恐るべし……鮭鮫鱈鯉システム……
飲酒運手はダメ絶対
メインモニターに、新たなメッセージが表示された。
『運転手の酒気を感知しました。全機能を停止します』
なんですとう!?
「ご主人様……まさか、お酒を飲んでいたのですか?」
「ちょ……ちょっとだけだよ」
「信じられません。お酒を飲んで運転するなんて、人でなしのやる事です」
「そ……そこまで言わなくても、ほんの一杯……いや、二杯だけだし……」
「二杯が、ちょっとと言えるのですか?」
「ちょっとだと思う……たぶん」
「まったくもう! それにしても、困りましたね。鮭鮫鱈鯉システムが発動してしまうとは」
「鮭鮫鱈鯉システム? なんだ、そりゃ?」
「運転手の酒気を検出すると、車の機能をすべて止めてしまうシステムです」
「なんで、そんなシステムが?」
「ご主人様がデータを取られてから十年後、今後製造する新車には、これを装備するよう自動車メーカーに法律で義務化されたのですよ」
「ところで今、すべて止めてしまうとか言ってたけど……モーター以外の機能もだめって事かな?」
「そうです。これが一度発動すると、カーステレオもカーナビもエアコンも止まります」
「それ酷すぎだろ」
いや、酒気帯び運転しようとした僕が悪いわけだが、それにしたって止めるならモーターだけにすればいいのに……
なんで日本のメーカーは、こういう無駄機能つけるんだ。ヘッドライトをつけると、カーナビのバックライトが消えるなんて迷惑な機能もあったな。
「ご主人様。これを」
Pちゃんがキーボードを差し出した。
「キーボードなんか、どうするんだ?」
「これで、反省文を打ち込んで下さい」
「反省文?」
「『お酒飲んで運転しようとしてごめんなさい。二度としません。許して下さい』と百回書き込むのです。そうすれば、モーター以外の機能は回復します」
「なんで、そんな事を?」
「運転手の反省を促すためです」
「Pちゃん、代わりに打ってくれないかな……」
「無駄です。私が打っても、車載コンピューターには見破られます。ご主人様が、心を籠めてキーボードを打たない限り、機能は回復しません。後、コピーペーストもだめですよ」
恐るべし……鮭鮫鱈鯉システム……
「これをしないと、絶対回復しないのか?」
「何もしなくても、五時間すれば全機能回復します」
「じゃあ、五時間寝てるよ」
僕は、車のドアを開いて降り掛けた。
「ご主人様。言い忘れましたが、バッテリーからの電力供給も止まっています。ですから、今は冷蔵庫が止まっているのですよ。五時間も止めておくと、中の食材がダメになる危険があります」
「うおおお!!」
「カイト、ドウシタノ?」
エシャーが、不思議そうに僕を見ていた。
事情を話すと……
「ソレ、カイト、悪イ」
お前まで、そんな事言うのかあ!!
「私タチモ、オ酒飲ンダラ、空飛ンデハダメ、掟アル。オ父サン、前ニ、ソレ破ッテ、長老ニ怒ラレタ」
「ああ、もう分かったよ! 打てばいいんだろ! 打てば……」
僕は運転席に戻りキーボードを受け取った。
「ああ、そうだ。エシャー」
「ナアニ?」
「車は、しばらく動けない。レッドドラゴンの肝臓は、君が届けてくれないかな?」
「イイヨ。デモ、カイト、来ナイト、カイトガ何欲シイカワカラナイ。アタシニ乗ッテイク?」
「いや、僕はここを動けない。Pちゃんを連れて行ってくれないか? ああ、でも重いかな?」
「失礼ですね。私は超軽量素材で作られています。ご主人様より軽いですよ」
エシャーがPちゃんを乗せて飛び立っていった後、僕はひたすらキーボードを打ち続けていた。
残りはいくつだ?
メインモニターに『残り三十三。頑張って反省して下さいね』と表示された。
イラつく。
こんなに延々と文章書き続けるのは、卒業研究以来だな。
辛かったが、あれはあれで楽しかった。
こんな心にもないことを延々と……いやいや……同じことを百枚も書くなんて苦痛でしかない。
ようやく、最後の一つを書き込むとメインモニターにメッセージが表示された。
『反省文受理しました。モーター機能以外のロックを解除します。お疲れ様でした』
ふひー! 疲れた!!
『なお、モーター機能のロックは四時間後まで解除されません。酒醒めたら来い』
エアコンが動き出した。
この周辺は地球の亜熱帯気候なので、エアコンがないとかなりきつい。
反省文を打ってる間に、すっかり汗だくになってしまった。
水浴びしてこよう。
車を出て、少し歩いたところに清流が流れている。
川幅は十メートルほどだが、かなり深い。
さて、誰も見ていないな?
いるわけないか。地球じゃないし……
日本で裸になって川で泳いだりなんかしたら、たちまち警官がやってくるところだが……いや、ここは、ここで気をつけないと。
映画『猿の惑星』の宇宙飛行士たちは、泳いでいる間に服を盗まれてしまったからな。
ウエストポーチからドローンのコンローラーを出した。
警戒のために、昨日から飛行船タイプのドローンを飛ばしていたのだ。
コントローラーのモニターにドローンカメラの映像を出した。
鬱蒼とした森が映っているだけ。
念のため赤外線画像を重ねてみた。
川の近くに赤外線源が一つ。
これは僕だな。
ん? よく見ると赤外線源が二つ?
あまり近すぎて、一つに見えたんだ。
映像拡大。
横へ一歩動いてみる。
映像の赤外線源が同じ様に動く。
これが僕だとすると、背後一メートルほどのところにいる赤外線源は誰?
てか、いつの間にこんな近くに?
これって『わたしメリーさん。あなたの後にいるの』とかいうやつ……?
いやいやいや……怖すぎるだろ……
とにかく、背後に誰かがいる。
今のところ、そいつは僕に察知された事には気が付いていない。
僕は平静を装って、コンローラーをポーチに戻した。
代わりにピストルを取り出す。
前へ向かって大きくジャンプ。
着地と同時に振り返り、ピストルを構える。
「誰だ!!」
ん? 誰もいない。
いや、いた。
地面に人が倒れている。
フード付きの白い貫頭衣を着ているが、その背中には僕の物と思われる足型が……
そ……そういえば、さっき何か柔らかい物を踏んだような……




