103 遠征ふたたび・名古屋で再会なんだけど
呼び出された冒険者組合名古屋支部に到着した。
駐車場にキャンピングカーを止めたのだが近くに人の気配がする。
「待ち構えていたのかよ」
「ああ、遠藤たちのチームだ」
「わざわざお出迎えとはね」
とりあえず車を降りるしかないだろう。
こんな所で籠城したって意味がない。
「よお、諸君。久しぶりだな。ようこそ名古屋支部へ」
降りるなり遠藤大尉からにこやかな笑みとともに歓迎の挨拶を受けた。
「どうも」
「そんなことより我々を呼び出した用件は何だ」
「おいおい、皆そろって御機嫌ななめだな」
そりゃそうだろう。
これから仕事の依頼をされるのがわかっているのに事前情報が皆無なのだ。
にこやかな応対を求める方がどうかしている。
「すまんな。情報が拡散されると困るんだよ」
「困るのではなく、あってはならないのです」
遠藤大尉の言葉を大川曹長が訂正した。
見れば堂島氏の顔色がよろしくない。
「そんなにヤバい事案で?」
「ぶっちゃけると救出ミッションになると思う」
「思うって何ですか。それにこんな場所で話して大丈夫なんですかね」
「こういう場所だから盗み聞きされないんだよ」
苦笑しながらそう言った遠藤大尉だが一理ある。
室内だとあの手この手で盗聴器が仕掛けられていることがあるからね。
こういう開けた場所でも高感度マイクを使われるとアウトだけど、そこは気配感知スキルで確認するから大丈夫ということなんだろう。
現に周りには誰もいない。
「で、救出ミッションですか。何事です?」
「昨日、15才の少年がダンジョンに強行突入した」
「はあっ!?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
どう考えてもあり得ない事態だ。
ダンジョンの入り口は駅の自動改札のような感じになっており冒険者免許の情報を読み取って通行可能になる。
まあ、これだけだと飛び越えてしまえば通過できるのだが統合自衛軍の兵士が門番のように張り番をしているので侵入しようとすると止められる。
もちろん実力行使でだ。
そういう事例がニュースとなって度々報告されているが、すべて取り押さえられている。
張り番をしている兵士もダンジョンに潜っているし厳しい訓練も受けている訳で冒険者免許を持たない少年が突破するなど普通は考えられない。
「密かにフィールドダンジョンで鍛えた口か」
英花が渋い顔をさせながら言った。
「君らのようにな」
ニヤッと遠藤大尉が笑みを浮かべる。
「何のことだか」
もちろん空とぼけたけどね。
公然の秘密みたいな状態だとしても認めてしまえば秘密ではなくなってしまう。
遠藤大尉はそこに引き込むことで俺たちの実力を喧伝しようという腹づもりなんだろう。
それがわかっているから英花も噛みつかんばかりにイライラしている。
表情は変えないままだけど微妙に漏れ出ている殺気がその証拠だ。
「おっと、怖い怖い」
「本題に戻りましょうか。それと俺たちのことを世に知らしめようというなら敵と見なしますので悪しからず」
そう言うと遠藤大尉はおどけた雰囲気を霧散させた。
「わかった。君らを敵にするのは大きな損失だ。そうならないように努めよう」
やけにあっさりと引いたな。
こちらの実力がそれだけ評価されているのかもしれないが、そう判断されるほどのものを見せた覚えはない。
いや、大阪での活動が報告されている恐れがあるんだっけ。
遠藤大尉が俺たちの思っている以上に買っていることからすると間違いなさそうだ。
窓口の面々が張り切って自主的に報告を上げたんだろうな。
ありがた迷惑な話である。
どうして、そっとしておいてくれないのだろう。
……梅田ダンジョンに潜った初日にやり過ぎたのが原因か。
自業自得じゃどうしようもない。
「地元の部隊が送り込まれたんだが俺たちへの救援要請もあってな」
言いながら遠藤大尉は大川曹長の方を見た。
どうやら細かな説明は任せるみたいだね。
「状況は思わしくないそうです」
大川曹長が説明を引き継いだ。
それによると、少年は1人で名古屋ダンジョンに強行突入。
その際に止めようとした統合自衛軍の兵士2名を返り討ちにして昏倒させたという。
すぐに保護のために追跡チームが組まれたが現在も保護には至らず。
追いついた追跡チームも、やはり昏倒させられたという。
「色々と信じ難い話だな。ソロで自衛軍のチームを無傷で昏倒させるなど」
英花が不信感丸出しの顔で感想を述べる。
「俺もそう思うぜ」
それまで黙っていた氷室准尉が同意した。
「そうは思うが現実なんだよなぁ。追跡チームは保護が目的だから手荒な真似ができないんだろうさ」
「なるほど。手加減しなければならないとなると条件は少年の方に有利になるか」
「だとしても殺さず昏倒させるには技術が必要だぞ。たとえ相手は本気になれない状況だろうと訓練を受けている兵士を無力化するなど荒唐無稽もいいところじゃねえか」
素直に受け入れた英花に対して氷室准尉は懐疑的な目を向けている。
自分で言っておいてそれはないだろうよ。
「プラスアルファがあるということか」
「そういうことだな」
氷室准尉が肩をすくめ話を続ける。
「大川は不要な情報として言わなかったが」
そこで一旦区切って大川曹長の方を見る。
「すみません。それは失念していました」
素直に謝る大川曹長だが、どこか芝居くさく感じる。
氷室准尉も妙な間を取ってくるあたり俺たちの動揺を誘おうとしているのかもしれない。
なんだか怪しいな。
『英花、真利、これわざとだぞ。何か俺たちしか知らないような情報をぶっ込んでくるかもしれん』
『わかった』
『えー、勘弁してよー』
「少年が突入時に奇妙なことを口走ったそうだ」
「奇妙なこと?」
それが何の関係があるのかと言わんばかりに怪訝な表情をする英花。
「僕は英雄なんだ、だそうだ」
「「「英雄!?」」」
思わず俺たちは顔を見合わせてしまう。
よりにもよって、それかよ。
「なんだ? 何か知っているのか、お前ら」
待ってましたとばかりに聞いてくる氷室准尉。
「知っているというか、アレでしょ」
「うむ。まごうことなきアレだな」
「アレだよね」
3人で「アレ」を強調する。
「アレって何だ?」
氷室准尉が前のめりになって聞いてくる。
大川曹長も緊張した面持ちだ。
遠藤大尉はポーカーフェイスを保っているものの微妙にそわそわしている。
自分は無関係ですと興味なさげなのは堂島氏だけだ。
「何だって言われても、ねえ」
真利の方を見る。
「本人を前にして言っちゃうのはどうかなって」
真利が英花を見た。
そのことで氷室准尉たちがいっせいに英花の方を見た。
「私ではないな」
英花が俺の方を見る。
向こうの視線が俺の方へ移ってきたのに合わせて俺たちは堂島氏へ視線を集中させた。
「えっ、なんで俺やねん」
堂島氏がわたわたしながら泡を食っている。
「いやいや、英雄なんてどう考えても堂島さんの御同類でしょう」
「なんでやねん!?」
ものの見事にツッコミを入れられた。
本場のそれを何度も見てきたからこそ絶妙のタイミングとわかる。
まあ、それは俺たちが求めていたことのおまけでしかないが。
「だって、フレイムマンなんてヒーローの真似事してるじゃないですか」
「ヒーローオタク……」
真利がボソッと呟く。
「ぐっ」
反論できずに呻くしかできない堂島氏である。
「それに無謀な突入をした点でも類似していると言わざるを得ない」
英花が堂島氏がフレイムマンとして守護者の間に突入した件を指摘してダメ押しをする。
「うわあっ、それは言わんといてえな!」
恥ずべき過去を掘り返されて身もだえる堂島氏には同情するが、恨むならこちらに探りを入れてきた氷室准尉に矛先を向けてくれ。
「こういうの、一部じゃ黒歴史な呼び方をするんだよね」
英花と真利の方を見てタイミングを合わせる。
せえの──
「「「厨二病!」」」
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。




