接続者の証明
医者が接続者だって?
いや、待てよ。
ワームホールが開いた時、医者は地下室のドアに開いた穴から室内を覗き込んでいた。
あの位置なら、確かにワームホールを視認できる。
考えてみれば、他にもいろいろと怪しい事があったな。
せっかく生け捕りにした敵兵が、毒薬カプセルで自決した時も『口の中を見たが飴かと思った』と言っていたが、カプセルと飴を見間違えるものだろうか?
いや本当に飴だったとしても、気絶した人間の口内にあれば窒息の危険がある。
まともな医者なら取り除くはず……
「君、何をするんだ? 放しなさい」
医者はカルルから逃れようとしてジタバタするが、カルルも簡単には逃がさない。
「そうは行かないな。あんたを艦内に入れて、中でワームホールを開かれてはたまらないからね」
「何を言っているのだ? 君の言っている意味が分からない。私がワームホールを開くだと?」
「とぼけなさんな。おおかた艦内にワームホールを開いて、船を乗っ取る気だろう」
「いい加減にしたまえ。私は君の命を救ったのだぞ」
「それに関しては、感謝していますよ。レオニート・アダモフ先生」
あの医者、レオニート・アダモフというのか。そう言えば、名前を聞いていなかった。
まあ、聞いてもどうせすぐ忘れるから、聞かなかったけど……
「ニャガン通り七丁目に、大理石作り三階建ての立派な医院をお持ちでしたね。レオニート・アダモフ先生」
「なぜ、私の病院を?」
僕は古淵の方を振り返る。
「古淵。さっき、カルルは風邪をひいて接続者の経営する病院へ行ったと言っていたな。四人の接続者の一人って、医者なのか?」
「医者である事は確かですが、名前と顔は、記憶していませんでした」
と言うことは……
僕はダッシュして、カルルと医者のところへ駆け寄った。
「カルル、代わろう。傷が痛むだろう」
「助かる。さっきから、傷がズキズキするのを堪えていたんだ」
カルルと交代で、僕が医者を押さえつけた。
「君まで何をする? 手を放したまえ」
「先生。手を放してもいいですが、その前にあれを見て下さい」
僕は甲板上に敷設された白いテントを指さした。
「あのテントが、どうした?」
「あの中に入ってもらいます」
「なぜだ?」
「あなたが接続者かどうかを、確認するためですよ」
「だから、接続者とはいったい何の事かね?」
「帝国人は、レムという神様を崇めていますね?」
「だからどうした? 宗教弾圧でもするのかね?」
「いいえ、あなたがただのレム教信者であるなら何も問題ありません。しかし、レム神の声が聞こえるという人がいますね?」
「それがどうした?」
「そういうレム神と繋がりのある人を、我々は『接続者』と呼んでいるのですよ」
「では、私は関係ないな。レム様の声など、聞いた事がない」
「では、あのテントの中に入ってそれを証明して下さい」
「だから、あのテントは何なのだ? あれに入ると、何が起きるのだ?」
「あのテントの素材には、レム神の声を遮断する物質が含まれているのですよ」
正確には、プシトロンパルスを遮る物質なのだが『プシトロンパルスとは何のことかね?』ととぼけられるので、あえて『レム神の声』と言ってみる事にした。
「あなたが、ただの信者ならテントに入っても何も起きません。しかし、接続者ならレム神の声は届かなくなります」
「なるほど、では私は自分からあの中に入ろう。だから、手を放してくれ」
「良いでしょう」
僕は手を放した。
同時に、橋本晶の方を向いて合図を送る。
「さあ、先生。テントに入って下さい。言っておくけど、ここは船の上です。逃げる事はできませんよ」
「ああ。テントでもバンガローでも入ってやるよ。それで私が接続者ではないと証明できるのなら」
医者はテントに向かって歩きだす。
「ところで、この船はどこから中に入るのだね? 見たところ出入り口らしきものが見当たらないのだが」
僕は司令塔を指さした。
「出入り口は、司令塔の上にあります」
「そうか」
医者は不意に立ち止まると、司令塔の上を凝視した。
その視線の先に光る穴……ワームホールが出現する。
おいでなすったか!




