ミクの失踪
『え? あたしなら、ここにいるよ』
キョトンとした顔で、そう言ったのは電脳空間のミク。
「そうじゃなくて……」
『ああ! あたしのコピーがいなくなったのね。それなら、そう言ってよ』
いや、普通言わなくても分かるだろう。
今朝、目を覚ましてPちゃんと食堂に行くと、ミールもキラもダモン一家も揃っていた。
しかし、ミクだけいなかったのだ。
もう朝食を済ましたか? とミールに聞いたら、まだだという。
部屋へ行ってみると、鍵は開いていて、部屋はもぬけの空。
宿の主に聞いてみたところ、明け方頃に宿から出ていくミクの姿を使用人の一人が見ていたらしい。
通信機で呼びだしたが、通信機は部屋に置きっぱなし。
電脳空間の僕と違って、ミクとは昨日初めて会ったばかり。
行動パターンなんか分かるわけがない。
ミクの考えている事が一番分る者。
ミク本人に聞いてみようと、母船に通信をつないだわけだ。
『ああ! それ心配ないよ』
僕の心配をよそに、プロジェクションマッピングに映ったミクは、あっけらかんとしている。
『それ、朝のお散歩だから』
「散歩?」
『朝ごはんの前に、お散歩するのがあたしの日課なの』
「しかし、朝ごはんの時間は過ぎているぞ」
『変ねえ、いつも朝ごはんの前には、帰っているのに……』
「迷子になったんじゃないのか?」
『それはないよ。あたしが帰り道分からなくなっても、赤目が道を覚えているから』
という事は……
「誘拐!?」
『あ! それかも……だってあたしって、美少女だし……』
自分で言うなよ。
とにかく、誘拐されたのなら大変だ。
身代金目当てならまだいいが、これが変態ロリコンの仕業なら一刻も早く見つけないと……
ダモンさんの話では、この町にも警察のような組織はあるらしい。
だが、あまり当てにはならないという。
自分達で探すしかない。
僕は、Pちゃんとミールを連れて町へ繰り出し、キラとダモンさんにはミクが戻ってきた時のために宿に残ってもらう事にした。
しかし……
「確か、町から人が逃げ出していると聞いていたけど……」
周囲を見回すと、かなり多くの人がいる。
少なくとも、僕がこの惑星に降りてから通ってきたどの町や村と比べても人が多い。
「あたしもよく分かりませんが、ダモン様の話では、これでも人が少ないそうです」
これでも少ない方なのか。
だが、この中から一人の女の子を探し出すのは、かなり難しそうだ。
人種もいろいろといる。
ほとんどがナーモ族だが、それも北方系と南方系で毛色が違う。
二足歩行のトカゲ人の一団とすれ違った。
ミールの話では、あれがプシダー族だそうだ。
名前は聞いていたが見たのは初めて。
「カイトさん、プシダー族を刺激しないように気を付けて下さい」
「なぜ?」
「帝国の現在の領土は、元々プシダー族の国があったのです。だから、プシダー族の帝国への憎しみはナーモ族以上です」
「しかし、僕は日本人……」
「分かっています。ですが、プシダー族の目からは、帝国人と日本人を見分ける事ができません。ひどいのになると、ナーモ族と地球人も見分けられないのです」
「それは、まずいな」
そう言えば、すれ違う時に睨まれているような気がした。
地球人も少なくない。
ほとんどが帝国人だが、東洋系もいる。
という事はカルカ王に仕えた地球人というのは、やはり《天竜》の人達だろうか?
「カイトさん」
ミールが一軒のカフェを指差していた。
カフェにミクがいるのだろうか?
しかし、あの子、この国のお金は持っていたかな?
「あの店が、どうかしたの?」
「素敵なカフェです。寄って行きません」
「あのねえ!」
「ご主人様」
Pちゃんが一軒の服屋を指差していた。
「どうした?」
「素敵なワンピースです。買っていただけませんか? 私、メイド服しかなくて……」
おまいもかい!
「二人とも……今は、それどころじゃ……」
「すみません、カイトさん。つい浮かれて……」
「まあまあ、ご主人様。ここは考えようです」
「何が?」
「私達が追っているのは若い女の子。つまり、私やミールさんの気を引くような店には、ミクさんも興味を示すと思うのです」
「なるほど」
「もしかすると、立ち寄ったかもしれません。そこで、店で聞き込みをしてみてはと思うのです」
確かに、闇雲に探し回るよりはその方がいいな。
「ですが、ただで聞いたのでは、店の人はいい顔をしてもらえません。そこでその店の商品を購入、またはサービスを受けて、その時に『こんなの子知りませんか?』と聞くのです。これなら、効率よく情報を集められます」
「Pちゃん、いいアイデアですわ」
そうだろうか? やたら、出費が嵩むような気がするが……
「では、さっそくカフェへいきましょう」
「いえ、私の服が先です」
「カフェ!」
「服!」
「ああ、もういい! じゃあ、ミールはカフェで待っていて。その間に僕は、Pちゃんと服を選んでいるから」
「それはないです。それなら、あたしも服を見ていきます」
結局、三人で服屋に入った。
「キャー! このスカート素敵」
「この帽子どうでしょう? 似合いますか?」
こ……こいつらは……聞き込みはどうした!?
「どれもお似合いですよ。お客さん」
女店員が、愛想笑いを浮かべて寄ってきた。
仕方ない。聞き込みは僕が……
「あの……すみません」
僕は女店員にミクの写真を見せた。
「この店に、こんな子が来ませんでしたか?」
「あら? この子なら今朝、店の前を通りましたよ。白い動物を連れて」
こんなに早く手掛かりが見つかるとは……
「Pちゃん! ミール! ……ん?」
二人は何処だ?
「お連れさんなら、試着室ですが」
肝心な時に……しかし、試着室では乗り込んで連れ出すわけには……
「ご主人様。どうでしょうか? この服」
試着室から出てきたPちゃんは、白い清楚なワンピースを身にまとい、白いつば広の帽子を頭に乗せ、いかにもお嬢様と言った出で立ちだった。
か……可愛い! いかん! 見とれている場合では……
しかし、ここで誉めないと拗ねるだろうな。
「か……可愛いよ。Pちゃん」
「嬉しいです。ご主人様。買っていただけますか?」
「う……いくら?」
後ろで揉み手している店員に尋ねる。
「大負けに負けて、金貨一枚と銀貨二十枚です」
た……高い
財布を開く。
ミールにレッドドラゴンの肝臓を買ってもらった時の金貨はかなり減っていた。
シーバ城攻めの時に大量の気球を作ったり、スライム対策に塩を大量に買ったりしたからな……
「ご主人様ダメです」
え? 買わなくていいの?
「言い値の通り、お金を出す人がありますか。ここは値切るのです」
無茶言うな!
この惑星に来て、かなりコミュ症は改善できたが、値切りなんて高度な交渉術は無理だ。
「すみません。ご主人様には無理でした。では私が……」
Pちゃんと店員の間で約一分間交渉の末、銀貨四十五枚まで値引きしてもらった。
「カイトさん。お待たせしました」
試着室のカーテンから、ミールが顔だけヒョコッとのぞかせた。
頭に被っている赤いベレーのような帽子には専用の穴があって、そこから猫耳がニョキッと伸びている。
「どうです? これ」
そう言って、カーテンを開いて出てきたミールは、青いデニム……のような布製のミニスカートを穿き、上には短すぎるシャツをまとっている。
ようするにへそ出しルックだ。
ヤバイ! 目のやり場が……
「と……とても似合っているよ」
「嬉しいです!」
二人は今までの服を手提げに入れ、今買った服を着て店を出た。
店員から僕も買わないかと誘われたが、丁重にお断りしておいた。
「え? あの店の店員さんが、ミクさんを見ていた。チチイ、まさか一店目で、当たるとは……」
「Pちゃん。今、舌打ちをしなかったか?」
「と……とんでもない。ロボットが舌打ちなんて」
「でも、感情はあるんだよな」
その質問に答えず、Pちゃんは明後日の方を向く。
やはり、情報収集にかこつけて買い物をねだる気だったな。
「あの、それじゃあカイトさん。カフェの方は?」
「ミクの手掛かりが見つかったからパス」
「そんなあ」
「わかった! わかった! ミクが見つかったら、みんなで行こう」
「はーい」
疲れる。
「そこのお兄さん。饅頭買っていかない?」
チャイナドレスの女の子に呼び止められたのは、服屋を出てから百メートルほど歩いた時。
可愛い女の子だが、ここは無視。
饅頭なんぞ、食っている場合では……饅頭?
なぜ、この惑星に饅頭が?
女の子の方を振り向いた。
「君は!?」




