やり過ぎでも気にしない
謎の多い魔物の襲撃で、ラズク村での周辺探索は打ち切られた。
領内に魔物が出るかもしれないとあれば、辺境の村に人出を割くことを侯爵が嫌ったためだ。
ベルク商会も打撃を受けた事で、当分は商会の出店したサンドラの宿屋にのみ荷を運ぶ程度になった。
静かな僻地の村に戻ったのを喜んでいたラズク村の人達だったが、次第に生活必需品が不足し困るようになる。
無償に近い形で雑務をこなしてくれた冒険者達もいなくなり、不便さに不満を募らせるようになった。
薪も無料で提供していたガウツのかわりに、領兵隊の兵士達が不満そうに集めていた。
彼らが去ったためラズク村の人達は危険な可能性の高い柵の外に出て、薪を集めに行く羽目になった。
次々に起こる不便さの連鎖の原因は、サンドラの宿屋に住む娘のせいだと誰かが言い出した。
山小屋に住んでいたガウツという男の娘というが、ガウツ自身も素性は定かではない。
村人にとって不満のはけ口になればよく、ベルク商会の寵愛を一身に受ける娘への八つ当たりの負の感情は日増しに高まっていた。
「アリル、行くのね」
わたしはようやく立ち直り、冒険者として再出発するアリルに声をかけた。
ベッタとナークはすでにサラスナの町へ向かい、ベルク商会の専属になった。
ニルトが亡くなり『鋼鉄の誓い』は解散となったため、アリルは単独で行動すると決めたようだ。
「しばらくは一人で旅してみるよ」
アリルの腰にはニルトの鋼鉄の剣が差してある。
「おかげで少し前を向いて歩けるわ」
わたしはアリルが泣きたい時に寄り添っただけだ。
それでわたしも助かったので、お互い様というとアリルも頷く。
「それで、私が旅に行く前に何か話しがあるって言ってたよね」
旅立つアリルにわたしは贈り物をするつもりでいた。
「まずはニルトの剣からね」
わたしはニルトの形見の剣に聖なる光を宿す。
魔法生物に対して強い効果を発揮するため、魔法生物の一種の不死の魔物にも有効だろう。
自動で魔力を回復し、アリルに体力回復効果をもたらす。
一見ただの鋼鉄の剣にしか見えず、アリルしか特殊効果は使えないよう制限した。
「それからネックレスね」
昔、ニルトからわたしとお揃いで買ってもらったものだ。
これには探知と警戒と結界を付与する。
範囲はアリルを中心に球体で街一つ分くらい。
結界は低レベルの高魔物や人が相手でも悪意や殺意を弾く。
アリルの認識や魔力で精度も強度も変わる。
「レーナ?」
探知が発動したせいか、わたしが何か魔法をかけているのだけはわかるのでアリルが戸惑う。
「次は指輪」
わたしは指輪の一つに対物理、対魔法障壁と 気配遮断それに透明化をつけた。
これは剣と対になっていて、物理や魔法の効かない相手にもダメージが通る。
女の一人身は危険だから休む時に少しでも身を守るために必要だった。
「こっちの指輪には収縮のコンテナハウスね」
収縮魔法と転移魔法と時空魔法といくつかの魔法の概念を合わせた収納魔法だ。
身だしなみを整える美容品や衣服や貴重品、武器や防具、食料品や水など、サンドラさんの宿屋くらいのものが収納出来る。
そして切り替えると、獲物を収納するコンテナとなる。
『鋼鉄の誓い』で収縮の魔法を使ってから色々と考えて作ってみたのだ。
「レーナ?なんかゾワゾワするんだけど?」
探知に村人の悪意が届いたのかもしれない。
「あとはこの腕環ね」
わたしはアリルに腕環をつけ、魔力をこめる。
数珠繫ぎの玉石で、死に至るような攻撃や魔法を一つにつき一回防ぐ。
二十二個あるので二十二回は生き返る事になる。
めちゃくちゃだけど、もうやるの。
そう決めたの。
本当は魔法攻撃も出来るようにしたかったけど、アリルが魔力切れになって怒られそうだからやめた。
とにかくアリルは死なせない。もっと勉強して、守りは特化させたい。
「また戻って来た時に調整するから、今はそれで我慢してね」
わたしがそう言うとアリルは納得しないままわたしを抱きしめ旅に出た。
アリルが銀級、そして金級へと至るのはそれ程遠くない未来だった。




