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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
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Chapter 15

*** Chapter 15 ***


冬の到来に伴って、夕方といえど陽の光は弱くなってきている。幸いにも風がないが、到着が遅れると肌寒いだろう。陛下もここ数週間でめっきり老け込まれたし、長く外で待機していただきたくなかった。

***** 


「隊長! ほんとにやらないといけないんですか?」


 遠くに色無しの馬車らしきものが見えた。ハルンが動揺している。


「……陛下の命令は絶対だ」


 ハルンが大きくため息をついた。俺だってやりたくないが……


「馬車が近づいてきます。おそらくあれですね」

「たぶんな。用意は良いか?」

「……はい」


***** 


 俺はエルザの方を見た。にっこりと微笑んでくれたが、エルザも不安に違いない。ソフィア姫は黙って下を向いている。陛下もかなり緊張されてるように見えた。正式に色無しの王族に会うのは何年ぶりなんだろうか? 門番が馬車が近づいてることを知らせてきた。ほぼ定刻だ。意外に大きな馬車だった。警護も乗せてきたか。マクシミリアンが乗ってるのは間違いないようだ。


 バッヘンの指示で、御者は昨日のリハーサル通りの場所に馬車を止めた。過去にこの国と付き合いがあっただけあって、馬車のデザインはさほどこちらのと差はなかった。ただ使ってる素材が違うのか、形などは色無しの方が丸い感じがした。


 馬車のドアが開いた。俺は思わず剣に手をかけた。


 一番に降りてきたのはマクシミリアンだった。


「マクシミリアン!」


 陛下の声でソフィア姫が顔をあげた。その服装、色無しの衣装のようだが……


***** 


「マクシミリアンだ、討て」


 言いたくなかったが、俺はハルンに命令した。ハルンが躊躇してる。


「早く討て! 外しても良い! 陛下が期待してるぞ」


 ハルンがついに弓を放った……


*****


 突然、マクシミリアンの右側に色無しの騎士が現れて、剣で矢を防ぎ、その剣で矢が放たれた方向を指した。ハルンとトラビスが色無しの騎士に捕らえられている! 2人の首には剣が突きつけられていた。目の前にいる2人の色無しの騎士は、マクシミリアンを警護している。2人とも剣をこちらに向けていた。初めてこんな近くで色無しを見たが、本当にすべて白い、赤い瞳以外は。


「陛下! なぜこのようなことを!」


 無礼なのは承知だったが、思わず声を大にして言ってしまった。俺はディータを見たが、どう指示すればいいかわからないのか、硬直していた。俺が剣を抜いても無駄だった。むしろ敵意は見せない方が良いだろう。マクシミリアンの出方を待つ方が賢明だ。


 マクシミリアンが右手をあげた。トラビスとハルンが解放された。


「リルマ、陛下は今の俺の立場を知らずに、ヴァルムートの裏切り者としての対応をなさっただけだ」

「マクシミリアン公は、我が国を正しい道へと導いてくれるお方だ。だから、国を代表してここに来られた。国賓扱いしないのであれば、話し合いはしない」


 リルマと呼ばれた、背は高いが細身の若くみえる色無しの騎士が言った。


「……わかった」


 陛下の返事を確認してから、マクシミリアンは馬車の方を向いた。あの女、フーマが降りてきた。ソフィア姫のおっしゃってた通り、きれいな人だった。


「妻のフーマです」


 フーマが会釈した。結婚したのか。それで色無しで地位を築いたわけだ。もうこっちに戻ってくることがないのは決定だった。


「こちらへどうぞ。中で話しましょう」


 陛下の言葉に、マクシミリアンとフーマが陛下の後ろをついていった。色無しの騎士がその背後にぴったりとついている。この2人も王族と血縁関係か? トラビスとハルンを捕らえた2人もそうだろう。それとも瞬間移動は今では色無しなら、誰でもできるのか? こんな国と争っても負けるに決まってる。こちらが多少不利でも平和条約を締結するしか、生き延びる道はないだろう。俺はエルザ、ソフィア姫と一緒に後ろを歩いていた。ソフィアが難しい顔をしている。再会はしたが、到底姫の納得のいくものではなかった。


***** 


 マクシミリアン! あの服は色無しのもの? 悔しいけどとても似合ってらっしゃるわ。それにあの落ち着き……。あの女と結婚して、色無しの国で何不自由なく、生活されてるのね。もう手の届かない人だってわかってるけれど、もう1度話がしたい……。


***** 


 まさか、マクシミリアンがドルミダで貴族の地位を与えられてるとは思わなかった。つまり裏切ったということだ。その見返りに手にしたんだろう。あの騎士さえいなければ、仕留められたのに。敵に回したくない者だったが、仕方あるまい。ドルミダからの条件を一方的に受け入れたくはないが……


***** 


 久々に戻ったヴァルムート。団長ももう結婚されてるから、王族の装束だった。泊る予定はないが、一言ご成婚のお祝いを言えれば……



 陛下はサンルームへ俺たちを案内した。フーマが咲いてる花に興味を持っている。俺は勝手とは思ったが、すぐに着席せずにフーマと少し花を見た。


「綺麗ね」

「虹色女神にエネルギーさえ具現化できれば、ドルミダでも見れるようになるよ」


***** 


 フーマと話すマクシミリアンを、俺は黙ってみていた。陛下さえいなければ、話したいことがたくさんあるのに。マクシミリアンも対になってる本のドルミダ版を読んだはずだ。


「奥方様、妊娠されてるんじゃない?」


 エルザに言われてフーマをよく見ると、確かに少し腹がふくらんでいるように見える。


「可能性はあるだろうね」


 メリーナがお茶の用意をした。


「お食事の前にまずはお茶をお召し上がりください」


 マクシミリアンとフーマも着席した。気が付くとソフィア姫はマクシミリアンの隣に座っていたが、陛下は何もおっしゃらなかった。陛下はマクシミリアンの向かいに座られた。


「陛下、話し合いをスムーズに進ませるために、先に申し上げます。こちらから1人提供しますので、そちらの7色で虹色女神のエネルギーを具現化させましょう」


 予想もしなかったマクシミリアンの発言に、全員が驚いた。


「では、支配権はヴァルムートが持って良いということなのか?」

「パワーをより強く持つことができるのは、多くの生贄を捧げた国であって、7色揃えた方ではありません」

「まさか……」


 俺は思わず口にしてしまった。


「王家から多く生贄を出せば出すほど、パワーを手中に収めることができるのです。フーマは直系でフルマンド王の娘ですが、異母姉妹が5人います。この5人は……生贄になる覚悟ができています」

「では、フーマが次期女王だと言うのか?」


 陛下が驚かれるのも無理はなかった。


「ドルミダは男性社会です。ですから、次期国王は……俺です」


 警護についていたディータも、驚愕の表情を見せた。フーマのパワーの強さから王族とは思ってはいたが……


「それはフルマンド王が了承したということか?」

「……フルマンド王は現在幽閉されています。フーマの大叔父、モクサリテ公の命により、俺がクーデターを起こしました」


***** 


 俺はクーデターを起こした時のことを思い出していた。俺は騎士ではあったが、人を殺したことはなかった。団長たちの剣を入手の条件として、モクサリテ公の手伝いをすると約束はしたが、クーデターだとは夢にも思わなかった。


「クーデター? モクサリテ公、俺には無理です」

「どうして? 優秀な騎士だと聞いてるが?」

「近衛団は王族をお守りするのが任務であって、王の座から引きずり下ろすことではありません」

「フルマンド王が存命してる限りは、虹色女神は召喚できんぞ」

「なぜですか?」

「色に迷ったバカな男だ。権力を得るために生贄が必要なのは間違いないが、愛人に子供を産ませることとは違う。おまけに権力を振りかざすことが政治だと思ってるから、気に入らん臣下は目の前で斬殺もする。そのせいもあって、誰も王には反抗できない。だからお前に頼んでる。臣下は反抗できないだけで、誰も王に忠誠心などない。むしろお前が力を示せば、みなお前に従う。次期国王として必要だろう?」

「それはフーマとの結婚を、お許しくださるということでしょうか?」

「王が生きてる限りは無理だろう。国に関係なく、王族以外の血は汚れてると思ってるからな。近親結婚の影響で王は気が狂ってるし、生まれた子で早死にする者もいる。だからわしはフーマとそなたの結婚には賛成だ。王はクーデターで失脚させたあとなら、反対しても彼の言葉に何の効力もない。だからクーデター後ならフーマと結婚できるぞ」


 モクサリテ公に利用されているのはわかってる。王座には興味はないが、虹色女神の召喚、フーマとの結婚は俺には重要だ。


「リルマ、話を聞いてたんだろう」


 モクサリテ公が口にするまで、俺はこの部屋でモクサリテ公と2人だけだと思っていた。リルマと呼ばれた男が現れた。室内だが、ここに瞬間移動ができるのか? それとも色無しの国だからか?


「マクシミリアン公、リルマでございます」


 そう言って、俺の前でひざまづいた。俺より年上だと思うが、色無しの年齢はわかりづらい。フーマも俺より5つも上だとは思わなかった。少し釣り目だから、赤い目がより鋭く見える。


「この国はフルマンド王によって頽廃しました。もう貴殿しか頼れる方はございません」

「リルマは100人以上で構成される騎士団長で、腕は部下共々一流だ。彼の部下はこれですべてそなたの思い通りに動く。どうだ、これでもやらないというのか?」


 100人以上……。俺のいた騎士団の4倍以上か。


「リルマには何かアイデアはあるのか?」

「王には少数精鋭の親衛隊がおります。就寝時ですら常時5人は警備につけています。この親衛隊は王に操られています」

「テレパシー能力でか?」

「はい、でも操られるということは、パワーは弱く瞬間移動もできません。でもわれら騎士団はパワーの強い者しか入団できません」

「でもそれでは剣の腕が立つのでは?」

「貴殿ほどではございません」


 リルマの作戦を聞いた。確かにそれならうまくいく算段は高いだろう。だが、人を殺めるなんて……


「王は逮捕後、裁判にかけられる。わしには王の処分に考えがあるから、それで進めたいが、それはクーデター成功後に話す」

「……わかりました。それでいつ決行ですか?」

「できるだけ早く。明後日でどうだろう?」

「明後日? それは急すぎます!」

「時間がない。ドラゴンまで敵にはしたくあるまい」


 それは当然だが……。


「マクシミリアン公、お任せください」


 俺はリルマを信用せざるを得なかった。



 リルマの作戦通り、まず親衛隊が寝静まった宿舎へリルマと60人ほどの部下と行った。親衛隊は50人ほどで王の寝室に5人、ドア2人警護をしてるから、残りの43人ほどは今ここで寝てるはず。俺の騎士団と違って、こいつら全員同じ部屋で寝ている。リルマの用意した眠り薬入りの香を焚いた。この部屋も窓がないから、すぐに煙が充満した。これで物音がしてもすぐに目が覚めない。効果が出たころ、全員を縛り上げて、地下牢へ送った。縛られたままだから、目が覚めても何もできないだろう。


 次に、リルマが選んだ精鋭15人と共に、王の寝室へ向かった。親衛隊が刃向かったら殺すつもりだった。王の寝室前で警護する2人は俺とリルマを見て、すぐに降参した。王が寝てるからか、さほど操られてなかったようだった。


 王の寝室に入ると、王は就寝中なのに部屋はろうそくで明るかった。中の5人はすぐ俺たちに気がついた。だが、表情がほとんどなく、人間としての感情がまるでないロボットのようだった。動きも早い。それに王の寝室は広いとはいえ、こちらの15人で攻撃すれば味方の剣でケガする可能性もある。俺とリルマで5人の相手をすることにし、2人が王を縛り上げ、残りは俺たちの援護に入った。戦い方が違うのか、なかなか手ごわかった。俺が3人、胸と背中を浅いが切り付けた。すぐに援護の騎士がそいつらを縛り上げた。残り2人は隊長クラスだろう。俺の剣の方が短いから、接近しなければ切り付けられなかったが、この差はある意味、致命的だった。リルマに切らせることにして、俺は気を散らせる作戦に出た。俺は壁際へ行って、まずろうそくの燭台を床に落とし、部屋にあるものを倒し始めた。部屋が暗いままで障害物が多いと、赤目で視力の弱い色無しには不利だと思ったからだ。でもそれはリルマにとっても同じだった。俺がリルマを切ったら意味がない! どうすべきか……? 突然、フーマの言ったことを思い出した。ペンダントだ。全員、力をコントロールするために、ペンダントをかけているはず。精鋭隊の制服は襟が高いから、ペンダントが外に出ることはない。ならば、王のペンダントを壊せばいい。こっちの2人が王についていたが、俺が王の胸元を広げた際に、俺のアイデアに気が付いた。王は精一杯抵抗したが、さるぐつわもされていて無駄だった。王のペンダントはそれこそ虹色だった。俺はそれを足で踏みつぶした。王と2人の親衛隊は人とは思えない叫び声を上げて、気を失った。叫び声はいたるところから聞こえてきた。どうやら親衛隊以外も王が操っていたようだ。


「私などペンダントの存在が身近過ぎて、気がつきませんでした」


 リルマもまだ息切れをしていた。


「フーマがテレパシーで教えてくれたのかもしれない。しかし、虹色のペンダントだったが、壊しても大丈夫だったのか?」

「問題ありません。王の直系はみな虹色のものをお持ちです」

「ではフーマも?」

「はい、そのはずです」


 赤いペンダントだったが? 複数持ってるのか? 


 叫び声を聞きつけて、人が集まってきた。モクサリテ公、フーマもフーマの異母姉妹、そして操られていた者も正気に戻ったのかやってきた。


「やったな、マクシミリアン」


 モクサリテ公が近寄ってきた。


「皆の者、よく聞け。このマクシミリアンが王を捕らえ、クーデターを成功させた。彼こそが、王女フーマの夫となり、次期国王にふさわしい」


 ざわめきが走った。だが、すぐに拍手が起こった。モクサリテ公を含む全員が俺にひざまづいた。


「マクシミリアン公、お慕いいたします」


 俺は黙って頷いた。モクサリテ公が立ち上がると、残りの者たちも立ち上がった。


「王は裁判まで幽閉とする」


 それだけ伝えて、部屋をでた。リルマの部下が王を地下牢へ連れていった。


「マクシミリアン」


 フーマがそばに来た。俺は思わず抱きしめた。


「良かった、ご無事で」

「もちろん。これで結婚できる」


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