地下からの脱出
イリーナ達が消えた後、ワームホールは跡形もなく消滅した。
「ワームホールは、完全に閉じたのかな?」
僕が何気なく口に出した疑問に、芽衣ちゃんが答える。
「調べるので、ちょっと待っていて下さい」
芽衣ちゃんは、さっきまでワームホールのあったところまで進み出た。
バイザーを開き、周囲を見回す。
「大丈夫です。マーカーは挟まれていません。ワームホールは完全に閉じています」
マーカーって確か、エキゾチック物質の棒の事だよな。
あれを挟んでおくと、ワームホールが完全に閉じる事ができないので、もう一度同じ場所にワームホールを開けるとか聞いたが……
それが無いという事は、もうここにワームホールが開く心配は無いわけか。
接続者が、いなければだが……
カルルの方に視線を向けると、完全に眠っていた。
ここにいる接続者はカルルだけで、それが眠っている限りワームホールが新たに開く心配はない。
「よし! カルルを運び出すぞ」
「隊長。待って下さい」
そう言ったのは、橋本晶。
ベッドの横で、カルルの毛布をまくり上げている。
「カルルさん、出血しています。このまま運びだすのは、危険かと」
仕方ない。
「先生。止血をお願いします」
「うむ。任せなさい」
医者はベッドの横へ行き、止血作業を始めた。
「ところで、今回の診療報酬だが……」
あ! まずい。
「今、君に手持ちがないのは分かっている。君達の基地まで、受け取りに行ってもいいかね?」
「もちろんです」
思わず言っちゃったけどいいよな? 民間人一人 《はくげい》に連れて行っても……
その事を古淵に聞くと……
「母艦に同行するのはかまいませんが、艦内のゲストルームに入るまでは、目隠しさせていただきます。それでもよろしいですか?」
「報酬さえもらえるなら、私はいっこうにかまわないよ。目隠しでもなんでもしてくれ」
止血が終わったのは、それから五分後。
重力制御でカルルの身体を浮かべ、慎重に運びだした。
「カイトさん。お帰りなさい」
ミールの分身体が守っていた地下道の入り口に到着するのに、さらに時間がかかった。
「ミール。《はくげい》の長津田艦長に、伝えて欲しい事がある」
「なんでしょう?」
「プシトロンパルス遮断幕のテントを、用意しておいてほしいと」
「という事は、カルルはすでに接続者に?」
僕は頷いた。
「地下室で突然ワームホールが開いた。カルルはすでに、レム神と接続されていたとしか考えられない」
「ブレインレターは、まだ届いていないと聞いていましたけど……」
「ああ、それなら……」
はっ!
「しまった! ブレインレター壊すの忘れていた!」
僕の叫びを聞いて、タオルで医者に目隠しをしていた古淵の手が止まる。
「いけない。私もコロッと忘れていました」
「まあ、あの状況じゃしょうがない。とにかく、カルルが目を覚まさないうちに出発しよう」
そして僕達は、カルルと医者を連れて飛び立った。




