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マクシミリアンと虹色女神  作者: 桐谷 美和子
10/19

Chapter 10

*** Chapter 10 ***


 まさか、自殺? 陛下の謁見室は3階だ。俺は急いで窓から下を見たが、マクシミリアンの姿はなかった。


「やられた! あの女が迎えに来たんだ!」


 陛下のお言葉に、俺は一瞬意味がわからなかった。


「どういう意味でしょうか!?」

「瞬間移動だ。どうやらその女はかなり強い力を持ってるようだな。窓から落ちるマクシミリアンを捕まえて、移動できるとは」


 アンドレアスが陛下のそばに来た。


「陛下、どうかもう1度だけマクシミリアンを信じていただけませんでしょうか?! 虹色女神を召喚すると言ってます!」

「どっちの国が7色揃えるんだ!?」

「わかりません! でもそのためにはもう1度、フーマに会う必要があると……」

「アンドレアス! お前は昨日、それを俺に言わなかっただろう!」

「……申し訳ございません。でもマクシミリアンの無実を証明するには、もう虹色女神を召喚するしかないと僕も思っています!」

「残念だが、マクシミリアンは裏切り者だ」


 陛下の言葉だった。ついに犯罪者になってしまった……! アンドレアスが力なくうなだれた。


「陛下……マクシミリアンは裏切る気などなかったんです! 恋した女性が色無しだっただけです! お願いですから、もう1度信じてやってください、お願いします……」


 アンドレアスが深く頭を下げてお願いした。


 俺は陛下を見た。陛下は考えておられる……、どうなさるおつもりなのか……


「……マクシミリアンがすべてを話さぬまま、あの女と逃げたなら、裏切り者として扱うしかない。見つけたら即刻、捕らえよ。貴重な黄色とオレンジだから殺すなよ」

「陛下!?」


 信じたくないお言葉だったが、そう判断されるのは当然だった。ディータも驚愕の表情だった。


「アンドレアス、お前は退団してアンデミーラへ帰れ。アンデミーラ侯爵家の処分は追って伝える」


 アンドレアスの顔色が変わった。


「陛下、お言葉ですが、アンドレアスはまだ利用価値があります。色無しの国に行けない以上、マクシミリアンと女はこの国にいるはずです。隠れ家にしそうな場所の情報をアンドレアスから提供してもらえると思います」


 俺は僭越ながら、陛下に提案した。


「……わかった。お前はもう騎士ではないが、協力はしてもらう」

「……仰せの通りに」

「全員、今すぐ下がれ」

「……わかりました」


 俺は落胆するアンドレアスの腕を取って、ディータと謁見室を出た。マクシミリアンは行動力はあるが、虹色女神を召喚できるとは思えない。色無しは2色足りないが、マクシミリアンは黄色とオレンジをどこに保護してるかは知らない。それとも、虹色女神のために、自分の子供を2人も生贄に差し出すとでもいうのか。でもそれでは時間がかかり過ぎる。


「アンドレアス、協力してくれるんだな?」

「……もちろんです」

「マクシミリアンが隠れそうな場所は?」

「子供のころにアンデミーラの森に隠れ家を作ったことがあって、よく秘密基地にしていました。父上に叱られたときもそこに行ってたので、今回も使う可能性はありますが、ユニコーンに森を破壊されてると聞いてるので、まだあるかどうか……」

「あの森は昼間でも暗い場所があるので、あの女も陽が防げるし潜んでる可能性は高いと思います」


 ディータも同意見だった。


「よし、今日の午後に行ってみよう。まずは近衛団と騎士団を集めてくれ。マクシミリアンのことを伝えなければならない」

「わかりました」


 ディータが両方の本部へ行った。


「すべてを話さなくて申し訳ございませんでした」


 アンドレアスが力なく言った。


「でもマクシミリアンは、色無しの女と恋に落ちただけなんです。重要な情報も漏らしていないし、むしろユニコーンを倒せるようになったんですよ」

「そうだが、あの女がマクシミリアンの子供を身ごもってたらどうする? 赤目とマクシミリアンの子供は間違いなく両目が黄色かオレンジだ。俺はそれが目的であの女がマクシミリアンに近づいたと思ってる」

「でも本当にそうでしたら、最初に会ったときにマクシミリアンを誘拐したと思います。わざわざ毎晩、危険を犯してまで会いに来るでしょうか?」


 確かにアンドレアスの言うとおりだが……ディータが戻ってきた。


「団長、全員集まりました」

「わかった、今行く」


 俺は今回の一件を全員に説明した。噂がすでに流れていたとはいえ、やはり動揺が広がった。


「個人的には、俺はマクシミリアンが俺たちを裏切ったとは思ってない。ただ、陛下からの命令として見つけたら捕らえよ」

「「「わかりました」」」

「それと今後の動き方だが、ユニコーンは倒さない。勝手に去るまで村人を守り続ける」

「それではどんどん数が増えるかもしれません」


 トラビスの言う通りだろう。


「でもマクシミリアンなしでは倒すのは無理だ。こっちも犠牲は払いたくない」

「あの剣がないからですか?」


 ディータはマクシミリアンの剣のことを口にした。一部の者が変な顔をした。


「あの剣があろうがなかろうが、マクシミリアンは勇気も実力もあった。任務を外したのとはわけが違う」


 マクシミリアンの件で全体の士気が下がってる。こんなときにユニコーンを倒そうとして犠牲者が出たら、なお下がってしまう。


「あと、しばらくは城門から外へ出るのに許可がいる。わかったな」

「「「……わかりました」」」



 昼食を済ませて、アンドレアスの案内でディータとともにアンデミーラの森へ向かった。念のため、騎士団の誰にも言わずに城を出た。場合によっては陛下を裏切る行為と解釈される可能性があったからだ。森は城から20kmほど南に位置している。40分ほどで森に着いた。


「ずいぶん、変わってしまいましたね」

「ここのところずっと、ユニコーンがこの辺りに出てるからな」


 マクシミリアンが1人でユニコーン2頭倒したのもここだ。まだユニコーンの死体があった。寒くなってきたのもあって、さほど腐敗も進んでいなかった。


「この奥になります」

「馬はここに置いて、歩いて行くぞ。気配を感じさせないようにしなければ」

「わかりました」


 アンドレアスを先頭に、周りを確認しながらその秘密基地へ向かった。


「あそこです」


 アンドレアスが指した先は大きな木があった。


「あの木のうろは入口こそ小さいですが、中が広くなっています。それを利用して中を改造したんです。たぶん大人2人でも身を潜むだけでしたら、数日間は可能だと思います」


 そっと近づいてみたが、人の気配は全くなかった。


「やはりいなかったか……」

「色無しの国にいるのでは? だってマクシミリアンは彼らにとっては利用価値がありますし……」


 ディータの言う通りだった。でもそれが俺が一番恐れているんだが……


「だからと言って、言いなりになるとは思えないが……」

「フーマに頼まれたら聞くかもしれません」


 アンドレアスはあの女を名前で呼ぶのか。兄弟仲が良いはずだ。


「ハニートラップか? 惚れさせて言うことを聞かせるか。今のマクシミリアンなら聞きそうだな」

「他に森で隠れそうな場所はないと思います。森自体がうっそうとしているので、身を潜むことは可能ですが、3人で探すには広すぎると思います」


 俺はディータの意見に賛成だった。


「今、マクシミリアンの捜索をしてる時間はないだろう、城へ戻ろう」


 そういえば、コウモリは実はエルフだと言ってたな。そうならば、ユニコーンも元は美しい動物だったに違いないのに、残念だ。


 急に白い光が辺り一面を覆った! まさか……


「団長! ユニコーンです!」


 目の前にでかいユニコーンが現れた。


「1頭か!?」

「おそらく……」


 俺はパワーを使った。アンドレアスが驚いている。知っていたとはいえ、ユニコーン征伐に一度も行ったことがないからな。ユニコーンを消したあと、俺はやはり立つことすらできなかった。


「……これが団長のパワーなんですね。助けてくださってありがとうございます」

「良いんだ、さあ、行こう」


 アンドレアスの肩を借りて馬のところまで行こうとすると、また光が来た。


「まさか……」


 もう1頭現れた! 体力が戻ってないが、もう1回使えるか……!


「団長! 無理ですよ! 俺がやります!」


 ディータがユニコーンの気を引こうと立ち向かった。


「無茶するな……!」


 ディータ1人でうまく奴の気を逸らすことができれば……! ここで死にたくない。俺がここで死んだら近衛団はどうなる? ディータにはまだ任せられないし、マクシミリアンもいない。それにやっとエルザ姫と婚約したのに……!


***** 


 俺は時間稼ぎを兼ねて、ユニコーンの周りをうろついた。なんとか団長から引き離さないと。団長の体力が戻るには、たいていは1日かかってる。だから俺にここでこいつを倒すのは無理だとしても、少なくとも安全な場所に移動してもらうまでは、俺が引き受けた。その後、どうやって逃げるかは、それから考えるしかない。


 なんとかユニコーンが俺を追い始めた。よかった、と思ったのもつかの間、また団長の方を向いてしまった。


「おい、この化け物! こっちだぞ?」


 目の前で剣を振ったりしたが、俺が眼中にないらしい。どうしよう?


***** 


 なぜ、こっちに来る? たいていは早く動く方を狙うのに、今日に限ってなぜだ? 


「団長、たぶん僕を狙ってるんだと思います!」


 息を切らせながら、アンドレアスが言った。体格は俺と変わらないが、俺がここまで動けないと体重の大半をアンドレアスの肩にかけているからな。


「どうしてそう思うんだ?」

「僕がアンデミーラの人間で、黄色を持っているからです」

「アンデミーラはユニコーンの欲しいものを持ってるということか?」

「わかりませんが、今までの状況を考えてたらあり得ます」


 そうかもしれないが、訓練をほとんどまともに参加していないアンドレアスには、ユニコーンを引き付けてもそのままやられるのが落ちだ。


「ディータ! 団長を頼む!」


 ディータが気が付いてこっちに向かって来るのを確認してから、アンドレアスが俺を地面に降ろした。


「待て! アンドレアス! お前には無理だ!」



 マクシミリアンは裏切り者ではないが、そう対処されている以上、兄として責任を取れるのはこれくらいしかない。出来の悪い兄でマクシミリアンには恥をかかせていたが、少しでも時間稼ぎをして団長の体力が戻れば、団長とディータだけでも助かるかもしれない。それにアンデミーラの森は、僕の庭同然だ。樹々が低いが密接して生えてるエリアに連れていけば、少なくとも動きが制限されて、僕を襲えないだろう。


 この先にもっとうっそうとしたエリアがあるはずだったが、僕は木がなぎ倒された広いエリアに出てしまった! この森は数回ユニコーンにやられている! もう僕の知ってるアンデミーラの森ではなかったようだ。


 振り返ると、広い場所で自由に動けるようになったユニコーンがいる。もうだめだ。ユニコーンが僕を見ている。僕は剣を抜いた。今生まれて初めて、騎士として訓練をまともに受けてなかった自分のバカさ加減に腹が立ってきた。腹を立ててもしょうがない。やるだけやるしかなかった。


 ユニコーンが角を向けて僕に突進してきた! 僕は背中を見せるべきではないとわかっていたが、とにかく逃げた。この広いところさえ抜ければ、またユニコーンは木をなぎ倒しながらじゃないと僕を追えなくなるはずだ。この先がユニコーンに破壊されていないことを祈りながら、僕は走り続けた。


***** 


「ディータ! アンドレアスには無理だ!」


 ディータに支えられながら俺はアンドレアスの方へ向かっていた。


「わかってます! でもユニコーンは俺に見向きもしないんです!」


 ではやはり、アンデミーラの人間を狙ってるってことか? アンドレアスは緑と黄色の目を持っている。さっきもディータの方へ行かなかったのは、アンドレアスを狙ってたからだ。


「ならばますますアンドレアスが危ないんだぞ!」

「わかってますが、もう1頭現れたらどうするんですか? 団長をここに置いては援護に行けません!」

「俺は良いから行け!」

「でも団長!」

「行け! 命令だ!」


 ディータが戸惑いながらもやっと俺を地面に降ろして、アンドレアスの擁護に行った。死にたくない。絶対死にたくない! 俺は周りを見渡した。這いずってより大きな木の陰に隠れた。近衛団の誰にもここに来ることを言ってこなかったことが悔やまれた。援助は期待できない。どうすればいいんだ? 


*****


 思ったより木が密集していなかったが、ユニコーンが僕に突進できないところまで来れた。この先どうする? でももうこれ以上走れない。木に登っても無駄だろう。ディータの僕を呼ぶ声が聞こえるが、団長は大丈夫なのか? ユニコーンを見るとまた僕をジッと見ている。猛進ではなかったが、かなりのスピードで僕に向かってきた! もうだめだ。僕は死を覚悟した。


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