193 お台場ダンジョン初日
翌日、お台場ダンジョンに向かうと大阪組が先に来て待っていた。
「魔王様~、こっちっすよ!」
だだっ広い受付前のホールでブンブンと手を振って歓迎してくれる。
だが、嬉しくはない。
思いっきり周囲の注目を集めているからね。
英花が大股でズンズンと進み手を振っていた大阪組の前までたどり着くと、まなじりを釣り上げて睨み付けた。
「おおっ、なんですのん?」
「ここはお前たちの地元じゃないんだ。周囲の注目を集めていることに気付け!」
いや、英花も大声で怒鳴って目立ってますけど?
他人のふりをしたいところだけど、離れた場所で立ち尽くす俺たちも実は目立っている。
隠れ里の民たちが一緒だからね。
「おい、エルフだぜ」
「ウソだろ? なんでこんな所に来るんだよ」
「冒険者だからに決まってるだろ。前にニュースで見たぞ」
「あのちっこくてヒゲもじゃなのはドワーフじゃね?」
「本物だあ」
「リアルエルフとかマジ初めてなんですけどぉ」
「スゲえよ。この目で見られる日が来るなんて奇跡だ」
「お前はいつも大袈裟なんだよ。レアなのは事実だけど」
やたら目立ってしょうがない。
不幸中の幸いと言うべきか群がってくることだけはなかったが。
土地柄なのか冒険者全体の気風なのかは判然としないけれど、サービスエリアでの悪夢が繰り返されないのであれば僥倖である。
「さっさと受付を済ませてしまおうか」
俺がそう言うと各チームの代表が受付に並びにいった。
それに合わせてホールにいた冒険者たちがササッと避けてくれたんだけど、自分たちの受付を済ませなくていいのだろうか。
まあ、俺も人のことは言えないんだが。
そんな訳でいくつかある列のひとつに並ぶ。
大阪組の相手は英花に任せよう。
真利はコソコソと英花の背後に回り込んでいる。
大勢から耳目を集めてしまうのは俺以上に忌避しているからなぁ。
そんなこんなで待つこと十数分。
並んだ割に短い時間でダンジョンの入場登録が完了した。
このお台場ダンジョンは地下型ダンジョンの中では日本最大と言われているため受付の数はいくつもあるし職員の手際もいい。
さほど待たされることがなかったのも納得だ。
受付が終わった後のホールは静まりかえっていた。
隠れ里の民たちは各チームごとに先にダンジョンへ向かったので人も俺たちが来る前と変わらない程度にまで減っている。
元からいた冒険者たちは何故か受付をしようとかダンジョンに潜ろうという動きが見られない。
何しに来たんだ?
「アレ、暇やからおるだけですわ」
俺の疑問が視線や態度から読み取れたのか大阪組の1人が教えてくれた。
「暇って……」
「休養日ですわ。毎日はさすがに潜ってられへんやないですか」
「だったら休みの日らしいことをすれば良いではないか」
呆れた様子で英花が言うと大阪組の面々が苦笑する。
「そら無理でっせ」
「つい冒険者組合の事務所に来てしまう気持ちは俺らもわかりますわ」
「せや、ワイらもアレはやってしまいますねん」
そういや大阪遠征の時も度々そういう光景を目の当たりにしてきたな。
「無駄以外の何ものでもないだろう」
「それは重々わかってますねん」
「せやけど、やめられまへんのや」
「やめられない止まらないちゅうてな」
アハハと笑う大阪組。
サッパリ意味がわからない。
「ホンマにわかりまへんか?」
「わからんな。涼成はどうだ?」
英花に問われたが俺もわからないので頭を振った。
大阪組は「マジか」という顔で苦笑している。
「ホンマ魔王様はダンジョンホリックですなぁ」
「なんだ、それは?」
英花は眉間にシワを寄せて問いかけているが、あれは大阪組が口にした単語に嫌な予感を感じているせいだな。
「いや、そんな怒らんといてくださいよ」
「それはお前たちの返答しだいだ」
「よせよせ、そんな風に脅したら答えられなくなるぞ」
「む、それもそうか」
そうして聞き出したところ、ダンジョンホリックとはまんま言葉通りの意味だった。
酷い言い方をするならダンジョン狂、マシな方だとダンジョンマニアとかになるだろうか。
案の定、英花がまなじりを釣り上げたものの、どうにか止めることができた。
「いつまでも油を売っている訳にもいかないからな。行こうぜ」
「仕方あるまい。お前たち、今日はビシバシ鍛えてやるから覚悟しておくのだな」
鼻息も荒く宣言する英花に大阪組が震え上がっていた。
余計なことを言うからだよ。
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「ほらほら、カバーが遅い!」
英花が大阪組の戦闘を観戦しながら叱咤している。
「そんなことでは魔物が数で襲いかかってきたときに対処できんぞ」
言ってることは正しいのだけど、今の状況でその動きを求めるのは過剰な要求と言わざるを得ない。
大阪組はすでに目一杯のスピードで動いていたからね。
「無茶言うなよ。あれでも頑張ってる方だ」
「余力を残さないと帰りがつらいよ」
俺だけでなく真利からもたしなめられる英花。
「むう……。前よりも成長しているのがうかがえたから、ついな」
英花の言うように大阪組も強くはなっていた。
俺たちの真似をして遠征攻略する気になっただけのことはあるのだが、レベル20には到達していないだろう。
比較的、難易度が高いと言われるお台場ダンジョンで無茶をすれば危険な状況に追い込まれるのは想像に難くない。
「奥の方まで来ているんだから無理は禁物だって」
「今の状態だと単独チームでは帰れないよ」
「くっ、そうだな……」
とりあえず、まだ仕留め切れていない魔物は俺たちで片付けた。
「瞬殺とかマジかいな……」
「あのタフなメガワームが剣鉈でいとも簡単に?」
「どないなっとるんや」
「夢でも見とるんかちゅう気になってきたわ」
「そんな訳ないだろ。要は血の巡りを絶てばいいんだ」
そのためには突き刺すよりも血管を裂くように切るのがいい。
「ウナギをさばくようなつもりでやるのがコツかな」
「「「「「なんスか、それ!?」」」」」
「奴らは図体がデカいだけあって血管も太いんだよ。だから血を流しやすい」
「そうは思えんのですけど」
それはメガワームを傷つけても血を流すところをあまり見ないからだろう。
「奴らだって自分の弱点の自覚はあるさ。血管が傷つけば止血くらいはするぞ」
筋肉の塊な上に自在にコントロールできるため止血などはお手の物なのだ。
「そういや魔王様たちが仕留めたメガワームはめっちゃ血ぃ流しとった気がするわ」
「せやったか?」
「そんな気もするけど、どやろなぁ」
「しゃーない。魔物は倒したらドロップアイテムに化けてしまうよってわかりづらいし」
手本はもう少し見せるべきかもしれないな。
「とにかくメガワームは血管を縦に裂くようなイメージで攻撃するのがセオリーだ」
「それ、難しないですか。血管なんて見えませんやん」
すかさずツッコミが入った。
「だからイメージでと言ったんだ」
「はあ」
よくわからないと首をかしげている。
「多少斜めになっても構わないから奴らの体に沿うように切ってやればいいんだよ」
「そうか。俺らは輪切りにするつもりで切り刻もうとしてたけど、そんなことせんでええんや」
「今までのやり方は止血しやすい切り方になっとったちゅう訳かいな」
「正解だ」
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