侵略者は、おまえらだろ……
結跏趺坐したミールが呪文を唱える。
そこまでは、さっきミールが自分の分身を作った時と同じだった。
違うのは、縛られて地面に転がされているドロノフが光り出した事。
しばらくして、もう一人のドロノフが現れた。
「ひょっとして、僕の分身も作れるの?」
「ええ、できますよ。作りますか?」
「いや、いい」
僕はドロノフの分身から、猿ぐつわを外した。
「ドロノフ。質問に答えてくれるか?」
「なんなりと」
隣で、猿ぐつわをされている本物が『うう! うう!』とうなり声を上げている。
「今、村に帝国軍は何人いる?」
「一個中隊、百人ほどです」
「司令官は?」
「ダサエフ大尉」
僕はドロノフを縛っていた縄をほどき、テーブルの前に立たせた。
テーブルの上には、さっきドローンで撮影したばかりの、村の航空写真が広げてある。
まだ、かなりの建物が焼け残っていた。
ドロノフに、マジックペンを持たせる。
「分かる限りでいいから、食糧、武器、弾薬の置き場所。人員の配置を書き込んでくれ」
「お安いご用です」
本物のドロノフが、さらに大きな唸り声を上げる。
「静かになさい。分身を作った以上、お前はもう用済みです。このまま殺してもいいのですよ」
ミールに脇腹を蹴られて大人しくなった。
「殺すのはよそうよ。後味が悪いから」
「はーい」
でも、この娘も戦場にいたって事は、人を殺した事あるんだろうな。
いや、僕だってさっきの戦いで死者は出ていないけど、重症を負わせた兵士はこの後で死ぬかもしれないし、川に投げ込んだ奴らは溺れたかも……
しばらく、夢で魘されそうだな。
「こんな物で、どうですか?」
ドロノフが、作業を終えたようだ。
航空写真には、いろいろと書き込んであるが、字が読めない。
何語だ?
帝国語なんだろうけど……
翻訳ディバイスのカメラで写してみると、自動的に日本語に翻訳された。
しかし、なんだろうこの文字は? アルファベットに似ているが……
「ドロノフ。この文字は、なんという文字だ?」
「帝国文字です」
まんまかい……
「君たちは、地球人だろ?」
「違います」
「違うのか?」
「私の祖父母は地球人ですが、私はこの惑星の住民です」
三世だったのか?
「つまり、自分は地球人とは、認識していないのか?」
「はい。あえて言うなら地球系タウ・セチ人と認識しています。ただし、この事を知っているのは私を含めて、少数の者だけ。ほとんどの者は、我々はこの惑星で発生したものと思いこんでいます」
「なぜ、一部の者しか知らないんだ?」
「分かりません。私が知っているのも、父がうっかり口を滑らせたからです。なので、普段は知らないふりをしています」
どうやら、帝国人は自分達が地球人だという事を隠したいらしい。
「この惑星には、帝国人の他に地球人はいるかい?」
「います。リトルトーキョーの日本人どもです」
なんか、日本人を憎んでいるみたいだな?
「奴らは、五年前に突然この惑星に降りてきました。そして、現地の獣人どもを手懐けて、我が帝国の領土を犯している侵略者です」
おいおい……
「侵略者は、おまえらだろ……」
「とんでもない。我々は侵略などしておりません。宇宙は、神が人間のために作ったものです。したがって、汚らわしい獣人どもに、この惑星を支配させるなど、神の意志に反すること。獣人どもを駆逐して、この惑星を人の住む楽園にする事が我らの使命です」
なんつー勝手な理屈……
「ですから我々は、侵略者なんかではないのです。獣人ども追い出して、本来我々のものである土地を、取り戻しているのです」
「そういうのを……」
僕は書類を束ねて、即席ハリセンを作り、地面に転がってるドロノフを叩いた。
「侵略者って言うんだよ!」
「ンゴー!」
猿ぐつわされて喋れないドロノフは、なぜ自分が叩かれるのか理解できず、ただうなり声をあげて抗議するだけだった。




