表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/380

147 魔法実技で課題が見つかる?

 統合自衛軍の兵士たちが魔法の実技試験を行うための準備に慌ただしく奔走していた。

 筆記試験の採点と片付けはすでに終わっている。

 準備に並行して免許証の発行も行われているようだ。


「ねえ、涼ちゃん。魔法の試験がまだなのに免許証が発行されるのって変じゃない?」


「車の免許だって色々と種別があるんだし別に変ではないだろう」


 特に最近の免許は記載がシンプルで詳細情報は電子情報を読み取る形式になりつつあるからね。

 自動車に比べれば冒険者免許はシンプルなものだけど。


「あー、冒険者で先に発行して魔法は後から追記するのかー」


 そういえば俺たちの免許区分も特級に更新されたんだよな。

 次の定期更新まで待つ必要があるものだとばかり思っていたのだけど違うようだ。


「君らの免許が更新されることになった」


 遠藤大尉にそう告げられた時には何のことやらサッパリわからなかったけれど。


「は? 冒険者免許の更新はまだ先のことだと思うんですが」


「俺たちが推薦して申請が通ったんだよ」


「いや、勝手にそんなことされても困るんですけど」


「なんだ。特級になるのは不満か」


「いきなり更新とだけ言われて訳がわからなかったんですが、そういうことですか」


「おー、スマンスマン」


 悪びれた様子もなく遠藤大尉は軽い調子で詫びていたな。


「そんな簡単に推薦しても良いものなのか?」


 英花が訝しさを隠さずに問うていた。


「簡単? そんな訳ないだろ。君らの実力を目の前で見て判断したからな」


 目の前で見たというのは名古屋に呼び出された時のことか。

 あんなので特級へ昇級する条件を満たすとは想定外もいいところだ。

 さらに詳しく話を聞くと推薦の条件は試験官の資格を持つ統合自衛軍兵士に相応の実力を見せるというアバウトなものだった。


 それってどうなんだろうと思ったのは言うまでもない。

 まあ、遠藤大尉のチームは民間人の堂島氏以外は全員が資格所持者ということなので3人が推薦したということで信用度は高かったそうだけど。

 おかげで物言いがつくことなく俺たちの特級への昇級が認可されたのだとか。


 これ、不正がどうのとか言われそうな気がするな。

 異例のスピード昇級だし特級免許所持者なんて数えるほどしかいないからね。

 しかも推薦者の遠藤大尉たちとは顔見知りとしては親しい方だし。

 面倒事にならなきゃいいけど。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 魔法の実技試験が始まった。

 離れた標的に向けて攻撃魔法を放つだけの簡単な試験だ。

 支援系の魔法なんかは目に見える結果につながりにくいから最初から考慮されていない。

 支援魔法しか使えないなんて人がいた場合はどうするんだろうとは思うけど、それを考えるのは試験を主催する側であって俺じゃない。


「それにしても風の魔法ばかり使っているな」


「そうですね。炎の魔法の方が使いやすいとばかり思っていたのですが」


「俺からすれば魔法を使えるだけで尊敬に値するよ」


「氷室はん、そない難しもんとちゃいまっせ。ワイも風の魔法はまだ発動させられませんけど」


 遠藤大尉たちが隠れ里の民たちの試験を見学しながら喋っているなと思っていたら……


「張井、なんかコツでもあるのか?」


 遠藤大尉が割と切実に見える目をして聞いてきた。


「肝心なのはイメージだと思うんですけどね」


「皆そう言うんだよなぁ。それで上手くいった試しがないんだよ」


「右に同じですな」


 どうやら遠藤大尉と氷室准尉は未だに魔法が使えないようだ。

 アニメ好きな大尉ならイメージの構築も容易いと思ったんだけど何がダメなんだろうな。

 こういうのが苦手そうだと思っていた大川曹長は早々に魔法が使えるようになっていたというし、まるでわからん。

 そんな訳でこれ以上は聞かれても答えようがない。


 今日の試験の具合を見ていると隠れ里の民たちに指導の依頼が来そうな気がする。

 統合自衛軍も今よりも魔法が使える兵士が増えれば戦力の拡充になるだろうし。

 ジェイドたちが受けるかどうかはわからんけど成果を上げることはできないんじゃないだろうか。


「適性とかあるんじゃないでしょうか」


 不意に大川曹長がそんなことを言い出した。


 英花の方をチラ見する。

 向こうも同じことを考えていたようで目線が合い、そんなはずはないという意見で一致した。


「炎以外の魔法は私も使えませんし」


 もっともらしいことを言ってくれるので、こっちまで信じそうになってしまうじゃないか。


「大川ぁ、絶望的なことを言わないでくれよぉ」


 氷室准尉が泣きそうな顔で泣き言を言う。


「知りませんよ。使えないならしょうがないじゃないですか」


「そういうことは使えない奴に言うなぁ」


「氷室はん、まだ諦めてへんかったんですか」


「その割には魔法の訓練の時だけはやる気が見られませんよね」


「そこは見通しも立たない状況に諦めつつあるからやる気が出ないが完全に諦めることもできないといったところじゃないか」


「ぐっ」


 遠藤大尉の見立てが正解だったようで氷室准尉が短くうなって撃沈した。


「遠藤はんはどうなんです?」


「魔法が使えないことが確定するまでは訓練を続けるさ。ここまで訓練を続けてダメだったから無理だとは思うがな」


 氷室准尉より若いのに達観しているな。

 一方で准尉は絶望的な表情で落ち込んでいる。

 そんなに魔法が使いたいのか。


「せめて真面目に訓練すべきじゃないですか」


 黙っていられなくて思わず口出ししてしまった。


「本気なら越えられる壁もやる気がなければ越えられやしませんよ」


 心の何処かで無理だと思っていると、目標が達成できなかったりするものだ。

 ……そうか。もしかすると魔法が使えないという自己暗示がかかった状態なのかもしれない。

 どんなにイメージを強くしようと無意識にそれを否定しているのだとすれば、いつまでたっても氷室准尉は魔法を使えないだろう。

 特に今の諦めかけている状態では、どう引っくり返っても魔法の習得は不可能だ。


 それなら遠藤大尉の方がまだ可能性がある。

 今のところは自己暗示の方が強いようだけど。

 そういう意味では大川曹長が炎以外の魔法を使えないのも似たような理由かもしれない。

 無意識下で自分にはこれしか使えないと思い込んでいるのだとしたら。


 まあ、それを確かめる術はないので諦めずに頑張れとしか言えない。

 言っても氷室准尉が復活するとは思えないのが現状だ。

 現に俺の言葉は届いているのかいないのか落ち込んだままだからね。

 これ以上は何を言っても無駄な気がする。

 時間が解決してくれることもあるだろうと思うことにしよう。


「それにしても進みまへんなぁ」


「全員、標的を破壊していますからね。交換に時間が費やされると遅くなりますよ」


 大川曹長が言う通りの状況だが、しょうがない。

 風の魔法は炎と違って目視で確認しづらいために的を破壊する必要がある。

 加減して傷つける程度にすれば的の交換も何回かに1回ですむかもしれないが、そこまで要求するのは酷というものだろう。

 隠れ里の民たちには加減の仕方を教えていないからね。

 加減をミスって魔法が的に届きませんでしたとなるんじゃ意味がないし。


 何にせよ隠れ里の民たちの課題が明らかになった訳だ。

 試験が終わったら対応しないとね。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ