ガス田
また、雨の音で目を覚ました。
本当に雨季なんだな。
「カイトさん! 大変です」
ミール……また、夜這いに来たか! いや、もう朝だ。
「水車が、壊れちゃいました」
え?
急ごしらえという事もあったが、雨で小川の水位が上がって水車が水没してしまったようだ。幸い、発電機は少し高いところに設置してあったので水没は免れたが、どうするか?
「ご主人様。水車が壊れるまでに、かなりの水素が溜りました。少しならプリンターが動かせます」
「よし。それで動力源作ろう」
しかし、動かせるのは一回だけ。
何を作るか慎重に選ばないと……
商品化されているポータブルの火力発電機は論外。
できれば薪でも燃やして発電できる発電機がいいのだが……。
調べたら、薪で発電するポータブル発電機があったが、スマホ充電用で小さすぎる。
よし!
ここは、自分でデザインしよう。
三次元CADを立ち上げて、既存の蒸気タービンとボイラーのデータの中から良さそうなのをいくつか組み合わせてみた。ボイラーは薪でも紙クズでもなんでも燃やして熱源に利用できるものを選ぶ。出来上がったいくつかのCADデータを電脳空間の中で試験運転。
いくつかは途中で爆発した。
爆発しなくても、ほとんどは蒸気が漏れてしまう。
その中から一番良さそうなのを選び、蒸気が漏れる穴を一つ一つ塞いでいって、完成したのは翌朝の事。
完成してから気が付いたが、ポータブルの水力発電機なんて物もカタログの中にあった。
そっちの方がよかったかなという気もするが、まあいいか。
もう作っちゃったし……
だが……
「ご主人様。燃やせるものがありません」
「なんだって!?」
「このあたりの木々は、雨で湿っちゃって火が付きません」
なんてこった!
こうなったら、ポータブル水力発電機を……
ダメだ。もうバッテリーがない。
「燃えるものなら、ありますよ」
「ミール。どこにあるんだい?」
「まあ、ちょっと見ていて下さい」
ミールは、七体の分身を出した。
分身は、みるみる小さくなって身長十センチほどの小人になる。
小人なんか出してどうするんだ? と思っていたら、小人たちは地面に穴を掘り始めた。
しばらくして、七つの小さな穴から小人ミール達が飛び出してくる。
何かに吹き飛ばされたかのように……
「では、いきます」
ミールは、違う呪文を唱え出した。
しばらく唱えると、突然両手を前に突き出す。
「はっ!」
カメハメ波?
いや、何も起きなかった。
どうしようもない沈黙が辺りを包み込む。
「ミールさん。何をやりたかったのですか?」
ミールのこめかみにツツーと汗が流れる。
「ちょっ……ちょっと、呪文を間違えました。もう一度」
その後もミールは呪文を間違え続けた。
「ミール。大丈夫なの?」
なんか、かなり疲れているみたいだけど……
「だ……大丈夫です」
あんまし、大丈夫そうに見えないなあ。
「はっ!」
十一回目のチャレンジ。
穴の一つに火が灯った。
「こ……この辺りの土地は……ちょっと穴を掘ると、燃える空気が出てくるのですよ」
なるほど、この当たりは天然ガス田だったのか。
「それは分かりましたけど、火を一つ点けるのに、ずいぶん疲労困憊していますね。魔法なんかより、火打石の方が役に立つのではないですか?」
「Pちゃん、魔法をバカにしないで下さい。確かにあたしは火炎魔法が苦手ですが、凄い人は鉄をも溶かす炎を出せるのですよ」
「そうですか」
Pちゃんは、まだ火のついていない穴のそばにしゃがみこんだ。
「Pちゃん、そこをどいて下さい。今から火をつけるのですから、危な……い……ですよ……?」
ミールがセリフを言い終わる前に、Pちゃんは残りの六つの穴に、チャッカマンで火をつけた。
「なんですか? それは……」
「チャッカマンという物ですが、何か?」
「チャッカマン?」
「天然ガスが出てるならそう言ってくれれば、これで火を点けましたのに。そんな大げさな魔法、使う事なかったのですよ」
「あはは……」
フラフラと倒れ掛かったミールを、僕は慌てて支えた。
「ミール。大丈夫か?」
「カイトさん。ミールは、もう駄目です」
「しっかりしろ」
「どうか、ミールをお布団まで運んで、添い寝……」
そこまで言いかけたとこで、Pちゃんがミールの襟をガシっと掴み僕から引き離した。
「車の中で、一人で寝て下さい」
そのまま、ミールはPちゃんに引きずられていく。
とりあえず、電力不足の問題はなんとかなったな。




