接続者
やはり、こいつだったのか。
《あすか》から送られて来た映像の中では、小さな木造帆船が波に揺られている。
その木造帆船から発生するプシトロンパルスを、彩雲の観測機器が捉えていた。
あきらかに、接続者が一人この船に乗っている。
当初この船は、多数のドローンを積み込むには小さすぎるので、たまたま近くにいただけの漁船か何かかと思っていた。
だが、ドローンは無理でも接続者一人を乗せるには十分な大きさ。
もちろんこんな小船では遭難リスクが大きいが、レム神は人命に配慮するような奴じゃない。
人間は消耗品としか考えていないのだろうな。
「隊長。拿捕しますか?」
僕は首を横にふった。
「生け捕りにしたいが、無理だろう。その前にレム神は、接続者を自決させる」
「やっかいですね。自決する前に気絶させる事ができれば……私が速攻で峰打ちをするというのはどうでしょう?」
「いや、敵は君の戦い方を知っている。スミレ色のロボットスーツを見た時点で、接続者を自決させるだろう」
「いや、私が姿を見られる前に背後から急襲すれば……」
「最初の一人は倒せるだろう。しかし、船には五人いる。その中の誰が接続者か分からない。最初に倒した者が接続者ではなかった場合、接続者の自決を防げない」
「う……しかし……」
橋本晶は納得しかねているようだが、僕が拿捕に消極的なのは他にも理由があった。
彩雲の観測機で小船に接続者がいる事が分かったが、敵にはこちらに接続者を見つける手段がある事は分かっていない。
今の状況で小船に手を出しても、大した情報は期待できないし接続者に自決されたら何も手に入らない。
それどころか、こちらに接続者を見破る手段があることが分かってしまう。
それならいっその事……
「《あすか》に帰還してから対策を練ろう」
《あすか》に戻った僕は、早速リトル東京と連絡を取った。
程なくして、通信機の画面に眠そうな顔をした森田指令の顔が現れる。
やべ! 眠っているところを起こしちゃったか。
「森田指令。お休み中のところを申し訳ありません」
『いや、かまわんよ。だいたいの事情は聞いた。ドローンに襲撃されたようだな。被害はなかったか?』
「ええ。ドローンは何とか撃退しました」
『そうか。無事でなによりだ。予想はしていたがこちらの情報が漏れていたようだな』
「そのようです。それともう一つ重要な事があります。敵のドローンはワームホールを通ってやってきました」
『ワームホールだと!? そうか。北ベイス島の地下施設の修復が終わったという事だな』
「そうです。それと、ワームホールを誘導した接続者の乗っている船を発見しました」
『ふむ。それで接続者は捕らえたのかね?』
「いえ、まだ手を出していません」
『なぜだ?』
「接続者一人を捕らえても、得られるものは多くありません。それどころか、こちらに接続者を見つける手段があることを敵に知られてしまいます」
『なるほど。しかし、その接続者を放置しても意味はないのではないか?』
僕は首を横にふった。
「もしかすると、レム神のコンピューターセンターを探し出す好機ではないかと思いましたので」
『なに?』
「あまり詳しいことは分かりませんが、プシトロンパルスを観測するには、近くに接続者がいる必要があるのですよね?」
『そうだが……しかし、そこにいるのは接続者一人だけだろう。それだけで、コンピューターセンターを探し出せるのなら我々も苦労はしない』
「確かに。しかし、《あすか》の航路上に接続者を乗せた船が偶然いたとは考えにくいです」
『どういう事だ?』
「つまり、敵はこのあたりの海域に、このような接続者を乗せた小船を多数展開して我々を待ち伏せしていたものと思われます。我々が遭遇したのはその中の一つに過ぎない」
『なるほど。ありうるな』
「そこで、考えたのですが、それらの小船を探し出して、近くに観測装置を搭載したドローンを送り込めば、コンピューターセンターを見つけるのに必要なデータは揃うのではないかと。それを実行するには、今ここで接続者には手を出さない方がいいと判断したのですが」
『うむ』
指令はしばし考え込んだ。
「僕の考えが現実的ではないのなら、今からでも小船を拿捕しますが……」
『いや。君の案は検討に値する。その小船に関しては必要なデータを集めたら、それ以上何もしなくていい。本来の任務に戻ってくれ』
「了解」
十分後、彩雲の観測したデータをリトル東京に送信した後、僕らは再び出発した。




