「……わかりました」


***** 


 マクシミリアン……。さらに素敵になってたけど、もう私の手の届かない人になってしまったのね。あの女がかけていたショール、あの時マクシミリアンがプレゼントしたものだったわ。私だって女性として扱われたかったの。いつも子供扱いされていて、悔しかったわ。12歳の誕生日もヴァルムートの歴史の本だもの。今となってはそれもいい思い出だけど……。もう1度話す機会があれば、今度こそ大人の女性として接してくださるのかしら? それとも他国の姫としての扱いなのかしら?


*****


 陛下は6人の生贄候補とお会いになった。陛下は国民からも愛されているし、事情が事情だけに誰も文句は言わなかったため、あっさり決まった。明日、世界の狭間で生贄として、ドラゴンに捧げられる。明日は王族は全員立ち会うため、俺も王族として列席するが、最悪の事態を想定して、ディータとトラビスと策を練っている。だが、もしドラゴンが暴走したら、誰にも止められないだろう。追加の生贄……。ドルミダだけで済めば良いが……


***** 


 世界の狭間。俺はフーマ、及びドルミダの王族たちと早めに到着した。リルマたちが警備してくれている。いよいよ虹色女神のエネルギーを具現化する時が来たが、何がどう具現化されるんだろう? モクサリテ公ですら見たことがないそうだ。俺は怖かった。


 今日は風が強いが、谷から吹き上げているから霧はほとんどなかった。木でできたリフトがあった。陛下が以前に言っておられた『色だけ合わせて4人を谷に降ろした』際に使われたものだろう。


 ヴァルムート側も現れた。ディータやトラビスもいた。トラビスにお咎めがなくて安心した。


「待たせてしまったようで、申し訳ない。生贄に選ばれた人たちの最後の別れに手間どった」


 陛下の後ろに6人がいた。年はできるだけ上の者を選んだようだったが、命の尊さに年齢は関係ない。こっちの生贄であるフルマンド王は縄で縛られていた。反抗するエネルギーもペンダントもないから、無力ではあったが、怖くて縄なしにはできなかった。


 俺の背後にいたモクサリテ公が前にでた。


「ヴァルムート国王、初めてお目にかかります。モクサリテ公でございます」


 陛下が何もおっしゃらずに黙って頷かれた。その後ろに団長、エルザ姫、ソフィア姫も慎重な面持ちだった。


 フルマンド王と6人の生贄、合計7人がゴンドラに乗せられた。リルマがゆっくりとゴンドラを下へ降ろした。リルマの騎士たちが構えた。何が起こる? 団長もディータも気づいていない。俺は団長の元へ走ろうとしたが、モクサリテ公が俺の腕をつかんだ。


「マクシミリアン公、どうされた?」

「リルマの部下が臨戦態勢に入ってます! ヴァルムート側の警護に伝えないと」


 モクサリテ公が答える前に、谷からいきなり吹き上げる風と共にドラゴンが現れた! 色はゴールドに変わろうとしてるが、変わり切れてないように見える。ところどころがグレーのままだった。


 モクサリテ公が手を挙げた。追加の5人がゴンドラに向かった。


「あの5人は?」


 陛下の表情が固くなられた。


「追加の生贄です。少なくともこちらも6人にしないと、パワーがそちらへ多く行きます」

「これで与えられるパワーが同じになったということか」


 5人の乗ったゴンドラが、谷へ降ろされた。これですべて終われば良いんだが……


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