恩師からの助言(レム・ベルキナの事情)
『どうなのだね? なぜ、脳間通信機構による人類統合を諦めたのだね?』
疑似人格に声をかけられ、レムは考えごとを中断した。
「それでは……脳間通信を使って統合しても上手くいかない。それが分かったからやめたんだ」
説明するのも面倒くさくなって、レムは疑似人格からの質問に曖昧な返答を返した。
『なぜだ? 私はいいと思ったのだがな』
その質問には答えず、レムは疑似人格との会話を切った。
しばしの間考えた後、レムは日本にいる恩師に助言を求めた。
スマホ画面に現れた初老の女性は上品な笑みを浮かべ、レムに話しかけてきた。
『久しぶりね。ベルキナ君。元気だったかしら?』
この女性こそ、ブレインスキャナーを開発した田崎教授。レムは数年前まで、彼女の研究室に所属していた。
田崎教授はしばらくの間、レムの話に耳を傾けていた。
『自分が仮想現実の中にいると、疑似人格に気付かれてしまったというのね?』
「まあ、そんなところです」
『なんでそんな事になったの?』
「いやあ、うっかり口をすべらせて……」
『うっかり者ね。それで君はどうしたいの? 疑似人格を全削除して一から作り直すというのなら、わざわざ私に連絡を寄越したりはしないわよね?』
「おっしゃる通りです。僕が疑似人格に聞かせた記憶と、インターネットによって得た知識の削除。それらによって生じた変化の修正をしたいのです」
『分かったわ。それとこの事は、内密にしてほしいのよね?』
「えっと……それは……そうしてもらえると、助かるのですが……」
『分かっているわよ。君は『うっかり口をすべらせて』と言っていたけど、本当はプラートフに復讐したかったのでしょ?』
「……」
『大丈夫よ。君を咎める気はないし、私にそんな資格はないわ。愛する者を失った悲しみは、私にも分かる』
「先生……」
『ただ、これだけは覚えておいてね。君のやった事で、迷惑を被る人もいるという事も。私も昔やらかしてね。大勢の人に、迷惑をかけてしまった事があるのよ』
「分かっています。正直……後悔していますよ」
『分かれば良いわ。それじゃあ、ちゃっちゃっとやっちゃいましょう。まず、問題の疑似人格をスリープ状態にして』
レムは言われた通り、プラートフの疑似人格をスリープ状態にする操作を行った。
疑似人格の活動は完全に停止する。
「先生。疑似人格は活動停止しました」
『そのコンピューターに、BMIはあるかしら?』
「はい。あります」
『では、君が直接仮想空間の中に入りなさい』
レムは指示に従い、BMIを使って自分の脳とコンピューターを接続する。
仮想空間の中に入ったレムは、教授の指示に従いながら作業を始めた。




