何か忘れているような?
二人に気づかれないように、こそーりと、トレーラーの屋根から降りた。
しばらく歩くと、広場で炊き出しをやっているのが目に入る。
そこで、またミールのお爺さんと村長が口論していた。
「なんて事を言う! ミールは、わしらのために戦ったのだぞ」
「だからって、皆殺しにする事はないだろう。帝国軍が怒って報復に来たらどうする?」
「怒らせなくても、わしらは十分ひどい目にあったわ」
「だからと言って、皆殺しとは残酷な。そんなだから、お前の孫は嫁に行けんのだ」
この村長、意外と人道主義だな。
「あの……」
二人が僕の方を向いた。
「帝国軍を、皆殺しにしようと言い出したのは僕です。ミールさんでは、ありません」
ミールのお爺さんが、僕の方へ歩み寄ってきた。
「おお! 誰かと思ったら、昨夜の日本の方ですな。あの鎧の下はこんな好青年でしたか」
「はあ、どうも……」
好青年ね。お世辞でも、言ってもらえると、ちょっと嬉しいかな。
「昨夜は、わしらを助けてくれて本当にありがとう。村を代表して礼をいいますぞ」
村長が、慌てて駆け寄ってきた。
「こらあ! 勝手に代表するな! 村の代表者はわしだ」
「おお! そうだったのう。まあ、次の選挙までのことだが……」
「なんだとう!」
「なんにせよ、今現在の代表は、おまえじゃろ。だったら、村の恩人に礼の一つも言ったらどうなんだ」
「うるさい! 言われんでも、そうするつもりだったわい! 人が、礼の言葉を考えている間に、抜け駆けしおって」
「礼の言葉がとっさに出てこないようでは、次の村長はわしだな」
この二人、政敵どうしだったのか。
それにしても選挙って言ってたけど、村の政治は民主主義だったのか?
王国とか帝国とかあるから、てっきり封建社会なのかと思っていたけど……
村長が僕の前に立った。
「日本のお方、この度は村をお救いいただき、ありがとうございました。村の正式代表として礼をいいますぞ」
『正式』というところに、偉く力を入れてるなあ……
「いや、礼には及びませんよ」
「できれば、お礼の宴を設けたいところですが、なにぶん村がこの状況でして……」
「宴なんてとんでもない! 復興で大変でしょ。僕はここには、数日しかいられませんが、その間は可能な限りお手伝いします」
「おお! それは助かります。人手が足りなくて困っていたところですので」
やはり、人手が足りないんだな。ミールを連れていっちゃっていいのかな?
僕は、ミールのお爺さんの方に顔を向けた。
「あの、実はミールさんがリトル東京まで道案内してくれると言ってるのですが……」
「ミールから、言い出したのですか?」
「ええ。こんな大変な時に、お孫さんをお借りしては……」
「いや、あの娘が自分でそう決めたのなら、わしは止める気はない。どうぞ連れて行って下さい」
「よいのですか?」
「なんなら、そのまま嫁に、もらって頂いけますかな」
「いえ! そこまでは……」
「体良く、ジャジャ馬を、押し付ける気だな」
村長がボソっと、呟く。
ん? 朝日が陰った。
朝日の方を見ると、大きな鳥の群れ……
いや、ベジドラゴンの群れだ。
「カイト!」「ピー」
エシャーとロットが舞い降りてきた。
「カイト、タスケテ、クレテ、アリガト」
エシャーが、すり寄ってきた。
「いいんだよ。元々、僕がエシャーに、お使いなんか頼んだせいだし」
「デモ、カイト、来テクレタトキ、凄ク、嬉カッタ」
「ところで、エシャー。なんで、ベジドラゴンの群れが?」
「ナーモ族、友達。友達困ッテタラ、助ケル、当タリマエ」
「村長、ベジドラゴンが手助けに来てくれたぞ。これで、人手不足はかなり解消されたな」
「しかし、ベジドラゴンに、謝礼を出さねばならないだろ」
「出せば、いいではないか」
「村がこんな状態だぞ。何が出せる?」
「村長の家が無事だっただろ。地下の酒蔵の酒を、振る舞えばよいじゃないか」
「くく……だから、帝国兵を皆殺しにしないで、何人か捕虜にしておけばよかったのだ。捕虜を奴隷にしてこき使えば、謝礼などいらんのに……」
なるほど。帝国兵を殺したことを非難していたのは、人道主義なんかじゃなくて奴隷にできる、捕虜が欲しかっただけか。
地球で、捕虜にそれやったら、ジュネーブ条約違反……ん?
捕虜? ん? ん? なんか、心に引っかかるな。
「カイト、ドウカシタノ?」
「いや、何か忘れているような?」
なんだったっけ?
(第五章 終
「こらあ! 我々を忘れたまま終わるな!」
下着一枚で縛り倒されているドロノフたち帝国兵の事を、海斗とミールが思い出すのは、それから数時間後のことである。
(第五章 終了)




