ミールを乗せられない理由
傾斜路の前まで行くと、すでに動物たちは処何かへと姿を消し、扉の前には輸送ロボが待機していた。
さっそく傾斜路内に入って、ミールをヘリに乗せられない理由を訊ねてみる。
「橋本君。ちょっと確認したい事があるのだが……」
「なんでしょう?」
聞いてみると、理由はいたって単純だった。
「え? だってヘリコプターに、そんな大勢乗れませんよ」
そうでした。
ミールを乗せられないというのは、単に物理的な問題だったのだ。
考えてみれば当然だな。
「隊長と森田さんが乗るのは当然として、カルカ防衛隊との連携を取るために、アーニャさんにはリトル東京に来ていただきたい。そして、リトル東京の科学者たちは、ルスラン・クラスノフ博士の到着を、首を長くして待っております。これにロボットスーツの着脱装置を三台積んで私が乗ると、これ以上は……」
「それなら、君がここに残ってもいいのではないのかい?」
「え!?」
あれ? なんかショックを受けたような声……
橋本晶は突然ヘルメットを外した。
う! 目に涙を浮かべている。やばい事を言ったかな?
「隊長。自分の女を連れていきたいから、部下を置き去りにすると言うのですか?」
「あ! いや、そんなつもりは……それから、僕はまだ正式に隊長になったわけでは……」
「ヒドいです。隊長は公私混合するような人ではないと信じていたのに……」
ええっと……
「私は、隊長にとって、その程度の部下だったのですね」
「え?」
「私は先代隊長から、疎まれているような気がしていましたが、やはり疎まれていたのですね」
いや……先代の僕の事を言われても……
「当然ですよね。私は、すぐに刃物振り回すアブない女ですし……」
自覚しているなら、なんとかしてもらえないでしょうか。
「隊長の命令を度々無視して独断専行するし……そのあげく勝手に危機に陥って、隊長や仲間の手を煩わせるし……」
だから、僕にそれを言われても……
「橋本君」
「はい、隊長」
「先代の僕がそう思っていたのかは知らないが、少なくとも僕はそうは思っていない」
「本当ですかあ?」
「本当だ。君の事をすごく頼りにしているよ」
「本当ですね?」
「もちろんだ。イワンとの戦闘中に君が駆けつけてきてくれた時は、とても助かったと思っている」
「では、私はヘリに乗っていいのですよね?」
「も……もちろん……」
でも、ミールは連れて行きたいし……
「北村さん」
芽依ちゃんに呼ばれて振り向く。
「この際カートリッジを手に入れたら、《水龍》にそれを持ってカルカへ戻ってもらうことにして、ヘリに乗れなかったミールさん達は《海龍》でリトル東京へ行ってもらえれば」
「カルカ側が、それを承諾してくれるだろうか?」
「それは交渉次第かと」
ミールの方を見ると、不安げな表情を浮かべている。
「ミール。聞いての通りだ。君は《海龍》でリトル東京へ向かってくれ。僕はそこで待っている」
「カイトさん。リトル東京まで、どのぐらいの時間がかかるのですか?」
「正確には計算しないと分からないけど、《海龍》の速度だと、ここからリトル東京まで一~二週間かな」
「そんな長い間、カイトさんと離れなければならないなんて……せめて……」
ミールはお腹に手を当てた。
「ここに、カイトさんの赤ちゃん……」
えええええ! できちゃったのか? 今度は予定じゃなくてできちゃったのか?
あ! 芽依ちゃんと橋本晶が僕を睨みつけている。
「北村さん」「隊長」
「な……何かな? 二人とも……?」
「「身に覚えはあるのですか?」」
「ええっと……あることはあるが……」
しかし、避妊はちゃんとやっていたはずだが……
「ミールさん。おめでたなのですか?」
橋本晶の問いにミールは首を横にふる。
「いいえ、まだですよ」
「え? だって今、赤ちゃんができたって……」
「いいえ。カイトさんとそんなに長い間、離れなければならないなら、ここに赤ちゃんを残していってほしいと言いたかったのですが……」
紛らわしい……
「ミールさん。そんなに、北村さんを信じられないのですか?」
「え? メイさん。何を……?」
「このまま北村さんだけが先にリトル東京に行ったら、《海龍》が到着する頃には他の女に盗られているのではないか? と心配なのでしょう? だから、今のうちに赤ちゃんを作っておきたいと」
「い……いえ、そんなつもりは……」
「大丈夫です。北村さんは一途な人です。先代の北村さんは、香子さん一筋でした。他の女から言い寄られても決して靡きませんでした」
「その言い寄った女の中に、メイさんは含まれているのですか?」
「え? 私は含まれていませんよ」
「では、安心できません。メイさんが言い寄っていたら、靡いていたかもしれませんので」
「ええ! まさか、ミールさん。私がミールさんのいない間に、北村さんに手を出すとでも思っているのですか?」
「はい。思っています」
あのう……こういう話は、本人の聞いていないところでやっていただけないでしょうか……
「メイさん。本当はあなた……きゃあああ!」
突然、ミールが悲鳴を上げた。
何があった? いや、だいたい想像はつくが……




