リミッターはなんのために?(レム・ベルキナの事情)
仮想空間内での作業は、一時間ほどで終了した。
疑似人格の中にあった余計なデータはすべて削除したが、必要なデータはすべて残せた。
「先生。ありがとうございます。作業は無事終了しました」
『どういたしまして。ところでベルキナ君。作業中に訃報が入ったのだけど』
「え? 誰かお亡くなりになったのですか?」
『その疑似人格の元となった人。プラートフさんよ』
「え? なんでまた?」
『誤嚥性肺炎だったそうよ。亡くなる前に認知症になっていたそうだけど、君と会った時は普通に会話できたのでしょう?』
「ええ……まあ……」
『ひょっとして、ブレインスキャナーをかけた後でおかしくなったのかしら?』
レムは内心ギクッとした。リミッターを外した事は、まだ話していないのである。
「え? あ! そうですけど……決してリミッターを外したわけでは……」
『え? リミッターがどうしたの?』
「あ! いえ……その……」
『ああ! 勘違いしていたようね。ブレインスキャナーにリミッターをかけていたのに、廃人になったので』
「え? 勘違い?」
『ブレインスキャナーのリミッターは、廃人になるのを防止するためのものじゃないのよ。リミッターがあろうがなかろうが、被験者のうち一万人に一人は廃人になるわ』
「そ……それじゃあ……リミッターは何のために?」
『一言で言うと、増殖防止』
「増殖? 何が?」
『これは一部の人しか知らないのだけど、ブレインスキャナーを開発した初期に、疑似人格がコンピューター内で勝手に増殖するような事があったのよ。例えて言うなら、映画『マトリクス』のエージェント・スミスのように。まあ、あんなに早くは増殖しないけどね』
「増殖した後、何か問題はあったのですか?」
『他のコンピューターに勝手に入り込んだり、ひどい時はBMIを通じて人の脳に入る事も』
「人の脳に?」
『ええ、初期の話だけどね。すぐに対策したわ。スキャナーで人間から記憶を吸い上げる時に、脳の一部からはデータを吸い上げないようにリミッターを設けたの。それで増殖は起こらなくなったわ』
「ちなみに、増殖速度はどのくらいですか?」
『二週間で二倍くらいね』
その時点でプラートフの疑似人格を作ってから、三週間は経過していた。
「なぜ? それを黙っていたのですか?」
『最初に教えたはずだけど、忘れていたかな?』
言われて気が付いた。
確かに教授の研究室に入った時に、そんな事を聞かされていた事に……
『リミッターさえ外さなければ何も問題はないし、そんな事をする人は誰もいないでしょ』
自分がやってしまったとは言えず、レムは通信を切った。
疑似人格を休止状態にしてから、自分はBMIを接続した。
しかし、コンピューターの中に休止状態にない疑似人格がいるとしたら……




