Chapter 11
*** Chapter 11 ***
突然、誰かが僕を突き飛ばした!
「兄上、下がってください!」
「マクシミリアン!」
「無事でよかった! フーマに会えたんだな?」
「もちろん! この剣ならこいつを倒せる!」
マクシミリアンの剣は、この国のよりも長くて細かった。色無しの剣なら、倒せるはずだ。
*****
俺はラルクを口笛で呼び寄せた。ラルクは俺が入団前に乗っていた馬だ。バトルには慣れてないが、勇気はある。リスクが高いが、必ず仕留めてみせる!
ラルクを走らせながら背中でしゃがんで、奴のたてがみにつかまるチャンスをうかがっていた。よし、今だ! ユニコーンの背中に乗ったと同時に、後ろにある目を3つ剣で切った。剣がパワフルだから、すでに苦しそうだ。前の目をつぶす前に背中をつたって行って、尻尾をできるだけ切った。確認してないが、おそらく3本は切ったが、痛みで暴れ出した! 俺は奴の背中から落ちてしまった!
「マクシミリアン、大丈夫か!?」
「ディータ!」
「大丈夫だ! 奴を揺さぶれ!」
俺はユニコーンがディータに気を取られてる間に、ラルクに乗って脇腹から剣で心臓を刺した。血が俺に飛び散って気持ち悪い! 動きが鈍くなったところで、また背中に乗って、今度こそ角を切り落とした! 俺の前の剣よりもやりやすい! いつ聞いても恐ろしいユニコーンの断末魔。地響きとともにユニコーンが倒れた。やった! 色無しの剣で初めて奴を倒した……!
*****
アンドレアスの話を聞いて俺は耳を疑った。マクシミリアンがあのユニコーンと戦ってるって?
「フーマからもらった剣があるので、倒せると思います!」
またアンドレアスの肩を借りて、マクシミリアンのところへ向かった。地響きがした。ユニコーンを倒したか?
マクシミリアンの剣はいつもより長かった。どうやら色無しの剣のようだが、あんなにユニコーンに効果があるなんて。アンドレアスも倒れたユニコーンを見て呆然としている。お互い死を覚悟したが、マクシミリアンに助けられた。
「団長、大丈夫ですか?」
マクシミリアンがそばに来た。
「ああ、大丈夫だ。……ありがとう、助けてくれて」
「当然です」
「やっぱり、マクシミリアンは裏切り者なんかじゃなかったんですよ!」
ディータが興奮しているが、アンドレアスは腰が抜けてしまったようだ。
「兄上……」
「無事でよかった」
俺も興奮冷めやらずだったが、
「どうして……ここに俺たちがいるってわかったんだ?」
「……アンデミーラ家が気になって……。父上とマシアス兄上と話してるときに、光が見えたんです。馬小屋担当のムディナも、すぐに俺の昔の馬を出してくれましたので、早くここに来れました」
「その剣、色無しのか?」
「はい、俺用になってるので、パワーは絶大です」
「戻って来いよ! この件を陛下に報告したら、恩赦だよ!」
「いや、それはできない。フーマをスパイにしたくないんだ」
「そんなことを言ってる場合か!?」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
「団長、ディータ、トラビス用に剣をなんとかします。この国の剣では、絶対ユニコーンは倒せません!」
「そうだが、どうやって?」
もし用意してくれるなら、これ以上のものはないが……
「何とかします。だから陛下にアンデミーラ家への処罰を辞めていただくように、言ってください。今父上には、俺だけ秘密の任務を請け負ってるのもあって、裏切り者扱いになっていると言っています」
「……わかった」
「団長はアンデミーラ家の屋敷で休養してください。その方が、父上もマシアス兄上も俺の話を信じてくれます!」
「団長、では俺は先に陛下に報告します。誰かに見られて、俺たちがマクシミリアンに会ってるのを密告されるとまずいと思います」
「そうだな、ディータの言う通りだ」
「回復された後は、僕が団長を城まで送り届けます」
「ではそうしよう。ディータ、任せたぞ」
「はい! マクシミリアン、陛下を説得してくるから」
「ありがとう。頼んだぞ」
ディータが城へ戻った。
「馬車を持ってきますから、ここでお待ちください」
アンドレアスもアンデミーラの屋敷へ向かってしまった。マクシミリアンと2人だけになった。ちょうどいい。
「その剣、あの女、フーマにもらったのか」
「はい。目を切っただけで暴れ出しました。こっちの剣と全然違います」
「3人分、用意できそうか?」
「……やってみます。ただ、剣の石が目の色と一致していなければなりませんから、うまく集められるか……」
「フーマに集めてもらうのか?」
「そうなると思います」
「……ソフィア姫もふさぎ込んでるよ。罪悪感でいっぱいらしい」
「罪悪感? どうしてですか?」
「あの日、ソフィア姫がお前の後をつけたんだ」
「そうだったんですか?!」
「嫉妬心からやったそうだ。最初は『すべて内密で処理して欲しい』と俺に頼んできたが、俺が陛下に報告した」
「……それは当然だと思います」
「……お前が裏切り者とされてから、騎士たちの士気が下がってるよ」
「……申し訳ありません」
「……戻って来ないか? 近衛団に。俺たちの分の剣まで調達できれば、恩赦になるだろう」
「でもその後、フーマに会えないのは耐えられません」
「ほんとに、愛してるのか?」
「はい……それに、フーマにスパイはさせたくありません」
アンドレアスがムディナと一緒に、荷馬車で戻ってきた。
「ルーファス近衛団長様ですね! お噂はかねがね……。ユニコーンに少しやられたとお聞きしました。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、ありがとう」
「荷馬車ですみません。横になれる方が良いか思いまして……」
「ありがとう、アンドレアス」
「では屋敷へ向かいましょう。団長の馬は僕が引いていきます」
*****
俺は馬を飛ばした。陛下にこのことを報告して、なんとかマクシミリアンを恩赦にしてもらいたかった。
「陛下に報告することがございます」
陛下の警護の者に行った。
「お待ちください」
待ち時間……長く感じる。
「どうぞ、おはいりください」
俺は謁見室に入った。
「陛下。今日、団長、アンドレアス共々、マクシミリアンに助けてもらいました。マクシミリアンが色無しの剣でユニコーンを一撃で倒したんです」
「どこでだ?」
「アンデミーラの森です。突然現れて、団長がパワーで1頭倒しましたが、もう1頭現れた際に、マクシミリアンが来てくれたのです。それで、その色無しの剣を団長、トラビス、俺の分を調達してくれるそうです」
「マクシミリアンがか?」
「はい、でもその代わりと言ってはなんですが、アンデミーラ侯爵家への処罰をやめていただきたい、と言っています」
「私と交渉したいということか」
陛下の顔がこわばったが、俺は続けた。
「マクシミリアンは裏切り者ではありません!」
「ルーファスはどうした?」
「アンデミーラ侯爵家で休まれています。良くなり次第、アンドレアスが連れて帰ってきます」
「ルーファスとも相談して決めるが、いつ提供してもらえるんだ?」
「それは言っていませんでした。まずは団長を休ませるのが先決でしたので」
マクシミリアンの件以降、陛下が急に老けられたように見える。心労だろう。でもマクシミリアンが本当に剣を手配してくれれば……!
「ご苦労だった。もう下がって良い」
「失礼します」
*****
ディータが謁見室を去った。マクシミリアンからドルミダの剣を提供してもらえるのはありがたいが、虹色女神はどうなってる? マクシミリアンには聞きたいことが山ほどある。虹色女神が召喚できなければ、この国はドルミダと共倒れだ。マクシミリアンはドルミダでどこまで聞いたのか?
*****
「ルーファス様、大丈夫ですか?」
父上とマシアス兄上だった。
「大丈夫ですが、少し休ませていただきます」
客間で団長には休んでいただくことにした。
「マクシミリアンの話を信じなくて悪かったな。本当に周りを欺いてまで、特殊任務をやってるんだな。誇りに思うぞ、マクシミリアン」
父上がとりあえず信じたようだった。これで陛下が交渉に応じてくだされば、真相はバレないだろう。兄上が小声で俺に話しかけてきた。
「マクシミリアン、僕は陛下の命令ですでに近衛団を退団している。父上の手前、まだお仕えしていることにしても構わないが……」
「でも城に部屋がないのでは?」
「お前を探す名目で、一応任務はまだある。団長を無事に城にお連れしたら、僕の務めは終わると思う」
「兄上は辞めたかったんだから、団長がエルザ姫と婚約されたことだし、退団で良いと思う」
「わかった。でももしお前のことで手伝えることがあるなら、騎士としてではないが、引き続き残ると思う」
翌朝、俺は団長が休まれてる客間へ、父上、マシアス兄上、アンドレアス兄上と一緒に行った。
「おかげさまでずいぶんよくなりました、ありがとうございました」
団長の顔色も良いし、体力が戻られたようだ。
「もし急ぎで城に戻らなくても構わないのでしたら、お耳に入れたいことがあるのですが」
「父上?」
なんだろう? 父上がご存じで団長が知らないことって?
「アンドレアスとマクシミリアンにも伝えておきたいことがある」
父上は俺たちを蔵書室へ連れて行った。どうやらマシアス兄上はすでにご存じのようだった。
「これを見ていただきたいのです」
王族図書館で見た本に似ていた。
「これは?」
団長がそう言いながら、丁寧にページをめくっていた。かなり古そうだ。
「これは我がアンデミーラ侯爵家に伝わる本で、領主のみにしか見ることは許されていません。ただ今の状況を見ていると、拝見していただきたく思いました」
「そんな貴重な本をよろしいのでしょうか? 特にわたくしはアンデミーラ侯爵家の血縁ではございませんし……」
団長は急いでみるのをやめた。
「なぜユニコーンがアンデミーラを狙うかがわかるかもしれません」
「なんですって? 理由をご存じなのですか?」
父上はページをめくっていた。
「この記述をご覧ください」
“アンデミーラの森の水脈は、『世界の狭間』と呼ばれる谷からの水があふれんばかりに流れ込んでおり、森のみならずアンデミーラ地域全体を潤している”
「ユニコーンはあの谷に住んでいたという言い伝えがあります。もしそれが本当ならば、ユニコーンにしてみればアンデミーラの土地もその水を飲んでる住民も、故郷のエネルギーを感じることができるから狙うのだと思います」
父上の説明を聞いて、フーマの言ってたことを思い出した。『赤目は不味いから、黄色とオレンジを食べに来ている』と。色無しは今『死』が訪れている。死の世界の住人を不味いと思うのは当たり前かもしれない。
「ではアンデミーラに黄色とオレンジが多いのは、それと関係しているということでしょうか?」
「恐らくそうだと思います。この本によれば、ユニコーンがあのような怪物になる前は黄金の瞳だったそうです」
「では谷の住民も黄金の瞳ということですか?」
俺も団長と同じことを思った。
「もしまだ生きているならば、そうでしょう。残された谷の絵では住民はそのように描かれています」
そう言って、父上は谷の絵を見せてくれた。初めてみた。ドラゴンと一緒にいる絵だった。ドラゴンは身体は黄金だったが、目は赤かった。もし谷も色無しの国と同じ霧に囲まれているならば、住民は外には出れないのか、死滅したのか。
「いつからユニコーンはあのようになってしまったんでしょうか?」
団長が尋ねた。
「はっきりとはわかりませんが、虹色女神のエネルギーがなくなってからだと徐々に変化していったと思います」
「虹色女神を召喚すれば、ユニコーンもエルフも元に戻るということでしょうか?」
「おそらく。ドラゴンまでが化け物になる前に行いませんと、取り返しがつかなくなると思います」
フーマも似たようなことを言っていた。もうあまり時間がない……
「マクシミリアンの特別任務は、虹色女神に関係しているんだろう?」
「あ、はい、父上」
急に話を振られたが、急いで取り繕った。
「ルーファス殿、虹のエネルギーが消えてから時間が経ちすぎています。100年は経ってしまってるから、7色そろえるだけでは済まないかもしれません」
「どういう意味ですか? 父上」
「文字通りだ。生贄は7色では足りないだろう」
「もっと生贄が必要になるということですか!?」
「陛下もそれを憂いておられるはずです。間に合えば良いが……」
団長も寡黙になられた。なんとかしなければ……。
「マクシミリアン、任務の参考になっただろう?」
「はい、父上、ありがとうございます」
「アンデミーラ侯爵、ありがとうございました。陛下にも伝えます」
アンドレアスが団長と共に城へ戻った。俺もフーマの元に戻らねば。




