久しぶりの陽光
第一層でエレベーターを降りた僕達は、久しぶりの陽光を浴びた。
「眩しい!」
ミールが眩しそうに、掌で目を覆う。
「私たち、やり遂げたのですね」
僕の背後で芽依ちゃんがそう言ったとき、第一層出口前の広場に、ヘリコプターが着陸する。
降りてきたのはレイホー。
「おにいさん達。迎えに来たね」
駆け寄って来たレイホーに、陽光を浴びて銀色に輝くシリンダー状の物体……マテリアルカートリッジを僕は差し出した。
「レイホー。最後のカートリッジだ」
「これで、お父さんの治療ができるね?」
「ああ」
レイホーがカートリッジを愛おしげに抱きしめていると、その背後からアーニャ・マレンコフが近寄る。
「それが、最後のカートリッジなのね。これで、章白龍を助ける事ができるのね」
アーニャは、目に涙を浮かべていた。
やはり、彼女は章白龍を愛していたのだな。
「二人とも、嬉しいのは分かるけど先を急ごう。そろそろ、レム神が騙された事に気づくころだから」
「そうね。カルカに戻るまでが遠足だわ。それにしても……」
アーニャは、僕の方を振り返り笑顔を浮かべる。
「君は本当に人が良いわね」
どういう事だ?
「悪い意味で言ったわけじゃないのよ。でも、あまりお人好しだと、他人に良いように使われちゃうわ。気を付けてね」
「どういう事です? 僕がお人好しって?」
「私たちにとって、章白龍は大切な人。でも、君にとってはほとんど面識のない他人。他人のために、こんなに頑張るなんてお人好しでしょ」
その事か。
確かに、お人好しと思われても仕方ないが、僕はけっして同情だけでこの作戦を実行したわけじゃない。
あくまでも、自分のためにやった事だ。
僕が、この惑星でこの先も生きて行くには、帝国軍と戦い続けなければならない。
そのためには、味方は多い方が良いし、敵が弱くなってくれるとなお良い。
ここで章白龍を助ける作戦を実行すれば、カルカの人たちからの信頼を勝ち取れて、心強い味方になってもらえる。
なおかつ、帝国軍がリトル東京から奪ったカートリッジを奪還すれば、奴らを弱体化できて一石二鳥。
もっとも、今では奴らもカートリッジの再充填が、可能になってしまったらしいが……
その事をアーニャに話してみた。
「なるほど。あくまでも自分のためにやっていたのであって、章白龍を助けるのは打算という事ね」
「そうですよ。悪いですか」
「嘘ばっかり」
え? 嘘などついていないが……
「君は、困っている人を放っておけない、優しい人なのよ。だから、こんな作戦を実行したのだわ」
な……何を言ってるんだ?
「そんな事はありません。僕は、冷酷なマキャベリストです」
そうだよ。僕はそんな善人じゃない。
「冷酷な男なら、ロータスの町を見捨てたと思うな」
「いや……それは……」
「そうね。冷酷な男なら、盗賊に追われている私を助けに駆けつけたりしないね」
「レイホーまでなに言ってんだよ。あんな状況見たら、普通助けに行くだろう」
「北村さんが冷酷だったら、アーテミスで子供たちが虐待されているのを見て、激怒して盗賊退治なんかしないと思います」
「いや、芽依ちゃん。あれは、ダニに賞金が掛かっているとキラから聞いて……なあキラ。あれは君と賞金山分けにするためだよな」
だが、キラは首を横にふる。
「カイト殿が冷酷な男なら、私は最初に会った時に殺されていたはずだ」
「それはだな……」
「正直、私はあの時死を覚悟していた。勝てない相手にケンカを売ってしまったと後悔もした。だが、カイト殿は私を殺さなかった。最初はバカにされたのかとも思った。だが、今なら分かる。世の中にはカイト殿のように、優しい男もいるのだということも……」
「優しい男なんて、いくらでもいるだろう」
「少なくとも、私の周囲にはいなかった。女を物扱いするような男にしか会ったことがない」
それは、キラの男運が悪かっただけだと思うけど……
カチ!
ヘルメット着脱ボタンの音……こういう事をするのはミールだな。
振り向くと案の定、ミールが僕のヘルメットを抱えていた。
「カイトさん。みんなに誉められて、照れているのですか?」
「べ……別に、照れてなんか……」
「でも、顔が赤いですよ」
「え?」
バカな! 酒を飲んでも赤くならない僕の顔が、このぐらいで赤くなるわけ……
「嘘です」
そう言ってミールは、僕に飛びついて唇を重ねてきた。
おい……みんなの見ている前で……




