万事休す(ミールの事情)
通路から出てきたスパイダーと、台座から降りてきたミールとミクは真正面から対峙してしまった。
「く!」
ミールは同時に十二体の分身体を操れるが、今は十ニ体すべてが敵陣で戦闘中。
向こうの分身体を消して、こっちで出す時間的余裕がない。
キラの分身体は、緑のスパイダーと戦闘中。
いや、キラが守っているのはどうせダミーなのだから、呼び戻してもいいのでは?
と、ミールは一瞬考えた。
しかし、それをやればキラはニ体のスパイダーを同時に相手にしなければならなくなる。
「ミクちゃん! 式神を!」
「うん」
ミクは憑代を取り出そうとして懐に手を入れた。
「あれ? あれ?」
「どうしたの?」
「憑代がない」
「ええ!?」
「おトイレに、ホルスターごと置いてきちゃったよ」
万事休す。
その時、赤いスパイダーのハッチが開き、カルル・エステスが顔を出して不敵な笑みを浮かべる。
「く……」
ミールは、海斗からもらった拳銃を手にした。
これでスパイダーと渡り合う自信はないが、もうこれしかミクを守る手段はない。
だが、当のミク本人がミールを庇うように前へ進み出た。
「カルル……あたしの事、忘れていないよね?」
「ああ。よく覚えているさ。電脳空間にいた頃も、オリジナル体であった時も……」
「あたしも覚えているよ。オフ会で、あたしの似顔絵を描いてくれた、優しかったカルルを……」
「そうか。だが、あの時の俺には戻れないぞ」
「戻れるよ! 戻してみせる。きっとレムの操り人形から、カルルを解放してあげる」
「無理だな。俺はそんな事は望んでいない」
「どうして? 元に戻りたくないの? 香子姉にふられたから?」
「五月蠅い! そんな事は関係ない」
ミールは、拳銃を構えてミクの前に進み出た。
「おおっと!」
カルルは、慌ててスパイダーの中に引っ込みハッチを閉じる。
スパイダーの機銃がミールの方を向き、外部スピーカーからカルルの声が流れた。
「ステキな玩具を持っているな、カ・モ・ミール。だが、いくらスパイダーの装甲が薄くても、二十二口径程度では貫けないぞ」
「それでも、あたしはミクちゃんを守ります。あたしの命に代えても……カイトさんと約束したのだから……」
ミールは、悲壮な面もちでスパイダーを睨みつける。
「よせよせ。死んだら海斗が悲しむぞ」
「あたしのために、カイトさんが泣いてくれるなら本望です」
今、スパイダーの機銃が火を吹けば、自分の命は一瞬にして尽きる。
それが分かっていても、ミールの中には不思議と恐怖はなかった。
だが……
「くくくく」
カルルは銃弾の代わりに、ミールに嘲笑を浴びせた。
「何が可笑しいのです! カルル・エステス!」
「甘いぜ、カ・モ・ミール。俺がそんなちゃちな手に、騙されるとでも思っているのか」
「え?」
スパイダーは、マニュピレーターの一本をミクの方に向けた。
「俺は地球にいる頃からミクを知っている。こんなニセ物で騙されるなどと思うなよ」
「「え?」」
呆気に取られているミールとミクを置いといて、スパイダーは大きくジャンプすると、キラが戦っている緑のスパイダーの方へ向かう。
カルルの赤いスパイダーはネットを放った。
キラの分身体が背後で庇っていた少年に、ネットが被さる。
「本物のミクはこっちだあ!」
呆気に取られながらミクは呟く。
「あの……あたしが本物だけど……」
その呟きは、カルルの耳に入らなかったようだ。
「フフフ。カ・モ・ミールよ。俺を甘く見るなよ。中央広場に入った俺の真正面にミクが現れる。こんなできすぎた状況があるわけないだろう」
「あったのですけど……」
ミールの呟きは、カルルの耳には届かなかった。
「おまえ達が、ミクの替え玉アンドロイドを用意していたことは分かっていたんだ。そして本物のミクには、ミーチャに変装させていた事もな。もっとも……」
カルルは、キラと戦っている緑のスパイダーの方を向いた。
「本物はマルガリータ姫が追い回していた。こんな時に俺が背後から回り込めばミクは捕まってしまう。苦肉の策で、アンドロイドを俺の前に出したのだろうな」
「だから、違うって……あたしが本物だって」
「ハハハハ! 替え玉はいつもそう言うのだ。だが、俺はそんな手に騙されないぞ」
ちなみにカルルはさっきから日本語を話していたので、マルガリータ姫には何を言っているのか分からない。
ただ、カルルは見事にミーチャを確保したと勘違いしたようだ。
「カルル! よくやったぞ」
緑のスパイダーがキラの分身体を押さえ込む。
「妾がキラを押さえている間に、ミーチャを連れて逃げるのじゃ」
「承知しました」
カルルはそのまま、ネットに捕らえられたミーチャ (アンドロイド)を連れて帝国軍陣地へと走り去っていった。
Pちゃん「次回からご主人様の語りに戻ります」
ミール「もう少し続けたかったのですけど残念ですね」
Pちゃん「これ以上フェイク情報を流されてはかないませんので」
ミール「ヒドい! あたしはいつも真実を語ってますよ」




