疑似人格構築(レム・ベルキナの事情)
地球のどこかにある警備厳重な刑務所の一室で、一人の年老いた囚人に対して残忍な処置が行われた。
それは刑罰などではない。人体実験のようなものである。
と言っても、身体を切り刻むような事をしたわけではない。
人の記憶を読み取り電子データ化する機械、ブレインスキャナーにより、老人の記憶を根こそぎ吸い上げたのである。
機械を使う前に老人には、記憶を吸い上げられた後は廃人になると告げてあった。
そのために処置が行われている間、老人は恐怖に震えていた。
処置が終わった後、ブレインスキャナーに縛り付けられたその老人は、虚ろな目をしてただ前方を見つめていた。
「プラートフさん。終わりましたよ」
この処置を執り行った若き脳科学者、レム・ベルキナに声をかけられて老人は振り向く。
声には反応するようだ。
「プラートフさん。ご気分はいかがですか?」
プラートフと呼ばれた老人は、少し考えてから答える。
「お腹が空きました。ご飯はまだですか?」
その後、医師が診察を行い、老人が認知症である事が確認された。
「ベルキナ博士」
助手の一人が、詰問するように問いかける。
「ここまでやる必要があったのですか?」
それに対してレム・ベルキナは、頭をかきながら悪びれもせず答えた。
「まいったなあ。本当に痴呆老人になっちゃったよ」
「『まいったなあ』って! 『ブレインスキャナーのリミッターを外しても、それほど危険はない』って、博士は言ったじゃないですか」
「言ったねえ」
レムは他人事の様に返事をした。
「プラートフには、ちょっと脅しで『廃人になる』と言うだけだって言っていましたよね?」
「そのつもりだったのだけどね。リミッターを外しても、脳に障害が残る可能性は一万人に一人くらいだったのだよ。まさか、こいつがその一人になるとはね」
「どうするのです? これは問題ですよ」
「大丈夫だよ。政府にはブレインスキャナーを使用した場合、脳に障害が残るかもしれないと言った上で、許可をもらっているのだから」
「しかし、政府にはリミッターを外すとは言っていないのですよね?」
「外さないとも言っていない」
助手は黙り込む。これ以上この男に、何を言っても無駄だと思ったからだ。
それに助手にも分かっていた。この男も内心では、元大統領に復讐したいと思っている事を……
こういう結果になる事を、彼は心の奥底で望んでいたのだろう。
それから数日後。レム・ベルキナは、プラートフ元大統領から抽出した記憶データをもとにして、疑似人格を作り上げていた。




