思わぬ闖入者
直径二メートルほどの輝く穴……ワームホール。
それはイリーナの背後に開いていた。
しかし、イリーナ達はなぜそこから脱出しようとしないのだ?
とにかく、あそこに今ワームホールが開いたという事は、カルルはやはり接続者にされていたという事なのか。
「いったいなんだ? これは……」
ん? 今の声は?
ああ! 地下道で待たせていた医者が、扉に開けた穴から這い出してきている。
入ってくるなって言ったのに……この状況で、非戦闘員が入ってきたらまずいだろ! 空気読めよ!
一方、イリーナの方も医者が入って来たことに気がついたようだ。
「先生。なぜ、ここに?」
ああそっか。もともと、この二人は面識があったのだったな。
「え? いや、私はただ……」
そこで医者は言葉に詰まる。
大方、好奇心で入ってきたのはいいが、今になってまずい状況に気がついて言い分けを考えているのだろう。
「私はただ……診療報酬を、まだ受け取っていないので……」
いや、リアリティがないよ。この状況で普通取り立てにくるか?
まあ、ここで正直に事情を話したら、裏切り者認定されて射殺されかねないからな。
「診療報酬? こ……この状況でえ!?」
イリーナは僕の方を振り向く。
その目は如実に『なんでこんな奴通すんだよ!』と語っているように見えた。
「カイト・キタムラ。この人と話をするから、少しだけ待って。民間人に流れ弾が当たったら、あんただってまずいんでしょ」
どうやら、僕が連れてきたという事は、想像できなかったようだ。
かなり、精神的に混乱しているようだな。
「ど……どうぞ」
「ありがとう。……先生、と……とにかく、今は取り込み中ですので……」
イリーナは懐から革袋を取り出し、医者に投げる。
「今はこれしかありませんので……これでお引き取りを」
医者は革袋を拾い上げて、中身を確認した。
「ふむ、良いでしょう。それじゃあ、私はこれで」
医者は穴から、出ていこうとする。
「む?」
医者の動きが止まった。
その直後、穴から一人の男が這い出してくる。
この男、入り口前で気を失っていた警備兵!
もう目を覚ましたのか。縛っておくべきだった。
男はキョロキョロと室内を見回した後、イリーナの方へ視線を固定する。
「ミハルコフ中尉! 自分を置いていかないで下さい」
「え? 置いていく? そんな事はしないわよ」
「だって……そこから、脱出するのでしょ?」
「え? そこからって……どこから?」
イリーナは振り向く。
「ワームホール! いつの間に……」
今まで、気がついてなかったんかい!
だから脱出しなかったのか。
「なんだか分からないけど、ワームホールさえ開けば、こっちのものよ。あなた達、逃げなさい!」
イリーナの部下達は、次々とワームホールへ駆け込んでいく。
最後に残ったイリーナが、ワームホールに入る寸前に僕の方へ振り返った。
「カイト・キタムラ!」
「覚えといてあげるよ」
「………………」
言いたかった事を先に言われてしまいリアクションに困ったイリーナは、しばらく固まった後……
「わ……分かればいいのよ」
そう言い残してワームホールの向こうへ消えた。




