計画の第一段階(レム・ベルキナの事情)
プラートフは、レム・ベルキナの身体を奪った後、ルスラン・クラスノフ博士から脳間通信機構のデータを盗み出し、それとレムの知識と合わせてブレインレターを開発した。
その後、彼は自分がプラートフ大統領であった時の仲間十二名を、かつてプラートフが密かに建設していた別荘に集めて、人類統合計画について語り協力するように求めたのである。
その時、考えに賛同した仲間の一人が言った。
「プラートフ閣下。精神を統合した結果、我々は神になるというのですか?」
「その通りだよ。我々は新たな世界の神となるのだ。神の名はプラートフ神で……」
「それは、ちょっとやめた方が……」
「なぜかね? 私の計画に反対なのかね?」
「いえいえ……計画そのものは素晴らしいと思います。ただ、計画を実行するには、より多くの協力者が必要となります。その時に、閣下のお名前を前面に出すのは……ちょっと……」
歯切れの悪い言い方だが、彼が何を言わんとしているかをプラートフは理解した。
すでにエゴサーチによって、自分が世間から忌み嫌われている存在である事は理解していたのだ。
「なるほど、私の悪名を失念していたよ。では、こういうのはどうだ? せっかく新しい身体が手に入ったことだ。今後も私はこの身体の元の持ち主であるレム・ベルキナの名前で行動し、神の名前もレム神にするというのはどうだろう」
「素晴らしいお考えです、閣下」
「では、諸君。他に異論はないかな?」
誰も口を挟まなかった。
いや、挟めなかったのだ。
ここに集められた者達のほとんどは、死んだはずのプラートフからの招待状を受け取り、半信半疑でやってきた者達。
ただの悪戯だと思ってもいたが、招待状にはプラートフしか知らないはずの情報が記されていたため、真偽確認のためにやってきたのだ。
悪戯である事を確認して安心できたら帰る程度のつもりであったのに、来てみたらプラートフは本物でありとんでもない計画を打ち明けられた。
ここにいるプラートフが本物であるなら、彼の計画に反対する者を生かしておくはずはないという事は、ここにいる者はみんな分かっていた。
だから、誰も異論など挟まなかったが、ほとんどの者達はここを出た後で逃亡するなり、当局に通報するなりしようと考えていた。
だが、その程度の事はプラートフも予測していた。
「では諸君、話もまとまった事だ。ここで、計画の第一段階を実行しようと思う」
「計画の第一段階?」「何をなされるのですか?」
「人類統合の第一段階として、ここにいる十二名を統合するのだ」
その途端、室内はざわついた。
「な?」「いや……それは」
「どうかしたのかね? 諸君」
「いえ……その……まだ心の準備が……」「今日は一度帰って、後日改めて……」
「そんな必要はあるまい。君達は私の計画に賛同してくれたのだろう。ならば、ここで私と統合しても、何も問題はなかろう」
そうしている間に、こっそりと部屋から逃げ出そうとする者がいた。
だが、プラートフはここからは一人も逃がす気はなかったのだ。
「うわわわ!」
突然悲鳴が上がったのは、部屋の出入り口付近。
部屋からこっそり出ようとしていた男の上げた声だった。
見ると彼は、無数の虫に身体が覆われていたのだ。
「閣下! これはいったい?」
仲間の一人がそれを指差す。
それに対して、プラートフはニヤリと笑みを浮かべて言った。
「心配するな。あれは虫ではない。蟻ほどの大きさのマイクロマシンだよ」
「マイクロマシン? しかし、なんのために……?」
「これは私が、レム・ベルキナの知識を使って開発したブレインレターという装置だ。あのマイクロマシンを使って身体中の神経から情報を送り込み、知識を強制的に学習させるのだよ。だが、その他にも、脳の眠っている機能を目覚めさせる事ができる」
「眠っている機能? なんですかそれは?」
「脳間通信と言って、他人の脳とリンクできる機能だ。彼はこの処置が終わった後、私とリンクするようになるのだ」
「閣下とリンク……そ……それは、光栄のいたり……」
そう言いつつ、一人の男はこっそりと窓に近づいて行った。
その手には、ポケットに忍ばせてあった脱出用のワイヤーを握りしめている。
しかし、プラートフは窓からの逃亡を許す事はなかった。
「うわああ!」
二つ目の悲鳴を上げたのは、今まさに窓の桟に手をかけている男だった。
一人目の男と同様に、その男も身体中が無数のマイクロマシンに覆い尽くされていた。
残された十人が、同じ運命をたどるのにさほど時間はかからなかった。




