出港
《海龍》と《水龍》が出航したのは、その翌朝の事。
前回と違って、今回は港を出るとすぐに浮上して水上航行に入った。
「あのう……こんなにノンビリしていて、いいのでしょうか?」
ミーチャが不安そうに言ったのは、昼近くになって《海龍》甲板上での事。日の光を凹面鏡で集めてレットドラゴンの肉を炙っている僕の背後から声をかけてきたのだ。
ちなみにこの肉は、塩湖から持ってきた最後の一かけら。
出陣祝いの景気づけにと思って出してきた。
「大丈夫だよ。ミーチャ。お昼ご飯までに焼けるから。ガスや電気で焼くより、日の光で焼いた方が美味いんだぞ」
「いえ……僕が言いたいのは、お肉の焼け具合ではなくて……これから、戦いに出かけると言うのに、こんなにノンビリしていていいのですか? という事なのですけど」
ミーチャの指差す先の甲板上にはサマーベッドが並び、ミール、ミク、キラ、芽衣ちゃんが水着姿で寝そべり、日光浴をしていた。
さすがにPちゃんは、アンドロイドなのでそんな事はしていないが……
「ロータス到着は明日になるし、今から緊張していてもしょうがない。今のうちに英気を養っておくのさ」
「でも、休むなら潜水艦の中でもいいじゃないですか。こんな無防備な状態で、もし帝国軍の残党に襲撃されたら……」
「大丈夫だよ」
僕は空を指差した。
「目には見えていないけど、上空ではドローンが警戒しているんだ」
「で……でも……」
ミーチャは妙にモジモジしていた。
ん? 顔が赤いぞ。どうしたのだ?
「せ……せめて服ぐらい着ても……」
着ているだろ? 水着を……いや……ミーチャに、水着ギャルは刺激が強すぎたかな?
確かに、中高生の頃の僕なら水着ギャルが並んでいる光景なんか見ると、目のやり場に困って赤面していたかも……
「ご主人様。なにミールさん達をジロジロ見ているのですか?」
ギク!
背後を振り向くと、トレイを持ったPちゃんが僕を睨みつけていた。
「え? いや……これはだな……」
「まったく、エッチなんだから……」
酷い言われようだ。
いや、これも虫除けプログラムのせいなのか?
Pちゃんはそのまま女子達の方へ歩いて行く。
「みなさん。冷えたジュースをお持ちしました」
「わあ! ありがとうメイドさん」「ありがとう。Pちゃん」
それぞれが紙カップを受け取った後、Pちゃんはミールに声をかける。
「それはそうと、ミールさん。もう少し大人しい水着にしませんか?」
ちなみにミールが着けているビキニのような水着は、普段からナーモ族が使っている物らしい。尻尾を出す穴も空いている。
「この水着のどこがいけないのですか?」
「ご主人様がさっきから、エッチな目でミールさんを見ています」
う……嘘を付くな! 見てないぞ! チラっとは見たが……ガン見はしていない。
「ええ! お兄ちゃんのエッチ! あたしもエッチな目で見られていたの?」
いや、ミク。おまえのまな板胸で、それはないから……
「P0371。失礼な事を言ってはいけません。北村さんは矢部さんと違います。女の子の嫌がるような事はしません」
芽衣ちゃん、君だけは分かってくれるんだな。てか、なんでスクール水着? いや、コアなファンはいるけど……
「申し訳ありません。芽衣様」
「そうですよ。Pちゃん。それにあたしはカイトさんに見られているのではありません。見せつけて、悩殺しているのです」
あのねえ……
「ミールさん。その水着で北村さんを悩殺するのは、ちょっと難しいかもしれませんよ」
「どうしてですか? 芽衣さん。あたしのこの絶妙のプロポーションで、悩殺できない殿方などいるわけありません」
「ですけど、その水着姿って、ミールさんの分身体が戦闘モードになった時の姿とあんまり変わらないのではないかと……」
というより、戦闘モードのときのビキニアーマーの方がエロい。
「は! しまった! 日頃から見せつけていたから、今さらカイトさんには効果なかったのですね」
まあ、確かに見慣れてしまっていたが……
「おおい!」
《海龍》と併走して航行していた《水龍》の甲板上で、赤いビキニの上にエプロンをつけた姿のレイホーが手を振っていた。
「そろそろ、お昼にするね。船を繋ぐよ」
二隻の潜水艦は速度を落として接舷した。
船と船の間に板を渡して、その上をレイホーが料理の入った岡持ちを持ってくる。
「あれ? お兄さんも、食事の用意していたの?」
「いや、丁度良かったよ。肉だけでは栄養が偏るってPちゃんに怒られるから」
そのまま、甲板上に折り畳みテーブルを出して、レイホーの持ってきた青椒肉絲、八宝菜、回鍋肉など中華料理と、僕の焼いたレッドドラゴンの焼肉を並べ《海龍》甲板上で昼食会となった。
艦内にいた馬 美玲とアーニャ・マレンコフも加わる。
さすがにこのおばさん達(失礼)は、水着ではなかったが……
いい機会なので、アーニャ・マレンコフに、この惑星に降りてからの経緯を聞いてみた。
「私達は地表に降りてから、最初の一年間は攻撃には出ないで防御に徹していました。その間、帝国軍の攻撃を退けながら。プリンターで工作機械、土木機械などを作り、現地の資源を使って、要塞都市カルカを築き上げたのです」
「あの、その時の帝国軍は、どのような武器を使っていましたか?」
「もちろん、今のように青銅砲やフリントロック銃などではありません。近代的な戦闘車両やヘリコプター、ドローン、ミサイル、軍艦など……ただ、攻撃が妙に消極的なので変だなとは思っていました」
「その時点で、マテリアルカートリッジが無くなりかかっていたのでしょうか?」
「当然です。地球から持ち込んだ貴重なマテリアルカートリッジを戦争なんかに使ったら、すぐに無くなってしまいます。ただ、私達も最初は、帝国も現地で製造した兵器を使っているものと思っていました。しかし、帝国軍の捕虜や亡命者からの情報でだんだん分かってきたのです。帝国では……というよりマトリョーシカ号から降りてきた人達は、工作機械をまともに使いこなす事ができなかったのです。私自身マトリョーシカ号に乗っていましたが、製品を作るのはプリンターを使うのが当たり前という考えでいました。ただ、現地に行ったら、現地の資源を利用しなきゃならないという事は、漠然と理解していたのですが、そんな難しい事ではないと思っていたのです」
実際に現地に到着してから、モノづくりがいかに大変かという事を思い知ったわけか……
「それが分かってから、私達は攻勢に出ることにしたのです。戦っていれば、いずれ帝国はマテリアルカートリッジを使い切って戦えなくなる。もしかするとその前に、帝国の方から和平を申し出て来るかもしれない。実際に和平交渉を持ちかけてきました」
「応じたのですか?」
「ええ。帝国の使者がカルカに来ました。その時、私達は使者にある事を要求したのです」
何を要求したのだろう?
「《天竜》が落とされる前に、地表の六ヶ所にレムのコンピューターセンターがあるのを発見した事は、章 白龍から聞きましたね?」
「ええ」
「あれをすべて破壊する事を要求しました。当然、拒否すると思っていましたが、拒否どころか使者はコンピューターセンターの存在すら知らなかったのです。自分達がレムに操られている事を自覚していないのです。ただ、レムを神として崇めていましたが」
「で、交渉はどうなりました?」
「当然決裂しました。そもそも、レムを何とかしないと、その傀儡である帝国との和平などありません。そこで私達は、潜水艦隊を建造しました。今残っているのは《水竜》と《海龍》だけですが、当時はもう一隻《光龍》という潜水艦もあったのです」
「それは、レムのコンピューター基地を破壊するためですか?」
「ええ。六か所のうち一か所はニャトラス大陸にありました。その基地は、和平交渉の前にすでに攻撃して破壊していました。そこが今のシーバ城」
「え!? じゃあシーバ城の地下にあった地下都市は?」
「あれはレムの基地だったのです」
「じゃあ、そこにあった核爆弾は?」
「元々、そこにあったのです」
なんてこった。帝国軍がなぜシーバ城の下に核がある事を知っていたのか分からなかったが、これではっきりした。あれは最初から帝国の物だったんだ。




