Chapter 1
読むのも見るのも大好きなファンタジーに挑戦してみました。よろしくお願いいたします。
*** Chapter 1 ***
「ここは俺に任せてください!」
目の前にいるユニコーンと5mはあるだろう。
「わかった、頼んだぞ、マクシミリアン」
近衛団長ルーファスはそう言って、次の敵へ向かった。今俺たちは郊外の廃墟にいる。突然現れたこの化け物を、やっとここに追い込んだ。最初は俺の故郷であるアンデミーラの森に現れて、数人の村人を食った。あと、コウモリがうじゃうじゃいる。森にはコウモリの住む洞窟があるが、なぜかユニコーンが現れたときに、コウモリも凶暴になって人を襲う。強くはないが数が多い分、面倒だ。
この化け物ユニコーンには目が5つあるから、死角がない。尻尾も8つあってどれも長さが違って張り倒されるから、容易にはそばに近づけない。もちろん、名の通り、するどい角が1本生えている。どうするか? 俺は弓の名手だ、でも残念ながら、矢が4本しか残ってない。目を4つ潰せば、かなりましなはず。でも大きな賭けだ。
俺の住んでる世界は2つに国から成っている。俺が住んでいる『色有り』と呼ばれるヴァルムートと『色無し』と言われているドルミダだ。残念ながら、現在は断絶状態だ。『色有り』は文字通り、色のある世界で俺も含めて肌、髪、目に色がある。目はたいていは両方違う色で俗にいう『オッドアイ』だ。右は母方から、左は父方から受け継いだものと言われている。俺の目も右は黄、左がオレンジだ。たまに両方の目が紫の子もいるが、その子供が赤と青目で生まれたりすることもある。でも『色無し』は髪も肌も色がないらしい。つまり白だ。俺はまだ色無しに会ったことがないから、よくわからんが、目だけは血の色が透けて見えるから赤いらしい。『色無し』と言えど、血は赤いみたいだな。
色無しはいろんな意味で弱い。例えば肌は直射日光に耐えられない。色無しの国に行ったことないからわからんが、ドーム状の中に住んでるらしい。それに視力も弱いとか。そうかもしれないな。瞳に色がないなら眩しいだろう。でもその代わりパワーというか、超能力がある。人の心を読んだり、瞬間移動とかできるらしい。100年前くらいまでは、両国で婚姻関係を子供が生まれるたびに行ってたそうだが、あるときもめたらしい。それ以降、100年も色無しと断絶をしてるそうだ。俺は近衛団に入隊してもう3年。団長であるルーファスに認められて、次期副団長候補とも言われてる。そんな俺ですら、知らされていないことがたくさんある。今日のユニコーンだって、色無しの仕業かどうかすらわからない。いきなり町外れの廃墟に現れた。でも『いきなり』は色無しの得意技だ。瞬間移動だもんな。でも色無しが送ってきたとしたら、何のため? 偵察か侵略か……。
このユニコーン、何度か現れているが、同じ奴ではなさそうだ。色無し、色有り区別なしのただの人食い化け物なのかそれすらわからないが、これ以上村人に被害が及んではいけない。俺は4つの目を弓でつぶした。本来ならここで、角を狙うべきだが、過去に全部失敗している。理由は俺たちの剣では、役に立たないらしい。俺は試したことがないが、俺の剣は特別ではないし、おそらく歯が立たないだろう。さあ、次は足を俺の剣で切りつけてやる! 足がやられたらバランスを崩すはず。そこで尻尾をできれば全部切り落として、一気に心臓を一突きして仕留める作戦だった。
よし、足も4本とも俺の優秀な部下と一緒に深手を負わせた! 尻尾も6本切った! 背中に乗って、脇から心臓をぶち抜こうと思ったら、射貫いたはずの目が復活してる! ヒーリング能力があるなんて聞いてない! 死角から突くはずだったのに! 尻尾はもう復活している! 俺は尻尾ではじかれて、壁まで吹っ飛ばされた。
「マクシミリアン!」
「ハルン! 目を再度つぶせ!」
もたもたしてるうちに足の傷まで治ってきてる! まずい!
突然、強い黄色の光が廃墟内を満たした。ルーファス団長のパワーだ! 団長はもちろん色有りだが、過去の色無しとの婚姻関係の影響で、たまに色有りなのに色無しのパワーを持った子供が生まれる。ルーファス団長もその一人だ。ユニコーンが光で溶けていった。助かった! でも団長が奥で倒れている!
「団長! 大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ。お前こそ、大丈夫か?」
「はい、無事です! すみません、俺、仕留めることができなくて……」
団長のパワーはすごいが、使いこなせてない。だから今回は助かったが、武器としては使えないし、パワーを使ったあと、団長は消耗して動けなくなる。だからこのパワーは、最後の敵だとわかってるときしか使えない。俺は団長に肩を貸して、他の仲間のところへ移動し始めた。
「俺こそ、すまん。このパワーさえ使いこなせればいいが、何度練習してもだめだ」
数代前に色無しがいるからだろうが、突然変異的に現れた能力は、練習でなんとかなるものではないらしい。俺にもあるかもしれないが、表面には出ていない。団長の目は緑と青。目の色とパワーは関係ないようだが、それもよくわかっていない。
両国を平和に導くことはできるのは、虹色の目を持った者だと言われている。正確に言うと、虹色の目を持ったものが両国を支配する、ということだ。俺たちの本当の任務はその虹色の目を探すことなんだが、手掛かりなし。しかし、虹色の目ってどんな目なんだろう? 真ん中から同心円状に7色なのか、それとも縦か横に7色なのか? 想像もつかない。色無しもこの虹色の目を探してるはず。
「団長、大丈夫ですか?」
俺の弟分のディータだ。
「村人が荷馬車ですが用意してくれたので、それで王都へ戻りましょう」
「すまん、情けないな」
「とんでもありません! 村人や俺たちを救ったのは団長ですよ!」
団長の家系は王族につながってるらしい。だからこの能力を持ってるんだろう。俺もはしくれのはずだが、さっぱりだ。ディータの目は茶と青だし、彼も王族の遠縁らしいが何も出ていない。
今回は15人チームで征伐に向かったが、近衛団の犠牲者はなし。とりあえず任務完了。王都へ戻った。
団長は部屋で休む必要があったため、俺が代わりに陛下に報告に行った。
「マクシミリアンです」
「入れ」
陛下は、赤と青の目を持った大柄の人で髪は金髪だ。団長も金髪だから、王族関係というのは明白だった。俺とディータは黒い髪だが、遠縁は金髪には程遠いようだ。
「無事成敗しましたが、団長が……」
「ああ、聞いてる。大丈夫なのか?」
「はい、今、自室で休んでおられます」
「そうか。それでユニコーンだったんだな?」
「はい。でもヒーリング能力がありました」
「ヒーリング能力?」
陛下の声が大きくなった。初耳のようだった。
「はい、目もつぶしましたし、足も尻尾も切り落としたはずなのに、治っていくんです」
「それは厄介だな。進化しているのかもしれない」
「進化!?」
「ああ、ヒーリング能力があるなんて聞いたことがない」
陛下は深くため息をついた。
「それで被害は?」
「村人が5人食われました」
「……そうか」
いつも被害者は村人だ。騎士は仮にも戦える分、時間稼ぎ中に助けが来るが、村人が突然襲われていてどうしようもない。
「他に気づいたことはあったか?」
「……特にありません」
「ご苦労だったな。もう休むと良い」
「はい、失礼します」
無事成敗したとはいえ、被害者が出た以上、俺の気持ちも暗い。
「マクシミリアン」
振り向くと、第2王女のソフィア姫が立っていた。
「姫」
ソフィア姫は俺の6つ下の12歳。顔がそばかすだらけだが目は青と緑。金髪に映えて綺麗だ。
「顔の怪我、どうされたの?」
ユニコーンの尻尾で壁に打ち付けられたときに、身体の右側を強打したから、顔と腕にあざと擦り傷ができてしまった。
「今日のユニコーンにやられました。大した事ないですよ」
「まあ、明日は訓練を休まれたら? お茶会をするから、ぜひいらして」
「訓練は休めません。ユニコーン成敗は、結局また団長がパワーを使われたし、もっと鍛錬しなくては」
「ルーファスには言っておくから!」
ソフィア姫はまだまだ幼いが、実は結構好かれてるようだ。お茶会なんてつまらないに決まってるから行きたくない。そんな時間があれば、鍛えないと。
「お言葉はうれしいですが……。それでは失礼します」
「マクシミリアン!」
はぁ、姫だから邪険に扱えないが、正直迷惑。
今日は満月か。お気に入りの湖に行くか。疲れてるはずなのに、眠れそうもない。
*****
マクシミリアンは、私のお気に入りというか私の初恋の人。目は黄色とオレンジだけど、晴れの日は両目がゴールドに見えてとてもきれい。あの目に見つめられるとウットリしちゃうけど、本人は恋愛に関心なし。鍛錬ばかり考えていて、つまんない。明日のお茶会に来てもらうようにルーファスに手を回しておかないと。ドルミダとの縁談がない以上、王族と言えど相手が貴族なら自由恋愛だもの。特に私は第2王女。お父様さえ許可してくれれば、マクシミリアンと結婚するつもり。ルーファスがお姉さまが好きなのは知ってるけど、第1王女は将来の女王だから、ちょっと話は違うのよね。でもルーファスは名門出身だから、結婚できるかもしれないけど、微妙なところ。お姉さまもまんざらじゃなさそうだけど、縁談は全く進んでないのよね。ルーファスもお姉さまが好きなら、それなりに意思表示をしないと。夜会でダンスを申し込むとか、お父様に一言申し出るとかね。私の婚約の方が先かもしれないわね! 先月12歳になって、やっとお茶会が開けるわ。侍女が後ろに立っているとはいえ、マクシミリアンと2人だけになるチャンス。絶対、明日来ていただくわ!
*****
「どこ行くんだよ?」
馬小屋で、バッヘンが声をかけてきた。バッヘンは馬小屋の責任者だ。彼は青と緑の目に明るい茶色の髪をしている。
「なんか興奮して寝れないから、いつもの湖に行こうかと……」
「気をつけろよ。何が出るかわからんぞ」
「あそこは大丈夫だよ。それに満月が湖に映ってすごくきれいだし……」
俺は馬に乗って湖に向かった。王都からはさほど離れてない。小さいときによく乳母に連れて行ってもらったところだ。
俺はアンデミーラ侯爵の三男坊で、家はもちろん長男である25歳のマシアスが継ぐ予定で父上について勉強中だ。マシアス兄は茶色の髪に黄色と緑の瞳だ。次男であるアンドレアスは俺より3つ上の21歳。俺と同じ黒い髪だが、目は黄と緑だった。アンドレアス兄上は騎士に向いていないが、父上は兄上にエルザ姫と結婚して欲しいからと無理やり入団させられた。だからやる気もない。本当は文学者になりたかったが、ドルミダとの縁談が無くなって100年以上経ち、王家に王子が生まれれば、貴族連中は娘を持ちたがり、娘が生まれれば息子を持ちたがる。王族と婚姻関係になりたいからだ。兄上はエルザ姫とも年齢差もちょうどいいが、たいていは近衛団長か副団長と結婚するから、兄上にチャンスはほとんどない。でも兄上も政治にも姫にも興味がないから、ちょうどいい。今は俺がソフィア姫に気に入られてるから、父上は俺に期待をかけている。俺は姫とのことは正直どうでもいいが、将来は団長になりたい。それにはまず副団長にならないと。前の副団長だったドノバンは結婚後、近衛団をやめた。たいていは貴族の次男、三男がなるからよほどのことがない限り、結婚後退団することはない。ドノバンも次男だったが、結婚相手が娘しかいなかったから、家を継ぐことになった。もう3か月も空席の副団長のポジション。誰にも譲りたくなかった。
俺は父上にお願いして、15歳で近衛団に入った。近衛団は基本、貴族出身のみで、騎士団は庶民対象だ。色無しとの絶縁以降、騎士は男の子の人気職業第1位だ。庶民でも手柄を立てれば貴族になれるからだ。でも騎士団に入ってから訓練を受けてる庶民から、貴族になれた人はまだ一人もいない。仮にも俺も幼少時から、剣の使い方は習ってきた。その差はどうやら埋まらないらしい。
マリエン湖。夏は泳げる湖だ。思ったとおり、満月が湖に写って、月が2つあるように見える。幻想的だ。満月には毎回この湖に来ている。毎日訓練か、救助と言う名の化け物との戦いだが、ここに来るといつも癒される。
マントを外さずにうまく伸ばして、その上に寝ころんだ。今日の満月はいつもより眩しい気がする。もうすぐ冬だ。冬は太陽光線が弱くなるから、色無しが変装してこっちにくる可能性がある。というか俺はすでに色無しはスパイとして、ここにいると思ってる。でもスパイといっても探ることなんてなさそうだけどな。あっちも虹色の目を探してるんだろうけど、残念ながらこっちにはない。
いきなり空が明るくなった。俺はバトルのくせで、つい木陰に隠れた。光が収まってくると、5つの影が湖上に浮かび上がった。女? 目が暗さになれてくると見えてきた。女が5人。宙に浮いている。ゆっくりと岸に足をおろした。
色無しだ! 初めてみた。本当に全部白いが目だけが光ってるように見えるけど、5人全員目の色が違う? 赤しかいないって聞いてたけど、赤、青、緑、紫、インディゴ? ビー玉が光ってるように見える。髪は長いが、真っ白というよりかは銀髪に見える。あ、服を脱ぎだした!? でも真っ白だから、白いボディに日フィットした服を着てるように見えていたが、湖で沐浴している。寒くないのか?
「こっちは良いわよね。こんな綺麗な水があって」
「そうね、すべてが閉塞的な私たちの世界と全然違うものね」
「早く欲しいわね」
「あと2つよ」
「そう、この2つが難しいわね」
何の話をしてるんだ? 色無しの国には湖がないのか? 『あと2つ』あれば何が手に入るんだ?
考えている間に5人はいなくなっていた。これが瞬間移動か。陛下と団長に報告しなくては。色無しがこっちに来てるのを初めて目撃した。色無しがスパイに来てる噂は本当かもしれない、こんなに簡単に色無しはここに来れるんだから。




