潜水艦《海龍》
目をこすってみたが、やはり潜水艦が二隻ある。
なぜ増えた? いや、僕にとっては好都合だが……
「お兄さん。こんなところで、何してるね?」
ぼうっと見ていたら、背後から声をかけられた。振り向くとレイホーが立っている。
「レイホー。ちょっと《水龍》を見に来たのだよ。今回の事に使えないかと……」
「カートリッジ奪還作戦の事? 《水龍》を使うのは全然かまわないね」
「それは助かるのだが……ただ、作戦にはロボットスーツを二機持って行きたい。《水龍》に着脱装置を積める余剰スペースはないかと思って見に来たのだけど……潜水艦が、なぜ増えているの?」
「ああ! 遠征に行っていた《海龍》が帰って来たね」
「《海龍》?」
「《水龍》の同形艦ね。《海龍》も必要なら使っていいよ」
「それは助かるけど……それって、レイホーが決めていい事なの?」
「私に権限ないけど、お父さん助けるためなら、みんないいって言ってくれるはずだよ」
「そうか。ところで《海龍》は、今までどこに行っていたの?」
「帝国軍が来る前に、リトル東京を探しに出ていたね」
「カルカの人達は、前からリトル東京がある事には、気が付いていたのかい?」
「ナーモ族の商人から、北の方にそんな町ができたという話は以前から聞いていたね。《イサナ》の人達が降りてきたのではないかとみんな思っていたけど、そこまで行くには帝国領を越えなきゃならないね。だから、迂闊に探しに行けなかったね。だけど、香子さんと芽依ちゃんが来て、リトル東京の存在がはっきりして、しかも内海を通って行ける事が分かったね。だがら、カルカシェルターが包囲される前に、《海龍》を出航させたね」
「それが帰ってきたという事は、リトル東京との往復に成功したのか?」
レイホーはニッコリと頷いた。
「さっき、無線連絡があったばかりね。リトル東京を見つけたね」
潜水艦《海龍》のハッチが開いたのはその時。
中から乗組員が降りてくる。
東洋人の乗組員に混じって、一人だけ西洋人女性がいた。
歳の頃は四十代の金髪美女。エラのせいで金髪美女はトラウマになってしまったが……彼女は優しそうな顔をしている。
レイホーが彼女に向かって手を振った。
「アーニャさん! おかえり」
アーニャ!? という事は、彼女がアーニャ・マレンコフ?
アーニャも親しげに手を振り返す。
レイホーとの関係は良好そうだな。
という事は、章 白龍と修羅場になったわけではないのか?
いや、そもそも話を聞いた限りでは、二人は良い仲にはなっていたけど、別に恋人になったわけではない。
キスだって、事故だし……
「ただいま。レイホー。そちらのハンサムは?」
ハンサム? 誰の事だ? わ!
いきなりレイホーが僕の左腕にしがみ付いてきた。
「私の彼氏ね」
ちょ……ま……いきなり何を……
「そ……そうなの」
いや……アーニャさん。嘘だから……
「レイホー」
その声は潜水艦の甲板からだった。船長の帽子をかぶった中年女性がそこに立っている。
その女性にレイホーは微笑みかける。
「馬艦長、おかえりなさい」
馬艦長? ひょっとして彼女が馬 美玲?
「ただいま、レイホー。それはいいとして、今言った事が事実なら仕方ないとして、冗談なら、今すぐ止めた方がいいわよ。危険すぎるわ」
「え? 危険って? 何が?」
「いくらあなたが功夫の達人でも、四人一度に相手はできないんじゃないの?」
え? まさか!?
後を振り向いた。
うわわわわわわ!
Pちゃん、ミール、ミク、芽衣ちゃんが怖い顔でこっちを睨んでいた。
レイホーも慌てて僕から離れた。
「カイトさん。あたし達にいろいろ頼みごとをしておいて、その間にレイホーさんと何をしていたのです?」
ミールの手には、分身の憑代に使う木札が握られていた。
「よせ! ミール! 誤解だ!」
「レイホーさん」
芽衣ちゃんが、レイホーの前に迫る。
「レイホーさん。やっぱり、逆NTRするつもりだったのですね」
「め……芽衣ちゃん。今の冗談ね……」
ミクが僕の前に進み出た。その手には、式神の憑代に使う人型が握られている。
「お兄ちゃん」
「ミ……ミク……誤解だ! だから、ここでアクロを呼び出すな!」
ミクは不意にニコっと笑ってから。憑代を地面に叩きつけた。
「出でよ! 式神!」
うわわわわ!
思わず目を瞑った。
「お久しぶりです。北村海斗様」
この声は?
目を開くと、僕の足元にウサギ式神の赤目がいた。
「赤目? ここしばらく、姿を見なかったけど……」
「僕は普段、姿は見えませんが皆様の近くにいるのですよ。今回は、主の命令で北村海斗様の後をつけていました」
なんだって?
「ですから、北村海斗様の潔白は僕が証明できます」
よかった。
赤目のおかげで、何とか誤解は解けたが……
「お兄ちゃんに、その気がないのは分かったけど……」
そう言って、ミクはレイホーの前に出る。
「レイホーさん。通路でお兄ちゃんの後をつけていたのは、どういうつもり?」
え? つけられていたのか?
「いや……別につけてないね。ただ、お兄さんが前を歩いていただけね」
いや、それ完全に尾行だから……
「いや……私はただ、港を向かっていたら、お兄さんが前にいたので」
「ここでカイトさんに会ったのは偶然だという事は分かりました。でも……」
今度はミールが僕の右腕にしがみついてきた。てか、胸が当たってる!
「カイトさんに、こういう事をしていい女は、あたしだけですから……」
「あたしだって、権利あるもん……」
左腕にはミクがしがみついて、胸を押しつけてきた。全然膨らんでいないまな板胸なので嬉しくないのだが……よせ! 僕を犯罪者にする気か!
「あなた達にも権利はありません。香子様が、病に臥せっているのをいい事に、ご主人様に手を出すんじゃありません!」
Pちゃんが乱入して、ますます自体が泥沼化……誰か助けてくれ。
…
……
………
「こちらが、貨物室になります」
馬 美玲の案内で、僕達が《海龍》に入ったのは、それから三十分後の事だった。
みんな物珍しげに《海龍》の中を、見回している。
一人ミクだけが、気持ち悪そうな顔をしていた。
「ミク。辛いなら、外で待っていていいんだぞ」
「辛くないもん!」
「そ……そうか」
それにしても、この潜水艦……ずいぶん中が広いな。
これだけ広ければ着脱装置二台積めそうだけど……
「艦長さん。《海龍》は《水龍》の同型鑑と聞いているのですが、それにしては中が広いですね」
「これが本来の広さです。《水龍》は特殊な改造を施してあるので、狭くなったのですよ」
「特殊な改造?」
「垂直上昇用のロケットエンジンをつけたのです」
「そ……そういえば、なんで潜水艦にロケットエンジンなんかつけたのですか?」
「はあ。なんでも設計者が言うには、魚雷から防御にするのには、水上に飛び上がるのが最も確実だとか……」
その設計者……沈○の艦○読んでいたな……




