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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
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Chapter 12

*** Chapter 12 ***


「陛下、戻りました」


 謁見室の前で俺は言った。ディータから報告を聞いたが、手ごたえはあったとのこと。せめてアンデミーラ侯爵家にはお咎めを無しにしていただきたい。


「入れ」

「失礼します」

「もう大丈夫なのか?」

「はい、ご心配おかけしました」

「それで、マクシミリアンは元気だったのか?」

「はい、またユニコーンから助けてもらいました」

「ディータから聞いたが……」

「はい」

「価値のある剣なんだな?」

「はい、それは間違いありません」

「わかった。無事に提供されたら、アンデミーラ侯爵家への罰はなしとしよう」

「ありがとうございます!」

「それで、いつどうやって受け取る?」

「まだわかりません。それぞれの目の色と同じ色の石が付いてるものでないといけませんので、マクシミリアンもいつ入手できるかまではわからないようでした」

「では、それまではアンデミーラ侯爵家の件は保留にしておく」

「了解いたしました。それで……」

「どうした?」

「陛下はご存じかもしれませんが、アンデミーラ侯爵から本を見せていただきました。なぜアンデミーラがユニコーンに狙われているのかを、推測に域は超えてはいませんが、納得の行く話をお話しくださいました」


 俺は陛下に説明したが驚かれなかった。


「そうか……」

「……では7色の生贄では足りない可能性もあることも、わかってらっしゃるんですね?」

「最悪の事態だけは避けたいと思っているんだが……」


 陛下はそれ以上、何もおっしゃらなかった。


「エルザが心配していたから、声をかけておいてくれるか」

「もちろんです」



 俺はエルザ姫の部屋をノックした。


「ルーファス!」


 姫がドアを開けて中に入れてくれた。


「ディータがご無事だとおっしゃいましたが、心配しました」

「申し訳ありません。心配をかけてしまって。でも今回は死を覚悟しました」

「え?」


 紫色の目が凍ったように見えた。


「姫の顔が浮かびました。絶対死にたくないと思ったら、マクシミリアンが現れましたよ」


 姫の美しいラベンダー色の瞳に涙が浮かんだ。俺は静かに姫を抱きしめた。


「マクシミリアンが色無しの剣を調達してきますから、もうそんなことは起きません」

「本当ですか?」

「はい、陛下もそれを条件にアンデミーラ侯爵家への処罰はされないと約束してくださいました」


 姫が俺の手を取って、ソファに座るよう促した。


「ソフィアが部屋から出てこなくて……」

「俺も顔向けできません」

「ルーファスは任務を全うされたのですから、気にされる必要はありません」

「そうですが……」

「マクシミリアンが恩赦になると良いけれど……」

「なってもここには戻って来ないと思います」

「どうして?」

「あの女、フーマを愛してるから戻らないそうです」

「……そうですか。では、その選択は尊重しなければいけませんね」


 次期団長はマクシミリアンに頼みたかったが、しょうがない。


 俺は姫に口づけをして、強く抱きしめた。


***** 


 俺は色無しの城内にいた。ヴァルムートの城と全然違う造りだ。天井は異常に高いが、窓は1つもない閉ざされた空間だった。壁も屋根も床も薄いブルーで、正確に言うとモノクロではないが、色がないように見える。あの満月の夜の、5人の色無しの会話の意味がやっとわかった。圧迫感を感じる。マリエン湖にまたフーマと行きたいが……どうだろう?


「マクシミリアン、モクサリテ大公が返事を聞きたいそうだけど……」


 フーマが戸惑いながら俺に言った。


「了承したら、剣は用意してくれるんだな?」


 条件を聞かずに、提案を受けるというのは危険な賭けではあるが……


「……そのはずだけど、無理に話を受けなくても良いのよ。剣は別の方法でも入手できると思うし……」

「でもそれにはフーマがかなり無理をしないと……」

「大丈夫よ」

「早く渡したいから、話は受けるよ」

「でも……」


 フーマが不安そうな顔を見せた。俺だって不安だ。何をお願いされるんだろう?


「とりあえず話をしてくるよ」

「団長さん用のペンダントは私が用意するから」

「……ありがとう」


***** 


 1週間経った。マクシミリアンから連絡がない。次にユニコーンが来る前に剣を受け取りたいが……


「団長! ユニコーンです!」


 ついに来たか、今回は追い払うだけにしなくては。でないと多大な犠牲者が出る。


「トラビス、アンドレアスを呼んで来い、今回連れて行くから」

「アンドレアスをですか?」

「そうだ、モタモタせずに呼んで来い!」


 今回はアンドレアスも含めて16名で向かった。


「どうして僕もなんでしょうか? はっきりいって足手まといだと思うのですが……」

「今回は現れたのはアンデミーラの森の外れで、ほとんどガラマンだ。もうアンデミーラ近隣の村は無人で、食べるものがないからだろう。でもだからこそ、アンデミーラの木の実でも薬草でも、アンデミーラでしか取れないものをユニコーンにやって時間を稼ぐつもりだ」

「マクシミリアンが剣を持って来るまでってことですか?」

「そうだ、もしくはユニコーンが諦めて去るまでだ。今回は長期戦になりそうだ」

「わかりました」

「お前の指示でチームトラビスに食料と餌付けをユニコーンにやってもらう。でもお前は絶対にユニコーンに見つかるなよ」

「やってみます」


 アンドレアスとチームトラビスは餌を探しに、アンデミーラの森の中心部へ向かった。


 チームディータは俺と一緒に現場に着いた。今回のユニコーンは少し小さめだ。まさかまだ子供とか? もしそうならなおのこと、たちが悪い。


「とりあえず、周りの様子を窺ってるようですね」

「ああ、でももし子供だったら、親がそばにいるかもしれない。そうなると厄介だ」

「そうですね……」


 俺とディータは気配を隠しながらも、ユニコーンに近づいた。


***** 


「ユニコーンが食べるかわかりませんが、この木の実やフルーツは村人が食べてるものです。おそらくユニコーンも食すとは思いますが、これで満腹になるとは思えません」

「そうですね、でもとにかく集めましょう」


 僕はチームトラビスと、とにかく餌になりそうなものを集めた。どれくらい時間稼ぎできるかわからないが、やるしかない。20分ほどでかごいっぱいになった。


「では、団長に持って行きます」


 トラビスが去った。僕たちは引き続き餌になりそうなものを探した。


*****


「団長、これらを試しにあげてみましょう。食べるようであれば、もっと取ってきます」


 トラビスがかごいっぱいのフルーツやハーブを持ってきた。


「どうやって食べさせるんですか?」

「トラビスはチームディータの援護で、ユニコーンの周りにそれを撒いてみろ。くれぐれも角に気をつけろよ」

「わかりました」


 ディータもうなずいた。なんとかうまく行けば良いが……。



 ユニコーンに見つからずに食べ物を撒くのには成功したが、見向きもしない。もう肉の味を覚えたのか、腹が減ってないのか。でも何であれ、満腹にならない限り、去らないだろう。


「……食べないのか、気づいてないのか……」

「団長、どうしましょう?」


 トラビスに聞かれたが、俺もわからない。


「続けるしかないだろう。もし小動物を見つけたら捕らえろ。殺すなよ」

「わかりました」


*****


「マクシミリアン! 決心してくれたか?」


 フーマの親戚でもあるモクサリテ大公は、おそらく100歳近いだろう。色無しは最初から髪も白いし、肌も皺があるのかもわからないから、もう少し若く見える。


「はい、でも先に剣をいただけるのですね?」

「ああ、約束は守る。これだ」


 モクサリテ大公は剣を3本くれた。


「言われた通り目の色で揃えた。これで良いんだろう?」

「はい。これを届けてからやります」

「わかった、待ってるぞ」



 ヴァルムートへ向かう準備をしていると、フーマが来た。


「これ、団長さんに……」


 緑のペンダントだった。


「『練習がいる』って言ってたけど……」

「このペンダントに念を送るイメージをしてくれればいいわ」

「わかった」

「ただ、目の色と光の色が違う段階でかなり難しいから、期待するほどコントロールできるかはわからないけど……」

「それも伝えておくよ」


 俺はフーマに軽くキスをした。


「アンデミーラ侯爵家で、良いのね?」

「うん、頼む」


 フーマと俺はアンデミーラ侯爵家そばに瞬間移動した。


***** 


 丸一日、ユニコーンに餌をやりつづけたが、進展なしだ。俺たちも森で取れた果物を食べて飢えをしのいだ。もっと長くなるなら、食料も調達すべきだが、肉など匂うものは辞めておく方が良いだろう。


「団長、どうしましょう?」


 ディータにまた聞かれたが、どうすればいいかわからない。


「刺激してみますか?」

「いや、それは危険な賭けだろう。子供でも今の俺たちには勝ち目はない」


 うろうろはしているが、餌の取り方を知らないとか? だとしたら、いつか親が来るはず。マクシミリアンが早く来てくれれば……


***** 


 俺はアンデミーラ家馬番のムディナから、昨日ユニコーンが森の外れに出た話を聞いた。


「ラルクもマクシミリアン様を待ちわびてましたよ!」

「ありがとう! すぐに向かう」


 ラルクを走らせたが、昨日? もう1日経ってるが、もしまた2頭以上現れたなら、勝ち目はない。みんなは無事だろうか? 不安ばかりがよぎった。



 近衛団と騎士団の馬が6頭ほどつないである! この辺りに騎士たちがいるはずだ。俺も同じ場所に馬を止めて、森の中へ入っていった。


「団長!」

「マクシミリアン! 良かった!」


 他の連中も振り向いた。俺が色無しの剣を調達することは、みんな知ってるんだろうか?


「陛下が取引に応じたが、剣はあるか?」

「はい、これです。ただ今日はユニコーンの角は切れません。エネルギーが入ってないからです。しばらくは肌身離さずお持ちください。寝るときもベッドに置いてください。1週間ほどで馴染んでくるはずです」

「そんなに時間がかかるのか?」

「しょうがないです。俺のもそうでした。でもこっちの剣よりは、すでにユニコーンに対しては強いはずです。だから今日は俺が殺ります」

「待て、見てみろ、おそらく今日のは子供だ」


 団長に言われて見てみると、確かにそのようだった。角もまだ短い。


「どうされるおつもりですか?」

「できれば殺したくない。だから、アンドレアスにアンデミーラの森の食材を集めさせたんだが、効果がなかった。腹が減ってないのか、親を待ってるのか……」


 まさか……


「この間倒した2頭が親だったとか?」

「……可能性はある」


 どうすればいい? 俺は静かに目を閉じた。フーマ、アイデアを……


「まだユニコーンの角はありますよね?」

「城にあるはずだ」

「角を使いましょう。それで世界の狭間まで、連れて行ってみてはどうでしょう?」


 そばで聞いてたディータが言った。


「じゃあ、取ってきます!」

「ディータ、早速だがこの剣も腰に差してくれ」


 俺はディータに赤い石のついた剣を渡した。


「これがそうか! ありがとう。団長、すぐ戻ります」


 ディータの後姿が消えてから、俺は団長にペンダントを渡した。


「これは?」

「フーマからです。団長がパワーをコントロールできるようになるかもしれません」

「もしそうなら、良いんだが……」

「ほんとはすでにもらってたんですが、俺がつまらない嫉妬をして、俺が使ってるんです」


 そう言って俺は黄色のペンダントを見せた。


「団長の出す色に合わせて黄色をくれたんですが、結果的には俺の目の色と同じで俺が使いこなせてるので、フーマは今回は緑をくれました。団長の目の色に合ってるので、ある程度はコントロールできると思います」

「じゃあ、陛下が言ってた『もう1つもらったもの』って……」

「はい、これです。パワーを使うときはこの石に念を送るようにやってみてください。でも練習は必要なので、まだユニコーンに対しては使わないでください」



 ディータがユニコーンの角を持って戻ってきた。


「これをどうするのだ?」


 団長がまだ不安そうな声で俺に聞いた。


「俺が行きます。でももし襲い掛かってきたら、切ります」

「わかった、マクシミリアンにお願いしよう。でもどのルートで行く?」


 世界の狭間まで最短だと、馬を走らせて20分ほどだ。でも途中に村がある。おそらくユニコーンは襲わないだろうが、驚く村人に反応して暴走するかもしれない。他のルートだとアンデミーラの岩山を右手に見ながら向かうから、村を迂回していくことになる。でも洞窟にコウモリがいる。コウモリはユニコーンに反応するが、そこさえ騎士がなんとかすれば行けるかもしれない。理由はコウモリはユニコーンに反応するが、ユニコーンはさほど反応しないからだ。


「コウモリが出ますが、アンデミーラの岩山の脇を通るルートで行きましょう。その剣ならコウモリも一撃で倒せるはずです」

「では先頭はマクシミリアンだ。俺、ディータ、トラビスはユニコーンより少し離れながらも、コウモリを過剰反応させないようにする。残りはもう少し遠巻きでついてこい。村人と出会った際も対処するように」


 団長の指示でフォーメーションが決まった。俺は刺激しないように、ユニコーンに近づいた。ユニコーンは俺じゃなく、角に反応して目が少し光ったが、素直についてきた。アンデミーラの岩山までは楽勝だった。


 もう少しで岩山だ。急に風が強くなってきた。黒い塊が現れたと思ったら、コウモリだった! ユニコーンはまだ気が付いていないが、コウモリが俺たちを襲い始めた! 団長もディータもすでに戦い始めた。色無しの剣のおかげか、順調に殺してるが、どんどんやってくる。本当に岩山の洞窟から来てるのか? そんなにコウモリが棲めそうな穴が開いてる岩山じゃなかったと思ったが。


 なぜか俺にはあまり襲ってこない。フーマが守ってくれてるのか、ユニコーンのそばにいるからか? なんであれ助かる。早く世界の狭間まで、連れて行かないと。



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