見たけど、見なかったことにしよう。
潜水艦《海龍》を出た僕達は、そのままシェルター内の会議室に向かった。
会議室に行くと、キラとミーチャが先に来ている。
部屋に入ってきた僕達にキラが手を振ったが、ミーチャの方は机に向かって一心不乱に何かを書いていた。絵のようだな。
「キラ。何か分かったかい?」
「ああ。ミーチャ、絵はそのぐらいでいい。みんなに見せて」
「はい」
ミーチャは立ち上がって、僕らに画用紙を見せた。
そこに描かれているのは、一隻の船。
上手いものだな。細部まで描きこまれている。ミーチャにこんな才能があったんだ。
だけど、水しぶきまで、描かなくていいのに……
「わあ、ミーチャ上手! 今度はあたしの似顔絵描いて」
「え?」
ミクに催促されて、ミーチャの顔が少し引きつった。
どうも、ミーチャはミクが苦手みたいだ。無理もない。この前、女装させられたからな……
「ミク、会議が終わってからね」
「うん。そうするよ」
僕達は、長テーブルを囲んで席に着いた。
「それで、ミーチャ。その船はなに?」
「はい。帝国海軍の中にいた鉄の船です。船名は《アクラ》」
装甲艦か。という事は、これが成瀬真須美の乗艦?
「僕は《マカロフ》に乗っていて、並走している《アクラ》を見ていたのですが、《アクラ》にはサーシャさんが乗っていたのです」
「サーシャさん? 君の孤児院の先輩だったね」
「はい。それでさっきサーシャさんに聞いたのですが、《アクラ》の船内にプリンターがあるのを見たというのです」
やはりそうか。
「《アクラ》には日本人はいたかい?」
「はい。ナルセさんと、ヤナさんと、それと後二人」
矢部と古淵だな。やはり乗っていたか。
「矢部と古淵という名前じゃなかったかな?」
「そうです。それと、その……ヤベという人が……サーシャさんに……エッチな事を……」
こんなところまで来てセクハラを……病気だな……
「私も、リトル東京にいた時は、矢部さんには散々やられましたから……」
芽衣ちゃんが思い切り嫌そうな顔をした。
「分かった。ミーチャ、キラありがとう」
僕はミールの方に顔を向けた。
「ミールは、何か分かったかい?」
「はーい。ダサエフを尋問したところ、リトル東京から盗まれたマテリアルカートリッジは、内海にある孤島に運び込まれたそうです」
「孤島?」
「ええ。島の名前はベイス島と言っていました」
「ベイス島の位置は分かるかい?」
「そこまではダサエフも知らないようです」
どこにある島か分からないけど、《アクラ》の中にレアメタルカートリッジがあればその島には行かなくて済む。
なかった時は、成瀬真須美たちから島の位置を聞き出すしかないな。知っていればだが……
「わかった。ありがとうミール」
Pちゃんの方を向いた。
「逃走中の帝国艦隊の位置は分かったかい?」
「現在の方で探してくれています。しばし、お待ちを」
Pちゃんがそう言い終わった時、扉が開き香子が入ってきた。
「香子。寝てなくて大丈夫か?」
「大丈夫よ。海斗。ちょっと疲れただけだから。それより、さっき《イサナ》から通信があったわ。その時にあんたに見せてほしいと、データが送られてきたわよ。衛星写真の様だけど……」
香子は芽衣ちゃんにデータカードを渡した。
受け取った芽衣ちゃんは、Pちゃんの頭からアンテナを外してデータカードを差し込む。
「それでは、P0371。映像を映して下さい」
「はい。芽衣様」
室内照明を暗くしてから、Pちゃんは壁にレーザーを照射してプロジェクションマッピングを映し出した。
そこに映ったのは……え?
裸の男たちが絡み合っている漫画……
いかん!
「見るなあ!」
映像を見入っているミクとミールの目を僕は慌てて手で塞いだ。
「カイトさん。なぜ目隠しをするんですか?」「お兄ちゃん。いいところなのに……」
「ダメだ! これは18歳未満閲覧禁止!」
映像を見て茫然としていた香子は、ハッと我に返った。
「キャー! カード間違えたあ!」
香子は、Pちゃんの頭からカードを乱暴に抜き取った。
「香子様。そのように乱暴にカードを抜き取っては、中のデータが壊れてしまいます」
「いいのよ。こんなデータ消えちゃって……て言うか、消して! 消滅させて! 積み荷を燃やして!」
香子は乱暴にカードを床に叩きつけてから、別のカードを差し込んだ。
「か……海斗! 誤解しないでね。このカードは私のじゃないのよ。相模原さんが、シーバ城を脱出する時に忘れていった物だから……」
「香子……その……僕は何も見なかったから……」
見たけど、見なかったことにしよう。それが平和のためだ。
そうしている間に、Pちゃんは別の映像を壁に映していた。
今度は間違えなく衛星写真。
カルカの近くを流れている大河が映っている。
「ミール。この川の名前は?」
「マオ川です。内海に通じている川ですよ」
マオ川の一ヵ所に赤い矢印があった。
「Pちゃん。矢印の辺りを拡大して」
「はい。ご主人様」
映像を拡大すると、停泊中の船団が映った。帝国艦隊だ。ほとんど木造帆船だが、その中に一隻だけ小さな装甲艦がいる。
ミーチャの描いた船を上から見ると、こんな感じだ。
という事は、この船が《アクラ》に間違えないな。
「Pちゃん。この映像はいつ撮られたもの?」
「今から、三十五分前です」
では、まだここにいるな。
映像を動かすと、町が映っていた。
どうやら、川の途中にある港町に停泊しているようだ。
「あれ? ここは……」
「レイホー。この町を知っているの?」
「ここはマオ川の途中あるロータスという港町ね。何度か行った事あるよ」
ロータス!?
「《水龍》と《海龍》の速度で、ここまでどのくらいかかる?」
「だいたい、巡航速度で十八時間ほどね。行くなら、母さんの許可取ってくるけど、どうする? 出航準備にも時間がかかるから急いだ方がいいね」
「分かった。頼む」
「じゃあ私、出航準備してくるね」
レイホーが部屋から出ていく。
「海斗」
香子に呼ばれて振り向いた。
「そのデータが送られてきた時に聞いたのだけど、あいつが、電脳空間から出てくる気になったわ」
「あいつって?」
「あんたよ」
「え?」
「電脳空間のあんたが……」
電脳空間の僕が? どういう心変わりだ?
「カトリさん! 本当ですか!?」
横で聞いていたミールが目を輝かせる。
「ええ、本当よ。ミールさん」
ミールが僕の背後から抱くついてきた。
「じゃあ、このカイトさんは正式にあたしのですね」
「ええミールさん」
香子は、芽衣ちゃんの方を振り向いた。
「芽衣ちゃん。聞いての通りだから、P0371に入れたあのプログラムは解除して」
それを聞いて芽衣ちゃんは慌てた。
「きょ……香子さん。なぜ虫除けプログラムの事を……」
「さっき、電脳空間の芽衣ちゃんに聞いたわ。私のためにやったのは、嬉しいけど。知ってしまった以上、そんな恥ずかしいプログラム放置できないでしょ。解除して」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんさない!」
「それはいいから、プログラムを……」
「ごめんなさい! 解除できないんです」
「どういう事?」
「香子。実は……」「カトリさん。実は……」
僕とミールで代わる代わる香子に説明した。
「暴走した?」
「ああ。虫除けプログラムを解除した途端に僕に抱きついてきて……」
香子は大きくため息をついた。
「ミールさん。悪いけど、私の分身が今後も迷惑かけるけど、許してあげてね」
「仕方ないですね。まあ、ライバルは他にもいますから、Pちゃんがいてくれた方がいいかもしれません」
「あのさ、香子……電脳空間の僕は、なぜ出てくる気になったの?」
「分からない。でも、どうもレムに興味を持ったみたい」
レムに?
「じゃあ、私は《イサナ》にカートリッジを送る手配をするから」
香子は部屋から出て行った。




