脱出
『百十一、百十、百九』
カウントダウンが進む。
「ミール。縛った人達を、解放してくれ」
「いいのですか?」
「戦いは終わった。これ以上、殺す必要はない」
「そうですね」
四人の分身達は、艦橋内で縛り倒されている帝国兵の縄を切っていった。
「俺の手錠も外してくれよ」
矢納さんの方に視線を向けた。
「あなたはダメです」
「なぜだあ! おまえ、憎悪は捨てたのだろ! あれは嘘か!」
「憎いから殺すのではありません。僕が死にたくないので、僕の命を付け狙うあなたを殺すのです」
「分かった! 俺も、おまえへの憎悪は捨てる」
「それを僕に信じろと」
「信じろ」
「無理です」
「……」
そうしている間に、残り時間が八十秒に。そろそろ僕らも脱出しないと……
ショットガンで窓ガラスを割り、脱出口を作った。
「芽衣ちゃん。行くよ」
「はい」
「待て! 北村。俺をここに置いていく気か?」
矢納さんを一瞥した。嫌な人だけど、やはり直接手を下すのは嫌なものがある。
ここに置き去りにすれば、勝手に死んでくれる。
情報を聞き出そうかと思ったけど、どうせたいして重要な事は聞き出せそうにないし……
「矢納さん。連れて帰っても、最後はあなたを僕の手で殺す事になります。それなら、ここで死んでも同じでしょう。僕もできれば自分の手は汚したくないので」
「待て待て! 俺は飛び切りの情報を持ってるんだ」
「飛び切りの情報?」
「聞きたくないか?」
ううむ……そんな事を言って、ガセネタを掴ませるつもりかもしれないし……というか、この人の事だから、九十九%ガセだろうな。しかし、もしかすると……そうだ! 連れ帰って、ミールに分身を作ってもらえれば……
「いいでしょう。あなたを殺すのは、情報を聞き出してからです」
「へへ。恩に切るぜ」
まあ、本音は隙を見て逃げようと言う魂胆だろうけど……
矢納さんの手錠に手を伸ばしたその時。
「うぐ!」
突然、矢納さんの顔が苦痛に歪む。
そのまま、前のめりに倒れた。
「矢納さん」
返事がない。見ると首の後ろに人形のような物がしがみ付いている。
これは!?
人形はむくりと起き上がった。いや違う、人形じゃない。人型ドローンだ!
「この船にも、ドローンを数体隠しておいたのよ」
この声は! 成瀬真須美!
「北村君。約束は守ってもらわないと」
「殺す前に、尋問はしないとは言ってませんよ」
「そうだったわね」
「成瀬さん。矢納さんに何をしたのです?」
「毒針を刺したの。でも、公式には君が殺した事にしておいてね」
「なぜ? エラはともかく、矢納さんは英雄でもないでしょう」
「知っているでしょ。矢納はまだ二人いるの。私に殺されたと知ったら、残りの二人から警戒されちゃうでしょ」
「シンクロニシティで、分かってしまうのでは?」
「だから、背後から刺したの。他の二人がシンクロニシティで、この事を知っても、何が起きたのか分からないでしょうね」
確かに。
「それより、時間が無いわ。早く脱出して」
言われなくても脱出するさ。
僕と芽衣ちゃんは、無言で艦橋の窓から飛び出した。
程なくして、水上航行している《水龍》の姿を見つける。
その甲板上では、ミールが手を振っていた。
その足元では、ミクが蹲っている。
《マカロフ》が爆発したのは、僕達が《水龍》の甲板に降りた時。
一キロぐらい離れたのに、かなり大きな轟音が聞こえてくる。
《マカロフ》の船体は真っ二つに折れて、瞬く間に水中に没した。
「うええ、気持ち悪かった」
ミクは、甲板の上で大の字になっていた。
「ミク、大丈夫か?」
「死ぬかと、思った。もう潜水艦はいやだよう」
ミールの方に目を向けた。
「ミールは大丈夫だったの?」
「あたしは元々、船には強いですから……でも、進路反転百八十度は二度とゴメンです」
だろうね。
さてと……
僕は艦橋から持ってきた人型ドローンを甲板に下ろした。




