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モニターに応募したら、系外惑星にきてしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。  作者: 津嶋朋靖
第十七章

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断念した構想(レム・ベルキナの事情)

 その日から、疑似人格を使ったシミュレーションはほとんどうまくいかなくなった。


 仮想空間(バーチャルスペース)を戦争状態にしても、大洪水の中にしても、チンピラに襲われている状態にしても、疑似人格は何もしないで黙って寝転んでいるのだ。


 痺れを切らして、レムは再び疑似人格に話しかけた。


「プラートフさん。何をやっているんですか? なぜ何もしないのです?」

『なぜかって? 決まっているだろう。馬鹿馬鹿しいからだよ』

「馬鹿馬鹿しい? 何が?」

『私は、現実の世界にいると思っていた。だから、今までは一生懸命になって行動していた。しかし、実際に私がいるのは、君の作った仮想現実(バーチャルリアリティ)だというではないか。だったら何をやっても無駄であろう』

「いや、無駄ではないですよ。ここであなたが行動した事はデータとなって、教育システムの構築に……」

『だから、どうしたというのかね?』

「いえ……ですから……教育システムは僕一人で作っているわけではなくて、僕の集めたデータを先方に渡さないと計画が遅延して困るのですよ」

『君が困ったところで、私の知った事ではない』


 レムは押し黙った。確かにプラートフの言う通り、疑似人格がレムに協力する義理はない。


『私は別に、意地悪で言っているのではないのだよ。ただな、これが現実ではないと分かっては、何をやる気も起きないのだ。私に、やる気を起こさせたければ、先日君が私に話した事の記憶を消せば良いことだ』


 プラートフは簡単に言うが、疑似人格の記憶の一部を削除するというのはそんなに簡単な事ではない。


 外部から操作すると、必要な記憶も消えてしまう事の方が多い。


『ああ、そうそう。私がやる気をなくした原因はそれだけじゃないぞ。君は私に、インターネットへの接続を可能にしたな』

「ええ、それが何か?」

『君の言う通り、エゴサーチとやらをやってみたよ』

「どうでした?」

『まいったよ。あそこまで私は、人々から嫌われていたのか』


 レムは『今頃気がついたのかよ』と内心つぶやいた。


『これでも私は、世の中が良くなると思って頑張ってきたのだがな。その努力が、すべて裏目に出てしまっていた。それが分かってしまっては、もう何もやる気が起きない。消すなら、私がインターネットで知った記憶も消してくれ。できないなら私は何もしない』


 状況は最悪だった。


 それなら、今の疑似人格を完全消去して、新たな疑似人格を作り、それを使ってシミュレーションを続けようかとも考えた。


 しかし、それでは計画が大きく遅延する。


 計画の遅延は仕方ないとしても、遅延の原因は人に話さなければならなくなる。


 そうすると自分が、個人的な復讐心から疑似人格をいたぶっていた事も話さなければならない。


 その場合、違約金が発生する恐れがある。


 黙り込んでいるレムに、疑似人格が話しかけてきた。


『ところで私はエゴサーチのほかに、君のことも調べたのだが……』

「ほう。それで、僕に復讐する手でも見つかりましたか?」

『それは無理だったが、興味深い事が分かったよ。君はこの教育システムのプロジェクトに関わる前に、なかなか面白い事をやっていたね』

「面白い事?」

ブレイン()マシン()インターフェイス()と言ったかな? 人の脳と機械を接続する装置の事を』

「そうですよ」

『君はBMIを使って、全人類の脳をネットで接続する「人類統合計画」という壮大な計画を構想していたね?』


 レムは顔をしかめてから答える。


「その計画なら、断念しました」

『そうらしいな。何でもBMIの性能では、無理だという結論になったとか』

「そうですよ」


 レムは不機嫌そうに返事する。


「ひょっとして、これはあなたの復讐ですか? 僕の黒歴史を暴き立てたりなんかして」

『復讐? とんでもない。というか、これは君にとっての黒歴史なのかね? 私は、いい構想だと思ったのだが……』

「黒歴史ですよ」

『そうなのか。正直教育システムのためのシミュレーションなどやる気も起きんが、この計画なら喜んで協力するぞ』

「喜んで協力なんか、しなくてけっこうです!」

『そうなのか? しかし、その後も君は諦め切れないで、ルスラン・クラスノフ博士の脳間通信機構をBMIの代わりに使えないだろうかと、博士を訪ねたそうだね』

「そこまで調べたのですか。しかし、その事はネットニュースにもなっていないし、SNSにも上げていない。どこにそんな情報があったのです?」

『ルスラン・クラスノフ博士の娘が、SNSに上げていたぞ。『凄い美形が父さんを訪ねてきた』とか書いていた。で、脳間通信機構はどうだったのだ?』

「どうって? 脳間通信機構でも駄目だったから、僕は今このプロジェクトに関わっているのですよ」

『物理的に無理だったのではなく、反対派に押しつぶされたのではないのか?』

「どういう事ですか?」

『こんな事は、君一人でできる事ではない。国家……いや国際機関でなければできない事だ。そこで構想を発表したが、誰にも理解してもらえず断念したのではないのか?』


 それはある意味当たっていた。


 ただし、押しつぶされたわけではない。


 その構想を何人かの友人知人に話し、意見を求めた結果、断念したのだ。

 その時、一人の友人が意見を言う前に、『幼年期の終わり』をはじめいくつかのSF作品を紹介してから『僕の意見は、君がそれらに目を通してから聞いて欲しい』と言った。


 それらの作品はどれも、人類を一つの存在に統合するという事が書かれていた。


 レムは言われた通り、それらの小説やアニメに目を通してから友人に意見を求めた。


『君の言う人類統合が、物理的に可能かは分からない。ただ、これをやれば戦争は確かになくなるだろう。他人がいなければ戦争のしようがないからな。しかし、これで人は幸せになれるのか?』


 友人の言いたい事は分かった。


 そしてレムは気がついた。今まで自分は恒久的平和ばかりを追求して、それには人類を統合するべきだと考えていた。


 しかし、それで人が幸せになれるのか?


 他人と意識が繋がり、個というものが無くなった世界。


 それは幸せなのか? という前に、それでは幸せになれる個がいなくなるのではないのか?


 そこにあるのは一つの精神体。


 他人のいない、孤独な世界。


 それは決して、自分が望んでいた理想郷(ユートピア)ではなかった。

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