素晴らしい機能
どうやら、僕の考えは甘かったらしい。
芽衣ちゃんの悪い予感は当たってしまった。
「やあ! どうも」
飛行艇から《はくげい》の甲板に乗り移ってきた矢部の姿を見て、僕達は一瞬凍り付いた。
骨折がなんで、こんなに早く治るんだよ!
未来の医学進みすぎだぞ!
「やあ……矢部君。もう怪我は治ったのだね? いやあ、良かった、良かった」
「隊長。なんかセリフが、棒読みのようですが……」
「それは気のせいだよ。後遺症じゃないのかな。ははは……」
「いや、頭を打ったわけではないので、そういう後遺症は考えられないのでは……ていうか、俺はまだ完治していないし」
「完治していないって? 普通に、歩いているじゃないか」
「いや、この両足はロボット義足ですから」
「義足だったのか?」
「移植用の足はいつでもプリンターで作れるのですが、接合手術に必要なナノマシンが足りないのですよ。」
ナノマシンが足りないと言うより、それを作るのに必要なレアメタルが足りないのだろうな。
「現在は俺に限らず、ナノマシン不足のために治療を見合わせている人がかなりいます。貴重なナノマシンは緊急性の高い患者優先で回されていて、俺みたいに義足で代用できる者は後回しですよ」
そういう状況だったのか。こりゃあ迂闊に怪我なんかできないな。
「ところで、その義足でロボットスーツを着用できるのかい?」
「それは問題ありません。リトル東京でテストしましたが、まったく問題ありませんでした。それに、ロボットスーツが無くても、この義足だけでかなりの運動能力があります」
そう言ってから、矢部はジャンプして司令塔の上に飛び乗った。
「高いビルは無理ですが、潜水艦の司令塔でも一っ飛びです」
それは凄いが、こいつにこんな運動能力を持たせて大丈夫だろうか?
その運動能力を良いことに使うならいいが、矢部ならセクハラに使いまくるような気がする。
矢部は再び僕の正面に飛び降りてきた。
「また、この義足にはAIが内蔵されていて、寂しいときには話し相手になってくれます」
「そうかそうか」
あんまし、意味の無い機能だな。
「ただ、このAIには困った事がありまして」
困った事?
「例えばですね」
矢部は、橋本晶の方へ視線を向けた。
それに気がついた途端、彼女は日本刀を抜いて構える。
「矢部さん。私から半径三メートル以内に近づいたら、どうなるか分かっていますね」
矢部は視線を変える。
その先にいるのは芽衣ちゃん。
矢部に見つめられて、芽衣ちゃんは青ざめる。
「な……なんですか! 矢部さん! その目は……」
次の瞬間、矢部は一瞬で芽衣ちゃんとの間合いを詰める。
「ひ!」
芽衣ちゃんの顔が恐怖に引きつる。
矢部の右手が芽衣ちゃんの尻に近づいたその時。
「うぎゃあああ!」
矢部は悲鳴を上げて甲板上で倒れた。
「え?」
甲板上に倒れてピクピクと痙攣している矢部の様子を、芽衣ちゃんは怪訝な表情で見つめる。
「矢部さん……どうされたのですか?」
「いや、俺がこのように女性と親睦を深めようとすると……」
女性と親睦を深める…………×
セクシャルハラスメント……◯
「この義足が、俺に電撃をかけてくるのですよ。まったく、余計な機能を付けてくれたものです」
いや、それは素晴らしい機能だ。
「北村さん」
芽衣ちゃんが目を輝かせる。
「この義足、ルスラン・クラスノフ博士にも付けてみては」
「おお! それは名案だ」
ちょうどその時、司令塔から出てきたジジイに僕は顔を向けた。
「というわけでジジイ。ちょっと、足を怪我してみないか。手でもいいぞ」
「誰がするか! そんな事!」
「いやいや、そう言わずに。老化して衰えた手足が甦るぞ」
「わしは確かに歳を取ったが、まだまだ若造には負けぬぞ」
いや、勝ち負けはどうでもいいんだ。
ジジイのセクハラ行為を防止できれば……
「そんな事よりおまえら、さっそく例の物が見つかったぞ」
「例の物?」
「レム神……いや、プラートフのコンピューター船じゃ」
あ! そういえば、それをジジイに探させていたんだったっけ。
僕達は艦内に入っていった。




