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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
13/19

Chapter 13

*** Chapter 13 ***


 マクシミリアンからもらった色無しの剣は、俺のエネルギーがまだ入ってないとはいえ、コウモリには絶大な効果だ。今までは一振りでは殺せなかったのに、これだと一振りで3匹くらい倒してる。ディータも戸惑いながら、使っている。どうやらかすっただけでも殺せるみたいだ。世界の狭間が見えてきた! でもそれでどうするつもりだ、マクシミリアン。フーマからの指示を待つのか……。


***** 


 霧がかかってきた。もうすぐ世界の狭間だ。さあ、どうする? ユニコーンを突き飛ばすわけにもいかないし……。フーマ、どうすればいい?



 何も入ってこない。霧のせいか、ここのエネルギーのせいか? コウモリのパワーも増大してる。色無しの剣を持たない騎士に、コウモリが群がり始めた!


「ハルン!」


 大量のコウモリに襲われているハルンを助けようとして、トラビスがフォーメーションを乱してしまった。するとみるみるうちに数が増えて、俺たちにも襲い掛かってきた! 俺もついに剣を抜いた。コウモリは鋭い歯で噛みつこうとしている。強い毒性があるとは思わないが、多数かまれれば致命傷にもなり得るだろう。俺は自分にまとわりつくコウモリに必死だったが、色無しの剣を持たない騎士たちが落馬し始めた! 俺はハルンはトラビスに任せて、他の騎士を助けに行ったことでもっとフォーメーションを乱してしまった!


「マクシミリアン! うしろ!」


 兄上に言われて、後ろを見た。角に魅入られていたユニコーンが雄たけびをあげた。


 ユニコーンに向かって角を向けた。すぐ正気に戻ったのか、鼻をならしながら近づいてきた。その時、風が吹いて少し霧が晴れた。アイデアが入ってきた! やはりフーマのテレパシーを感じられなかったのは、霧のせいだったか。


「団長、さっき差し上げたペンダントにエネルギーを送るイメージをしてください!」

「わ、わかった! やってみる!」


 団長はペンダントを握りしめて、目をつぶった。なんでもいいからうまく行ってくれ……。そうしてるうちにも色無しの剣を持ってない騎士たちが、やられている!


 団長からいつもの黄色の光が出てきたが、いつもよりも柔らかい。色も少し白味がかっている。コウモリが消え始めた! 団長が静かに目を開けた。体力も失ってない!


「団長! やりましたね!」


 団長自身も驚いている。


「コウモリが消えた?」

「はい、団長のパワーですよ!」

「団長!」


 ディータがそばに来た。


「大丈夫ですか?」

「ああ、マクシミリアンからもらったペンダントのおかげだ」


 ユニコーンはまだいたが、突然、何かが聞こえたのか、世界の狭間の谷に向かって走り始めた。


「後追いをする必要はないだろう」


 団長の言葉どおりだ。倒れた騎士たちを助けなければ。


 突然強い風が吹いて、谷からドラゴンが現れた! グレーのドラゴン! でかい!


「団長! どうしましょう?」


 ディータが指示を待ってるが、団長も呆然としてドラゴンを見ていた。トラビスも落馬した騎士の面倒を見るのをやめてみている。


 ユニコーンはドラゴンに向かって歩き始めた。ドラゴンとユニコーンの角が触れた瞬間、両方とも消えてしまった!


 我に返った俺たちは、けが人の応急手当てを始めた。ハルン他かなりひどい者が数名いた。


「団長、アンデミーラ家から荷馬車を借りてきます」

「アンドレアス、お前もかなり咬まれてるが大丈夫か?」

「大したことありません」


 そう言って兄上がアンデミーラへ向かった。最後の別れをしたかったんだが……。俺はまず、怪我をしている騎士の介抱をしているディータのところへ行ってそばにしゃがんだ。


「ディータ、団長を頼んだぞ」

「どういう意味だよ?」


 少し向こうで応急手当をしている団長にも言った。


「団長、エルザ姫とお幸せに」


 団長は手を止めて俺をまっすぐ見た。


「マクシミリアン、戻って来いよ。フーマもこんなに協力してくれてるんだから、陛下もフーマと会うことを許可する可能性もあるぞ」

「いえ、もう戻れません」

「どうして?」


 理由を言いたくなかった。俺は立ち上がった。


「……もう行かないと」


 今アンデミーラ侯爵家へラルクを返しに行けば、兄上に会えるかもしれない。ディータが俺のそばに来た。


「マクシミリアン、もう会えないなんてことないよな? また助けに来てくれよ」


 そんな弱音、ディータには合わないな。


「色無しの剣もあるから、俺なしでもユニコーンは倒せるよ」


 団長も立ち上がった。


「マクシミリアン、せめてソフィア姫に会ってくれないか?」

「団長?」

「……ソフィア姫はもう俺とは口もきいてくれないし、目も見てくれない。俺と同じテーブルにすら座らないよ。義妹になるのに……」

「でも……話すことなど、ないですよ……」


 ソフィア姫か。もう遠い存在だな。お茶会が懐かしい。


「それに城に出入りできない以上、お会いすることはできないと思います」

「現段階ではな。でも今回の活躍と剣の提供の件は、陛下に報告するから、それで恩赦が出るかもしれない」

「……わかりました。でも約束はできません」


 俺はアンデミーラ侯爵家へ向かった。剣をもらった条件として、モクサリテ大公との約束を果たさなければ。


***** 


「団長、マクシミリアンは大丈夫でしょうか?」


 マクシミリアンの馬が見えなくなってから、ディータに俺も気にしていることを聞かれた。


「どうやら同じことを考えてるようだな」

「……この剣のために、危険を冒したのではないかって思ってらっしゃるんですよね?」


 そう言ってディータが剣を抜いた。剣にはディータの目の色と同じ赤と、反対側には青の石がはめられていた。


「変な取引に応じてなければ良いが……」

「まさか、自分の子供を生贄にするとか?」

「……いくら何でもそれはないだろう。ただ、だからこそ、マクシミリアンが自分を犠牲にしたかもしれないと思うと……」

「あの別れ際に残した言葉……。もう一生会わないような感じでしたよね?」

「……マクシミリアンが色無しの国にいる間は会うことはないだろう、虹色女神を召喚しない限りはな」

「でも一向に進んでないんですよね?」

「少なくともこっちはな。あと赤だけだが、今のところヴァルムートでは両目赤目で生まれた子はいない。でも色無しは7色そろえたかもしれない」

「俺は何であれ、早く召喚してほしいです」

「そうだな、なんとかその後平和条約締結になれば、ベストだが……」


 そう、そうなればすべてうまく行くはず。それでマクシミリアンが戻れば、ソフィア姫も少しは元気になってくれるはずだ。たとえ、マクシミリアンとの結婚がなくても……。


*****


 俺はフーマと共に色無しの城へ戻ってきた。モクサリテ大公が俺を待っていた。


「では次は、わしのお願いを聞いてくれる番だね」

「もし俺がうまくやれたら、次の約束を守っていただけるのですね?」

「もちろんだ。わしも虹色女神のエネルギーが欲しい」

「……わかりました、やります」


 俺は大公の話を聞いたが……そんなこと、俺にできるんだろうか?


「……少し考えさせていただけますでしょうか?」

「……でもそなたには『やらない』という選択肢はないんだが?」

「……わかっています」


 俺は憂鬱なまま、大公の部屋を去った。ドアの外でフーマが俺を待っていた。2人でフーマの部屋に向かったが、俺は黙って歩いていた。


「……やりたくないんでしょ? 断っても良いのよ?」

「今更、断れないよ、剣も受け取ったんだから」

「でも……!」

「フーマが気が進まないのはわかってる、でも……」

「私のことは良いから。あと、お姉さまも納得されたわ」

「……ではやるしかない」


***** 


 俺は城へ戻って陛下に報告した。ディータも同席した。


「グレーのドラゴンが出たのか?」

「はい、でも子供のユニコーンと共に消えてしまいました」

「……そうか」


 陛下は多くは語られなかった。でも何かご存じなのは間違いなかった。


「陛下、マクシミリアンのおかげで剣も手に入れられましたし、俺もパワーをコントロールできるようになりました。どうか特赦を」

「……ドルミダから返事があって、エルザとルーファスの婚姻式には出れないそうだ」

「そうですか」


 虹色女神の召喚がまた遠のいたのか。


「だが、その後、状況が許せば話し合いを行いたいと申し出てきた」

「それは進展しましたね」

「喜ぶのはまだ早い」

「そうですね。それでマクシミリアンの特赦は……」

「考えておく」

「かしこまりました」


***** 


 ルーファスとディータが下がった。マクシミリアンを特赦にしても戻ってくることはないだろう。あの日以来、ソフィアは食事すら部屋で取っている。ソフィアの機嫌を取るつもりはないが、ルーファスのことを裏切り者扱いをさせるわけにはいかない。



 私はソフィアの部屋へ行った。


「ソフィア、私だ、入るぞ」


 メリーナを退室させて、ソフィアと2人だけになった。ずいぶん、やつれたように見える。


「お父様、お願いです。マクシミリアンを許してあげて」

「特赦にしても、マクシミリアンは戻らないだろう」

「お父様がお許しになったとお聞きしたら、戻られます! その後、婚約させてください」

「特赦は考えているが、婚姻はだめだ」

「どうして?」

「……特赦後、もしマクシミリアンが戻ってきたら、黄色とオレンジの目を持つドレスリア伯爵家のミリアと結婚してもらう」

「ミリアと? どうしてですか?」


 ドレスリア伯爵家はアンデミーラより東に位置する領地を統治している。アンデミーラ侯爵家とは親戚関係だ。ミリアは三女で今年15歳だ。


「……その子供を生贄に使う可能性があるからだ」


 ソフィアは『信じられない』という表情を見せた。 ソフィアには言いたくなかったが、それでマクシミリアンをあきらめてルーファスとうまくやれるなら……


「虹色女神を召喚しなければいけないのだ。両目が黄色とオレンジは少ない。マクシミリアンには悪いが、その目を持つ子供を持ってもらわなければならない」

「それが、私と婚約できない理由なのですね?」

「そうだ」

「それならもうここに戻られない方が……」

「そうかもしれないな。自分の子供を生贄には捧げたくないだろう」


 ソフィアが泣き出した。


「ルーファスは団長としての任務を果たしただけだ。お前があの現場を見なくても、マクシミリアンとは結婚できなかったし、私がドレスリア伯爵家令嬢との結婚を命令して結婚はしたとしても、生贄の件で反発して処罰を受けただろう。だからルーファスを許してやりなさい」

「……わかりました」

「明日からは食事もダイニングで一緒に取るように」

「わかりました」


 私はソフィアを抱きしめようとしたが、できなかった。泣いている小さな背中が私を拒絶しているように見えたからだ。


「おやすみ」


 私が部屋を去ろうとしても、ソフィアは顔をあげなかった。


***** 


 お父様が部屋を去って、メリーナが入ってきたけれど、私は泣き続けたわ。マクシミリアンのことをあきらめたくなかったけど、それ以上に、子供が生贄になる可能性があるなんて。もうマクシミリアンに会うことはないのかしら? またあの目で見つめて欲しかったのに……。もっとたくさんお話もしたかった……


***** 


 あれから数頭ユニコーンが現れたが、マクシミリアンからもらった剣は絶大だった。おそらくペンダントも俺の剣にパワーを与えてるようだった。ディータとトラビスも剣のおかげでパワーが違う。できれば他の騎士たちにも、この剣を与えたいと思ったが、それ以前にマクシミリアンがもう俺たちのところに来なくなったことがやはり気になった。あの別れ際の言葉は、文字通り別れの挨拶だったのか。エルザ姫との結婚式にはどういう形であれ、マクシミリアンに見て欲しかった。


 ソフィア姫はまだ目は合わせてくれないが、少なくとも俺と同席はしてくれるようになった。陛下がお話になってくださったとエルザが教えてくれた。でも前のように接してくれることはないだろう。



 俺の結婚式にはやはりマクシミリアンは現れなかった。眼鏡とフードの者を探したし、ディータにもマクシミリアンらしき者がいたら追い返さずに誰なのかを確認するよう言い伝えてあったが、そのような者はいなかったそうだ。


「ルーファス、またマクシミリアンのことを考えてらしたのね?」


 結婚式が終わって、俺はエルザと寝室にいた。次期女王夫妻の部屋として、新たに与えられたものだ。警備の数も増えた。ここで過ごすのは今日が初めてだ。


「……すまない」

「いいのよ」


 エルザは俺を優しく抱きしめてくれた。虹色女神を召喚するしかない。正式にエルザの夫になった以上、あの図書館に自由に出入りできる。



 次期女王の夫であっても、俺は近衛団長であることには間違いはなかったが、陛下から早く子を持つように言われて、バトルで少し憶病になったと思うことがある。色無しの剣のおかげで以前より危険な目に遭うことが減ったが、マクシミリアンの言ってた通り、ユニコーンのパワーはアップしている。いつかこの剣で倒せない時が来るんだろうか? 逃げかもしれないが、その時はまだ早いがディータに近衛団を任せるかもしれない。陛下からの言葉もそうだが、せっかくエルザの結婚できたのに死にたくなかった。俺が死んだら、エルザは他の騎士と再婚するだろう。それだけは絶対譲れなかった。


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