白い壁に囲まれた部屋(矢部の事情)
第十四章の最終話「臨死体験」の続きになります。
矢部はベッドから起き上がると周囲を見回し、自分が白い壁に囲まれた部屋にいる事を認識した。
この部屋の主であるスーホと名乗った半人半馬の異星人によれば、自分は川底で死にかけていたらしい。
いや、川底にいた事は覚えているのだが、なぜ川底にいたのかが分からない。
なぜなら、川底で目覚める前の矢部の意識は疑似人格に押さえ込まれて、ずっと眠っていたからだ。
それがある時、唐突に目覚めさせられた。
目覚めて最初に認識したのは息苦しさ。
とりあえず、疑似人格が何かをやらかしてくれたおかげで、自分はロボットスーツを装着した状態で川底に落ちて死にかけている事を理解した。
その時は、理解した後でフツフツと怒りがわき上がってきていた。
なぜこんなギリギリの状況で、自分を目覚めさせたのかと……
目覚めなければ、苦しまないで済んだというのに……
そのまま苦痛に苛まれながら矢部は一度死にかけた。
そして再び気が付いたとき、この部屋にいたのだ。
スーホの話によると、この部屋はタウリ族の宇宙船内にあるらしい。
「君の名前を教えてくれるかい。分からないと呼びにくいのだが」
その時になって、矢部は命の恩人に礼も言っていなかった事に気が付く。
「すみません。自己紹介が遅れました。俺の名は矢部徹。この度は、助けていただきありがとうございます」
「どうやら、記憶喪失にはなっていないようだね。それでは、矢部。君は自分がなぜ川底にいたのか知っているかね?」
「それが、分からないのです」
「なるほど。やはりね」
「やはりって? あなたは、何か知っているのですか?」
「ああ。君は自分が、レム神という精神生命体に脳間通信機能で接続され、操られていたという事は認識しているかね?」
「ええ。時々、目覚めさせられていたので、その時に説明を受けました」
「レム神が君本来の意識を、時々目覚めさせていた理由は分かるかい?」
「さあ?」
「理由は三つあるのだよ」
「三つ?」
「一つは君の人格をコピーして疑似人格を作るため。本来の意識が目覚めた状態の方がコピーしやすいのだよ」
「仕組みはよく分かりませんが、そういうものなのですか?」
「そういうものなのだよ。それと二つ目の理由だが、特に必要がない時は接続者本来の人格を目覚めさせている事の方が多いのだよ。レム神にとっても、疑似人格を使って他人の肉体を操作するのは負担になる。だから特に用がなくまた逃走のリスクがないときは、君本来の人格を目覚めさせてレム神の負荷を軽減していたのだ」
「なるほど。それで三つ目は?」
「三つ目は、疑似人格の判断で肉体の操作を放棄した時。そうすると、本来の人格が目覚めるのだ。ただし、脳間通信は接続されたままだけどね」
「疑似人格が肉体の操作を放棄? なぜ?」
「理由はいろいろと考えられるが、一番あり得るのは操作している肉体が死にかけている時。肉体の苦痛を受けたくないので、疑似人格の判断で操作を放棄するのだよ」
「という事は、俺を操作していた疑似人格は自分が痛い思いをするのが嫌だから、俺を目覚めさせたという事ですか?」
「そういう事だ」
「くそ! なんてヒドい奴だ。目覚めた俺が苦痛を受けるというのに。今まで散々俺の肉体を使って好き勝手やっておいて、危なくなったら捨てるなんて、性格の悪い奴だ」
「いや……その疑似人格は君の意識をコピーしたのだから、その性格は君と同じということになるのだが……」
「う……まあ、疑似人格には疑似人格の立場というものがあったのだろう」
そこで矢部は、はっと気が付いた。
自分とレム神との接続は、本当に切れているのだろうか?
ミール「大丈夫でしょうか?」
Pちゃん「大丈夫ですよ。矢部さんとレム神の接続は完全に切れていますから」
ミール「いえ。あたしが心配しているのはそんな事ではなくて」
Pちゃん「ああ! 矢部さんを味方にしたら、またセクハラを始めるのではと心配なのですね。その時は、今度こそご主人様に射殺してもらいましょう」
ミール「いえ、そうじゃなくて……」
Pちゃん「そうですね。ルスラン・クラスノフ博士とタッグを組む恐れがありましたね。この二人は隔離しないと」
ミール「いえ。あたしはそんな事を心配しているのではありません」
Pちゃん「では、ミールさんは何が心配なのですか?」
ミール「矢部さんの事情なんか連載したら、ブックマークが減るのではないかと」
Pちゃん「しまった! その危険がありました」
矢部「失礼な」




